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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
第9章 HOPE ―変わり始める日常―
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第68話 同じ音の中で

自動ドアが開く音で、顔を上げる。


その瞬間、分かった。


――来た。


理由はない。

でも、分かる。


⸻


「いらっしゃいませ」


声は、いつも通りに出る。


けれど、ほんの少しだけ、間があった。


⸻


その人は、前と同じように店内を歩く。


迷いはない。


必要なものだけを選んで、レジに来る。


⸻


「袋、いりません」


低い声。


変わらない。


⸻


「ポイントカードはお持ちですか」


同じやり取り。


同じ言葉。


⸻


「……持っていたことはあります」


⸻


ほんの少しだけ、空気が緩む。


前と同じなのに、前とは違う。


⸻


「……お作りしますか?」


自然に言葉が出る。


前と同じ問い。


でも、少しだけ意味が違う。


⸻


その人は、わずかに視線を上げる。


一瞬だけ、目が合う。


⸻


「いえ」


短く、それだけ。


⸻


それでも、前とは違って聞こえた。


⸻


バーコードを通す。


ピッ、という音が、一定のリズムで続く。


今日は、そのリズムが崩れない。


⸻


「合計、千二百八十円です」


⸻


現金が差し出される。


今度は、指先が触れた。


ほんの一瞬だけ。


⸻


冷たくはなかった。


⸻


レシートを渡す。


動作は、前と同じ。


⸻


それでも。


⸻


「……ありがとうございました」


声が、少しだけ届いた気がした。


⸻


その人は、商品を受け取る。


そして、ほんのわずかに立ち止まる。


⸻


「……」


何か言いかけて、やめるような間。


⸻


「――どうですか」


ふいに、声が落ちてくる。


⸻


「最近」


⸻


短い問い。


けれど、意味は分かる。


⸻


綾は、一瞬だけ考える。


⸻


何が変わったのか。


どう答えればいいのか。


⸻


正しい言葉は、見つからない。


⸻


「……少しだけ」


それでも、口にする。


⸻


「楽になった気がします」


⸻


嘘ではなかった。


⸻


その人は、わずかに頷く。


⸻


「そうですか」


⸻


それだけ。


⸻


それ以上は聞かない。


理由も、経緯も、何も。


⸻


「……ありがとうございます」


気づいたら、そう言っていた。


⸻


言うつもりはなかった。


でも、言葉は自然に出ていた。


⸻


その人は、少しだけ目を細める。


⸻


「あなたの力です」


⸻


前と同じ言葉。


⸻


それでも。


⸻


今度は、少しだけ意味が分かる気がした。


⸻


自動ドアが開く。


その人が外に出る。


⸻


音が、静かに響く。


⸻


同じ音。


⸻


でも。


⸻


もう、同じには聞こえなかった。


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