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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
第9章 HOPE ―変わり始める日常―
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第75話 気づいている人

自動ドアが開く音で、顔を上げる。


ほんの一瞬だけ、息が止まる。


――来た。



「いらっしゃいませ」


声は、いつも通り。



その人は、変わらない歩き方で店内に入る。


迷いなく、必要なものを手に取る。



レジに来る。


同じ距離。


同じ立ち方。



「袋、いりません」



「ポイントカードはお持ちですか」



「……持っていたことはあります」



変わらないやり取り。



それでも。



今日は、少しだけ違う。



綾は、ほんの少しだけ背筋を伸ばしていた。



意識しているわけじゃない。


でも、そうなっていた。



「……お大事に」


自然に言葉が出る。



その人の手が、一瞬だけ止まる。



ほんのわずかな間。



「……ありがとうございます」



低い声。



前と同じ言葉。



それでも。



少しだけ、柔らかい。



会計を終える。


商品を渡す。



指先が触れる。



今日は、迷いがない。



その人は、商品を受け取る。



そして。



ほんの一瞬だけ、綾を見る。



長くはない。



でも。



確かに、見ていた。



「……」


何かを言うかのような間。



けれど。



「――少し、変わりましたね」



ぽつりと、落ちる。



問いではない。


評価でもない。



ただの事実のような言い方。



綾は、一瞬だけ言葉を失う。



何を、どこまで見られているのか。



分からない。



それでも。



否定する気にはならなかった。



「……少しだけ」



それだけ返す。



世古は、わずかに頷く。



「そうですか」



短い言葉。



それ以上は、何も言わない。



でも。



それで十分だった。



自動ドアが開く。



その人が外に出る。



音が、静かに響く。



同じ音。



それでも。



少しだけ、違って聞こえる。



綾は、その場に立ったまま、息をつく。



“気づかれていた”



その事実が、不思議と嫌ではなかった。



むしろ。



ほんの少しだけ、安心した。


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