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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
第10章 HOPE ―同じ音の中で―
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第84話 言葉にしない距離

店を出る。


夜の空気は、少しだけ乾いていた。


⸻


今日は、まっすぐ帰らない。


⸻


最近、そういう日が増えた。


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理由ははっきりしない。


⸻


ただ、少しだけ遠回りをする。


⸻


それだけ。


⸻


公園の前で、足を止める。


⸻


ベンチ。


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前と同じ場所。


⸻


そして。


⸻


同じように、そこにいた。


⸻


「……こんばんは」


⸻


「こんばんは」


⸻


短いやり取り。


⸻


それだけで、十分だった。


⸻


少しだけ間をあけて、隣に座る。


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距離は、少しだけある。


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でも。


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遠くはない。


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風が通る。


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何も話さない時間。


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前より、長く続く。


⸻


それでも。


⸻


気まずくはない。


⸻


「……最近」


綾が、ぽつりと口を開く。


⸻


言葉を探す。


⸻


うまく言えない。


⸻


それでも。


⸻


「少しだけ、分かる気がします」


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何が、とは言わない。


⸻


それでも。


⸻


伝わる気がした。


⸻


世古は、少しだけ視線を動かす。


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「……何がですか」


⸻


問い返す。


⸻


責めるでもなく、試すでもなく。


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ただ、確かめるように。


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綾は、少しだけ考える。


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「……選ぶっていうこと」


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静かな答え。


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「難しいですけど」


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「でも、前よりは」


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言葉を切る。


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完全な形にはならない。


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それでも。


⸻


「前よりは、ちゃんと考えてます」


⸻


それで十分だった。


⸻


世古は、わずかに頷く。


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「そうですか」


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それだけ。


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それ以上は言わない。


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でも。


⸻


否定もしない。


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風が、少し強くなる。


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夜の空気が、少しだけ動く。


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綾は、ふと空を見る。


⸻


同じ空。


⸻


それでも。


⸻


前とは少し違う。


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「……」


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何か言おうとして、やめる。


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言葉にしない方がいいこともある。


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そう思った。


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しばらくして、世古が立ち上がる。


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「……では」


⸻


「はい」


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それだけで、別れる。


⸻


振り返らない。


⸻


それでも。


⸻


確かに、そこにあった。


⸻


言葉にしない距離。


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