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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
第10章 HOPE ―同じ音の中で―
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第86話 名前のない形

夜の公園は、静かだった。


ベンチの上、少しだけ冷えた空気。



綾は、ゆっくりと座る。



待っているわけじゃない。



それでも。



少しだけ、ここに来る理由がある。



足音が近づく。



顔を上げる。



――来た。



「こんばんは」



「こんばんは」



同じやり取り。



同じ時間。



それでも。



前とは違う。



言葉にしなくても分かる。



少しだけ、間をあけて座る。



距離は変わらない。



でも。



近さが違う。



風が通る。



何も話さない時間。



長く続く。



それでも。



沈黙は、重くない。



「……最近」


綾が、ぽつりと口を開く。



言葉を探す。



「少しだけ、分かる気がします」



前にも言った言葉。



でも。



今回は、少しだけ違う意味を持つ。



世古は、静かに聞いている。



「全部じゃないですけど」



「でも」



少しだけ息を吸う。



「選ぶっていうのが、どういうことか」



言葉にする。



完全ではない。



それでも。



自分の言葉だった。



世古は、ほんのわずかに頷く。



「そうですか」



短い言葉。



それ以上は言わない。



それでも。



否定もしない。



綾は、少しだけ空を見る。



夜は変わらない。



それでも。



自分の見え方は変わっている。



「……ありがとうございます」



自然に出た言葉。



前よりも、少しだけはっきりしている。



世古は、少しだけ視線を動かす。



「……必要なことを、しただけです」



前と同じ言葉。



それでも。



今は、少し違って聞こえる。



綾は、小さく頷く。



「……それでも、です」



それだけ。



それ以上は言わない。



言わなくても、いいと思えた。



しばらくして、世古が立ち上がる。



「……では」



「はい」



同じ別れ。



それでも。



もう、最初と同じではない。



世古が歩き出す。



背中が、少しだけ遠くなる。



追いかけない。



呼び止めない。



それでも。



ここにあるものは、消えない。



綾は、しばらくそのまま座る。



そして。



ゆっくりと立ち上がる。



帰り道。



どちらに進むか、迷わない。



自然に、足が動く。



それが、答えだった。


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