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『王宮保護者会は、本日も胃が痛い』 〜王太子と悪役令嬢が両片想いすぎるので、周囲が見守る話〜  作者: あめとおと


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第7話 星祭りの夜




 王都最大の祭典――星祭り。


 年に一度、夜空へ感謝を捧げる祝祭の日。


 街中へ無数の灯りが浮かび、広場では音楽が鳴り、人々は星を模した飾りを身につけて笑い合う。


 恋人たちが未来を誓う夜。


 夫婦が愛を確かめ合う夜。


 そして。


 宮廷占星術師セレスにとっては、

胃痛イベント最終決戦の日だった。


「頼む……頼むから今日で仲直りしてくれ……」


 占星塔の机へ突っ伏しながら祈る。


 星読みの結果は出ている。


 今夜。


 今夜だけは、

“二人が本音を交わせる可能性”

が極端に高い。


 逆に言えば。


 ここで失敗すると、本当に未来線が折れる。


「こんな国の未来背負わせるタイプの両片想いあります!?」


 半泣きだった。


 だが泣いていても始まらない。


 セレスは数日前から、必死に準備していた。


王妃を巻き込み。


国王へ話を通し。


護衛を動かし。


人の流れすら計算に入れ。


“偶然の再会”という名の、盛大な仕込みを完成させていた。


 なお本人たちは気づいていない。


 もはや国家事業だった。


「胃が痛い……」


「毎回言ってません?」


 侍女長が冷静に突っ込む。


 一方その頃。


 王都中央広場では、リリアーナが夜空を見上げていた。


 淡い藍色のドレス。


 銀糸の刺繍。


 髪には小さな星飾り。


 周囲の誰もが振り返るほど美しい。


 だが本人は、それどころではない。


(どうして来てしまったのでしょう……)


 本当は断るつもりだった。


 けれど王妃から、


『今年の星祭り、とても綺麗ですよ』


 と微笑まれてしまった。


 断れるわけがなかった。


 そして。


 来てしまった以上、意識してしまう。


 もしかしたら。


 アルヴェインもいるのではないか、と。


「……馬鹿みたいですわ」


 小さく呟いた時。


「リリアーナ」


 背後から、低い声。


 心臓が止まりかけた。


 振り返る。


 そこには。


 黒の正装を纏ったアルヴェインが立っていた。


 周囲の灯りを背負いながら、真っ直ぐこちらを見ている。


 その姿だけで胸が苦しくなる。


「……殿下」


 完璧な礼。


 いつも通り。


 そう、いつも通りに振る舞おうとした。


 だが。


 アルヴェインの方が先に口を開く。


「少し、話せないか」


 低い声だった。


 緊張しているのが分かる。


 リリアーナは一瞬迷い。


 それから小さく頷いた。


 広場から少し離れた、静かな回廊。


 遠くで祭りの音が聞こえる。


 夜風が柔らかい。


 なのに空気だけが張り詰めていた。


「……先日は」


 先に口を開いたのはアルヴェインだった。


「すまなかった」


 リリアーナが目を見開く。


 謝罪。


 それだけで、胸が揺れる。


 だが同時に怖かった。


 ここで期待してしまったら。


 また傷つくかもしれない。


「殿下が謝る必要はございません」


 だから。


 リリアーナはいつものように、距離を取った。


「わたくしも配慮が足りませんでしたわ」


 その瞬間。


 アルヴェインの顔が苦しそうに歪む。


 違う。


 そうじゃない。


 欲しかったのはそんな答えじゃない。


 だが、どう言えばいいのか分からない。


 沈黙。


 重い空気。


 遠くでは祭りの笑い声が響いているのに、ここだけ世界から切り離されたようだった。


 一方。


 少し離れた建物の陰では。


「なんで空気が悪化してるんです???」


 セレスが頭を抱えていた。


 隣で王妃が優雅に紅茶を飲んでいる。


「まぁ、あの子たちですもの」


「そんな“しょうがないですねぇ”みたいな顔で済ませる状況じゃないんですよ!?」


「落ち着きなさい」


「無理です!!」


 占星術師、情緒が終わっていた。


 その時だった。


 回廊の方で、女性の笑い声が響く。


 若い令嬢たちだった。


「アルヴェイン殿下、本当に素敵よね」


「ねぇ。もし婚約がなくなったら――」


 その言葉。


 リリアーナの指先が、小さく震えた。


 アルヴェインは気づく。


 だが同時に。


 リリアーナがほんの少し、視線を逸らしたことにも気づいた。


 胸が締めつけられる。


 嫌だった。


 そんな顔をさせたいわけじゃない。


 なのに。


 自分はいつも、傷つけてばかりだ。


「……リリアーナ」


 思わず名前を呼ぶ。


 すると。


 彼女は少しだけ笑った。


 泣きそうな笑顔だった。


「殿下は、優しい方ですわ」


「……え?」


「だから皆、殿下へ惹かれるのでしょう」


 違う。


 アルヴェインは反射的にそう思った。


 自分が欲しいのは。


 見てほしいのは。


 そんな風に“皆の王太子”としてではなく――


「……嫌いになれたら、楽でしたのに」


 ぽつり、と。


 リリアーナが零した。


 空気が止まる。


 アルヴェインの思考が真っ白になった。


 今。


 なんと言った?


 リリアーナは、自分が口を滑らせたことに気づき、はっと顔を上げる。


「っ……」


 だがもう遅い。


 アルヴェインは、呆然と彼女を見ていた。


 その顔を見た瞬間。


 リリアーナの頬が一気に赤く染まる。


「わ、わたくしは――」


「リリアーナ」


 声が震えていた。


 王太子とは思えないほど。


 必死で。


 苦しそうで。


 そして。


 どこか泣きそうだった。


 一方その頃。


 建物の陰では。


 セレスが崩れ落ちていた。


「進展したぁぁぁぁぁ……!!」


 泣いていた。


 本気で。


 王妃が苦笑する。


「良かったですわね」


「まだ油断できません!! あの二人、ここから爆発的に拗れる可能性ありますからね!?」


「信頼がないですわねぇ」


「今までを見てその感想になります!?」


 その時。


 夜空で星が強く輝いた。


 未来線が、動く。


 ゆっくり。


 だが確実に。


 破局から、“未来”へ向かって。






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