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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
第9章 HOPE ―変わり始める日常―
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第76話 ひとつだけ

自動ドアが開く音で、顔を上げる。


ほんの一瞬だけ、息が止まる。


――来た。



「いらっしゃいませ」


声は、いつも通り。



その人は、前と同じように店内を歩く。


必要なものを選び、レジに来る。



「袋、いりません」



「ポイントカードはお持ちですか」



「……持っていたことはあります」



変わらないやり取り。



バーコードを通す。


ピッ、という音が、静かに続く。



そのリズムの中で、ほんの少しだけ考える。



聞くか。


聞かないか。



前なら、迷わなかった。



聞かない。


それで終わり。



でも。



今日は、少しだけ違う。



「……どうして」



気づいたら、口にしていた。



空気が、わずかに止まる。



「どうして、あんなことを」



具体的な言葉は出ていない。



それでも。



意味は、伝わる。



世古の手が、一瞬だけ止まる。



ほんのわずかな間。



「……必要だったからです」



低い声。



迷いはない。



それだけの答え。



綾は、その言葉を受け取る。



理由としては、足りない。


説明としては、不十分。



それでも。



どこかで納得している自分がいた。



「……そうですか」



それだけ返す。



それ以上は、聞かない。



聞かなくてもいいと思えた。



会計を終える。


商品を渡す。



指先が触れる。



今日は、少しだけ長かった。



世古は、商品を受け取る。



そして。



「……あなたも」



ふいに、言葉が落ちる。



綾が顔を上げる。



「必要なことを、選べばいい」



それだけ。



短い言葉。



けれど。



どこかで、残る。



世古は、それ以上は何も言わない。



自動ドアへ向かう。



音が鳴る。



外に出る。



静かに、閉まる。



綾は、その場に立ったまま、しばらく動かなかった。



“必要だったから”



その言葉を、何度か心の中でなぞる。



難しいことじゃないのかもしれない。



ただ。



選ぶだけ。


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