第14話 役員会議
「……いいねぇ」
俺は声を出さずに唇の動きだけでそう伝え、満足げに頷いた。
真緒菜は弾かれたように急いでボタンを留め直し、机に突っ伏すようにして顔を隠した。耳の裏まで真っ赤に染まっているのが遠目からでもわかる。
周囲の誰かにバレるかバレないかという極限のスリル。
あのプライドの高いエリート女に、オフィスのど真ん中で自ら服をめくらせ、破廉恥な姿を晒させる屈辱。
俺の胸の奥で、自分が彼女のすべてを完全に操っているという全能感が爆発的に膨れ上がり、脳髄が痺れるような悦びに包まれた。
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午後十四時。
本社最上階、重厚なマホガニーのテーブルが鎮座する第一会議室。
室内には東都フーズの役員陣と、第一開発部および第二開発部の幹部たちがずらりと顔を揃え、重苦しい静寂が漂っていた。
「――以上が、亜久嶋主任が立案した次期主力商品『クイック・シェフ』シリーズにおける、競合他社との成分比較およびターゲット層の購買予測データです。原価率を〇・五パーセント圧縮しつつ、品質を向上させるためのパッケージングの変更案も併せてご提案いたします」
プロジェクターの光を背に受けながら、真緒菜は堂々とした態度で完璧なプレゼンをこなしていた。
ポインターを握る手には一切の迷いがなく、感情を交えない理路整然とした説明は、厳しい役員たちをも深く頷かせている。
「うむ。亜久嶋主任の斬新な企画を、網代主任の分析が見事に裏付けているな」
「物流費の変動リスクも完全にカバーされている。二人の連携はさすがだ。これならいけるだろう」
役員たちから称賛の声が上がる。
第一開発部の連中も、悔しそうにしながらも反論の余地がないようだった。
同席している俺も、表面上は「さすがうちのエースだ」と誇らしげな笑みを浮かべていた。
だが、俺の内心は全く別の、どす黒い歓喜で満ち溢れていた。
役員どもは、目の前で完璧なプレゼンをしているこの女の「本当の姿」を何も知らない。
この女が今、そのグレーのスーツとブラウスの下に、胸元が大きく開いたネオンピンクの超ハイレグのレオタードを着込んでいることを。
堅苦しい顔で数字を並べ立てながら、その実、股間にはサイバー系の過激な衣装の布地が食い込み、肌に密着していることを。
俺だけが、この部屋で唯一、その事実を知っている。
「……それでは、質疑応答に移らせていただきます」
真緒菜が深く一礼し、顔を上げたその瞬間。
彼女の視線が、ふと会議室の隅に座る俺の視線と真っ直ぐに交錯した。
俺は、彼女の衣服をすべて透かして見ているような、サディスティックでねっとりとした視線を彼女に送った。
午前中、彼女自身の手でブラウスをめくらせて確認した、あのネオンピンクの布地を思い出すように、俺はゆっくりと口角を吊り上げた。
「あっ……」
真緒菜の完璧な鉄面皮が、ほんの一瞬だけ崩れた。
マイクを通した声が、わずかに上ずる。
彼女は慌てて視線を逸らしたが、その頬は明らかに、先ほどまでの冷静さとは無縁の朱色に染まっていた。股間に食い込むレオタードの感触と、俺に見られているという羞恥心が、彼女の冷静な思考を侵食しているのがありありと伝わってくる。
「どうかしましたか、網代主任?」
「い、いえ……失礼いたしました。少し、空調が強いようで……」
役員の問いかけに、真緒菜は必死に声を絞り出して誤魔化した。
俺は書類で口元を隠しながら、肩を震わせて笑いを堪えた。
最高だ。
この厳粛な役員会議の場で、俺はたった一瞥だけで、あの鉄面皮の女の心臓を鷲掴みにし、屈辱と羞恥で震えさせることができる。
オフィス全体、いや、この会社の中枢すべてを俺が欺き、裏でコケにしているような、圧倒的な背徳感。
俺は自分が神にでもなったかのような錯覚に陥り、真緒菜を支配する甘美な毒に、ますます深く溺れていった。
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翌日、火曜日。
午後十五時を回り、オフィスには少しだけ気の抜けた空気が漂い始めていた。
俺はデスクでコーヒーを飲みながら、スマートフォンを操作し、真緒菜の個人チャット宛てにメッセージを打ち込んだ。
『今から五分以内に、第二開発部の全体チャットグループに業務連絡を入れろ』
それだけなら、ただの仕事の指示だ。だが、俺は続けて残酷な条件を付け加えた。
『ただし、口調は「学園破天荒!マジカルバスターズ」の夜叉姫ラズベリー風で。痛々しい魔法少女のノリで送ること』
送信ボタンを押して、少し離れた真緒菜のデスクを窺う。
ピコン、と彼女のスマホが小さく震えたのが見えた。
画面を見た真緒菜の動きがピタリと止まり、そのまま顔面からサァーッと血の気が引いていく。普段の彼女からは想像もつかない、痛々しいアニメキャラの口調。それを、厳しい実力主義の社内チャットに投下しろというのだ。




