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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
第10章 HOPE ―同じ音の中で―
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第80話 店の外で

店を出る。


シャッターが半分だけ降りて、

いつもより少しだけ静かな時間。


⸻


夜の空気が、やわらかい。


⸻


少しだけ遠回りをして帰る。


最近、決めたこと。


⸻


同じ道でもいい。


違う道でもいい。


⸻


その日の気分で選ぶ。


⸻


それだけのこと。


⸻


角を曲がる。


小さな公園の前で、足を止める。


⸻


ベンチが一つ。


誰もいない。


⸻


少しだけ、座る。


⸻


風が、ゆっくりと通り抜ける。


⸻


何も考えない時間。


⸻


それでも。


⸻


どこかで、考えている。


⸻


足音が近づく。


⸻


ふと、顔を上げる。


⸻


――あの人だった。


⸻


一瞬だけ、言葉を失う。


⸻


店以外で見るのは、初めてだった。


⸻


同じはずなのに、少しだけ違う。


⸻


「……こんばんは」


先に声が出た。


⸻


「こんばんは」


短い返事。


⸻


少しだけ間があく。


⸻


「……よく通るんですか」


⸻


「たまに」


⸻


それだけの会話。


⸻


それでも。


⸻


レジ越しとは、少し違う。


⸻


距離は、同じくらいのはずなのに。


⸻


少しだけ、近い。


⸻


「……ここ、静かですね」


⸻


「そうですね」


⸻


また、少しだけ沈黙。


⸻


嫌ではない。


⸻


むしろ。


⸻


落ち着く。


⸻


「……」


綾は、少しだけ迷う。


⸻


聞くほどのことでもない。


⸻


でも。


⸻


「……仕事、順調ですか」


⸻


言葉にしていた。


⸻


世古は、ほんの一瞬だけ考える。


⸻


「必要なことは、進んでいます」


⸻


曖昧な答え。


⸻


それでも。


⸻


嘘ではない。


⸻


綾は、小さく頷く。


⸻


「……そうですか」


⸻


それだけ。


⸻


それ以上は聞かない。


⸻


世古も、何も言わない。


⸻


ただ、同じ方向を見ている。


⸻


夜の空。


⸻


変わらないはずの景色。


⸻


それでも。


⸻


今日は、少しだけ違って見える。


⸻


「……最近」


ふいに、世古が言う。


⸻


綾が、少しだけ顔を向ける。


⸻


「歩く道を、変えましたね」


⸻


一瞬、息が止まる。


⸻


どうして分かるのか。


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聞こうとして、やめる。


⸻


「……少しだけ」


⸻


それだけ答える。


⸻


世古は、わずかに頷く。


⸻


「いいと思います」


⸻


短い言葉。


⸻


それだけで、十分だった。


⸻


しばらくして、世古が立ち上がる。


⸻


「……では」


⸻


「はい」


⸻


それだけで別れる。


⸻


振り返らない。


⸻


追いかけない。


⸻


それでも。


⸻


確かに、同じ時間を共有していた。


⸻


綾は、もう少しだけベンチに座る。


⸻


そして。


⸻


ゆっくりと立ち上がる。


⸻


帰り道。


⸻


どちらに進むか、少しだけ迷う。


⸻


それから。


⸻


少しだけ遠回りを選ぶ。


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