第74話 小さな選択
朝の空気が、少しだけ軽い。
理由は分からない。
でも、昨日よりも息がしやすい気がした。
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支度をして、家を出る。
いつも通りの時間。
いつも通りの道。
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交差点に差し掛かる。
信号は、まだ赤だった。
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立ち止まる。
周りにも、同じように人がいる。
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ふと、思う。
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このまま、いつも通り進めば、
いつも通りの一日になる。
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それでいい。
それでもいい。
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けれど。
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ほんの少しだけ、違うことをしてみたいと思った。
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信号が青に変わる。
人が動き出す。
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綾は、一歩踏み出して――
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少しだけ、足を止めた。
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そして。
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右ではなく、左へ曲がる。
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ほんの数分、遠回りになるだけの道。
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それでも。
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今まで、一度も通ったことのない道だった。
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歩きながら、周りを見る。
知らない店。
知らない建物。
知らない匂い。
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何も特別なものはない。
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それでも。
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ほんの少しだけ、景色が違って見える。
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それだけで、十分だった。
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店に着く。
少しだけ早い時間。
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自動ドアの前で、立ち止まる。
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深く、息を吸う。
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そして。
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ドアが開く。
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いつもと同じ音。
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でも。
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今日は、少しだけ、違って聞こえた。
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「おはようございます」
同僚に声をかける。
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「おはよう。早いね」
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「少しだけ」
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それだけの会話。
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エプロンをつけて、レジに立つ。
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同じ場所。
同じ動作。
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それでも。
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“選んでここに立っている”気がした。




