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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
第9章 HOPE ―変わり始める日常―
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第72話 知らない場所で

昼過ぎの店内は、少しだけ静かだった。


レジの前に並ぶ人も途切れて、

ほんの短い空白ができる。


⸻


「ねえ、綾」


同僚が、小さな声で話しかけてくる。


「この前さ、学園の人来たって聞いた?」


⸻


「……学園?」


聞き返す。


⸻


「うん、ほら、近くの北山学園」


少し身を乗り出してくる。


「施設のことで、なんか見に来てたらしいよ」


⸻


綾は、何も言わずに聞いていた。


⸻


「用務員さんとか、環境整備?

新しく入れるって話みたい」


⸻


「そうなんだ」


それだけ返す。


⸻


言葉は、それ以上続かない。


⸻


「条件、結構いいらしいよ。

珍しいよね、ああいうの」


同僚は、軽く笑う。


⸻


綾は、小さく頷く。


⸻


それが、どこから来た話なのか。


考えれば、すぐに分かる。


⸻


でも。


⸻


言わない。


⸻


言う必要もないし、

言ってしまうと、何かが変わる気がした。


⸻


「……綾ってさ」


同僚が、ふとこちらを見る。


⸻


「最近、なんかいいことあった?」


⸻


突然の問い。


⸻


「……別に」


少しだけ間を置いて答える。


⸻


「そう?」


同僚は首をかしげる。


⸻


「なんか、ちょっとだけ雰囲気違うから」


⸻


綾は、少しだけ考える。


⸻


違う、という自覚はない。


⸻


それでも。


⸻


「……少しだけ」


⸻


言葉が出る。


⸻


「変わったかもしれません」


⸻


同僚は、よく分からないという顔をして笑う。


「ふーん」


それ以上は聞かない。


⸻


レジに客が来る。


会話は、自然に途切れる。


⸻


「いらっしゃいませ」


⸻


いつも通りの声。


⸻


それでも。


⸻


ほんの少しだけ、違う。


⸻


バーコードを通す。


ピッ、という音が、静かに響く。


⸻


ふと、思う。


⸻


この音は、ここだけのものじゃないのかもしれない。


⸻


知らない場所でも、

同じように、何かが動いている。


⸻


誰かが、気づかないところで。


⸻


そう考えて、すぐにやめる。


⸻


考えすぎると、分からなくなる。


⸻


それでも。


⸻


ほんの少しだけ、確かに思う。


⸻


何かは、ちゃんと繋がっている。


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