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第83話 見ている場所
北山学園の夕方は、静かだった。
授業が終わり、子どもたちの声が少しずつ遠ざかっていく。
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世古は、校舎の裏手に立っていた。
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特別な理由はない。
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ただ、そこにいた。
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少し離れた場所で、作業音が聞こえる。
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規則的な音。
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無駄のない動き。
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父だった。
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木材を整え、工具を扱う。
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手つきは、まだ完全ではない。
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それでも。
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止まらない。
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以前のような迷いはない。
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世古は、何も言わない。
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声をかけることも、近づくこともしない。
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ただ、見ている。
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しばらくして、父が作業の手を止める。
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軽く息をつく。
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空を見上げる。
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その顔は、前とは少しだけ違っていた。
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疲れている。
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それでも。
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止まってはいない。
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世古は、ほんのわずかに視線を落とす。
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それで十分だった。
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確認するものは、もうない。
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その場を離れる。
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足音は、静かだった。
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振り返らない。
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必要がないから。
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門を出る。
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外の空気は、少しだけ冷たい。
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夜に近づいている。
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ポケットの中で、指がわずかに動く。
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何かを確かめるように。
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けれど。
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取り出すことはしない。
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そのまま、歩き出す。
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知らない場所で、
知らない誰かが、少しだけ前に進む。
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それでいい。
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それで、十分だった。




