第16話 休日のサービスエリア
日曜日。
抜けるような青空の下、俺がハンドルを握るワンボックスのレンタカーは、郊外から都心へと続く高速道路を滑るように走っていた。
助手席には、普段の会社でのグレーのスーツ姿とは打って変わって、地味な色合いの私服に身を包んだ網代真緒菜が、ガチガチに緊張した面持ちで座っている。本日の撮影会が無事終了して帰路につく車内だが、彼女の顔と髪は先ほどの派手なメイクアップとヘアメイクが終わったままの状態であり、そのアンバランスさが余計に彼女の所在なさを強調していた。
「どうしたんだい、網代主任。せっかくの撮影後のドライブなのに、そんなに固くなって」
「……いえ。なんでもありません」
俺がわざとらしく爽やかな声で話しかけると、真緒菜はビクッと肩を跳ねさせ、消え入るような声で答えた。
俺は『専属マネージャー』という絶対的な立場を利用し、彼女の休日のスケジュールを完全に押さえている。会社では俺をゴミを見るような目で見下し、理路整然と論破してくるエリート女が、今は俺の隣で、まるで借りてきた猫のように小さくなっている。
この圧倒的な主従関係の逆転。たまらない優越感だ。
やがて、休憩のサービスエリアの標識が見えてきた。
俺はウインカーを出し、本線から外れて広大な駐車場へとレンタカーを滑り込ませた。
休日のサービスエリアは、家族連れやカップル、ツーリングのバイク集団などで賑わっている。俺はあえて、トイレやフードコートに続く歩道に近く、人通りの多い駐車スペースを選んで車を停めた。
「さて、少し休憩しようか。網代は後ろの席へ移動してくれ」
「えっ……?ここで、ですか?」
「ああ。さっきの撮影で着た衣装、まだキャリーケースに入っているだろ?個人的にもう一度、着用感を確かめておきたいんだ」
俺がバックミラー越しに後部座席に積まれた大型のキャリーケースを顎でしゃくると、真緒菜の顔からサァッと血の気が引いた。
「そ、そんな……!こんな駐車場でまた着替えるなんて、無理です……っ!外には大勢人が歩いてるんですよ!?」
「何言ってるんだ。車の窓はスモークガラスになっているから、外からは見えないよ。それとも何か?君は専属マネージャーである俺の指示が聞けないのか?」
「いくらマネージャーの権限でも、こんな場所での着替えは常識的に考えておかしいです。もし誰かに見られたら、タレントとしての私の価値にも傷が……っ」
「別にいいよ。君がどうしても嫌だって言うなら、今すぐあの写真集の画像を……」
「わ、わかりました……!着替えます……っ、着替えますから……」
十八番の脅し文句を口にしかけただけで、真緒菜は涙目を浮かべて首を横に振った。
まだ多少抵抗はしてくるがほぼ完璧な服従だ。
真緒菜は屈辱に耐えるように唇をギュッと噛み締めると、逃げるように助手席から後部座席へと移動した。
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ワンボックスカーの広い後部座席。
始めは運転席に座ったまま、俺はシートを倒して振り返り、特等席でその光景を見下ろしていた。
真緒菜は周囲の窓から外を歩く一般客の姿が見えるたびにビクビクと怯えながら、キャリーケースを開けた。
カサリ、カサリと、衣擦れの音が車内に響く。
先ほどの撮影会で彼女が着ていたのは、深夜アニメ『黄昏のルナティック・ドール』に登場する、吸血伯爵令嬢カルミラの衣装だ。
「ほら、早くしろよ。休憩時間が無くなるぞ」
「あっ……見ないで……っ」
「マネージャーがタレントの着替えを確認するのは当然の業務だろう?会社での君みたいに、感情論ではなく正確なチェックが必要だからね」
俺の言葉責めに、真緒菜は耳の裏まで真っ赤に染め上げながら、震える手で地味なブラウスのボタンを外し始めた。
カサリ、と衣擦れの音が響き、彼女が上半身の服を脱ぎ去る。そこにあらわになったのは、抜けるように白い肌と、それとはひどく対照的な黒いレースの下着だった。
真昼の車内で男のねっとりとした視線に晒される羞恥からか、真緒菜は「あっ……」と小さな声を漏らした。彼女は身を縮め、脱いだばかりのブラウスを胸の前に押し当てるようにして、必死に肌を隠そうとする。
しかし、極度の緊張と怯えで手元が狂ったのか。
「あ……っ!」
隠れ蓑にしていた布地が、力のない指先からふわりと滑り落ちた。
無防備に晒されたのは、黒いブラジャーのカップから溢れんばかりに主張する、形の良い柔らかな双丘だ。普段の堅物なスーツ姿からは到底想像できない、豊満で美しい乳房。
俺の視線がそこに釘付けになると、真緒菜はハッとして両腕で胸元を隠し、ポロポロと涙をこぼした。
「うぅ……見ないで……っ、お願い……っ」
「隠すなよ。それもマネージャーの重要なチェック項目だからな」
俺が口角を上げて言い放つと、彼女は羞恥に全身を震わせながら、逃げるようにして真紅のドレスへと袖を通していった。
やがて、彼女が衣装を身に纏い、ゆっくりと顔を上げた瞬間――俺は思わず、無言で息を呑んだ。
そこにいたのは、会社での地味な堅物女でも、怯えきった哀れな同期でもなかった。
圧倒的な美貌と色気を放つ、夜の社交界を統べる妖艶な吸血鬼の女王だった。
深いスリットが入った真紅のベルベットドレスが、彼女の抜けるように白い肌と完璧なプロポーションを際立たせている。
胸元が大きく開いたブラックレースのコルセットは、彼女の豊かな胸の膨らみをこれでもかと強調し、網タイツに包まれた長い脚がドレスの裾から艶めかしく覗いていた。
首元には、黒のロングチョーカー。
すでになされている派手なメイクアップに引き立てられ、右目の目尻にある特徴的な二つの泣きぼくろが妖しく鎮座している。
……すごい。
写真で見ていた時も、前回のイベントのレザー衣装の時も圧倒されたが、この吸血鬼のドレス姿の破壊力は桁違いだ。
素人が趣味で作った服などではない。素材の質感、シルエット、装飾の細部に至るまで、完璧に計算し尽くされた一つの芸術作品だ。そして何より、それを着こなす網代真緒菜という素材そのものが、息を呑むほどに美しい。
俺は内心で、彼女のその芸術的な美しさに完全に惚れ直していた。
しかし、その感動は数秒後、さらに強烈などす黒い歓喜へと塗り替えられていく。
「……似合っているよ、網代。本当に極上だ」
「あ……ぁ……」
俺がねっとりとした視線で頭の先からつま先までを嘗め回すと、妖艶な吸血鬼の女王は、そのキャラクター設定とは裏腹に、怯えた小動物のようにビクッと肩を震わせた。
こんなにも美しく、気高く、誰もがひれ伏すような完璧な美術品。
それが今、俺の命令一つで、人目につく駐車場に停めた車の中で、羞恥に震えながら服を脱ぎ着しているのだ。
俺はこの極上の美術品を、誰にも知られず、俺の手だけで自由に弄び、そして壊すことができる。
ぞくり、と。
背筋を駆け上がるような嗜虐的な喜びに、俺の全身が身震いした。
「さあ、カルミラお嬢様。衣装の細部まで、俺にじっくりと見せてもらおうか」
俺は口角を限界まで吊り上げ、ドSとしての本性を隠すことなく、後部座席で震える美しい獲物に向けて決定的な命令を下す準備を整えた。




