第78同じ側
テーブルの上に、紙を広げる。
数字の並んだ書類。
見慣れない言葉。
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綾は、その前に座っていた。
少しして、父が向かいに座る。
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しばらく、何も言わない。
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時計の音だけが、小さく響く。
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「……どこからだ」
父が、低く言う。
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「分からない」
正直に答える。
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それでよかった。
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父は、紙に手を伸ばす。
一枚、ゆっくりとめくる。
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指が止まる。
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「ここだな」
小さく言う。
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綾は、覗き込む。
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「この金額は……元のやつだ」
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「元?」
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「最初に借りた額だ」
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短い説明。
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それでも、少しだけ見えてくる。
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父は、次のページをめくる。
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「こっちは、利息だな」
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綾は、黙って聞く。
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難しい。
分からない。
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それでも。
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“分からないままにしない”ことは、できる。
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「……全部、返さないといけないの?」
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ふと、聞く。
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父の手が、一瞬止まる。
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「……ああ」
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短い答え。
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重い事実。
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それでも。
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前ほど、怖くはなかった。
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「……じゃあ」
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言葉を選ぶ。
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「どうすればいい?」
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父が、顔を上げる。
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ほんの一瞬だけ、目が合う。
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その目に、少しだけ驚きがあった。
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そして。
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少しだけ、違うものも。
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「……少しずつだな」
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ゆっくりと、言う。
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「減らしていくしかない」
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現実的な答え。
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きれいでも、簡単でもない。
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でも。
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ちゃんと“進む答え”。
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綾は、小さく頷く。
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「……うん」
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それだけ。
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それで、十分だった。
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父は、もう一度紙に目を落とす。
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「……分からんとこは、聞け」
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ぽつりと、言う。
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「一人で考えても、余計分からん」
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その言葉に、少しだけ力があった。
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綾は、もう一度頷く。
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「……うん」
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同じ返事。
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でも、意味は違う。
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部屋の空気が、少しだけ変わる。
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問題は、何も解決していない。
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それでも。
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同じ場所にいるはずなのに、
少しだけ“同じ側”に立っている気がした。




