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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
第8章 HOPE ―動き出す現実―
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第67話 同じ場所で、少しだけ

自動ドアが開く音で、顔を上げる。


いつも通りのはずの音。


それでも、ほんの少しだけ、やわらかく聞こえた。


理由は分からない。


分からないけれど、前と同じではなかった。



「いらっしゃいませ」


声は、いつも通りに出る。


レジに立って、バーコードを通す。


ピッ、という音が、一定のリズムで続く。


その繰り返しの中に、ほんの少しだけ余裕がある。



昨日と、何が違うのか。


考えてみても、はっきりとは分からない。



朝、家を出るとき。


父はもういなかった。


テーブルの上の資料も、なくなっていた。


それだけ。


それだけのはずなのに。



胸の奥の重さが、ほんの少しだけ軽くなっている。



「袋、お願いします」


客の声に、我に返る。


「かしこまりました」


手は、迷いなく動く。


指先が、いつもより少しだけ正確に動いている気がする。



同じ動作。


同じ場所。


同じ時間。



それでも。



「……ありがとうございました」


声に、ほんの少しだけ温度があった。



レジの前が途切れる。


ふと、息をつく。


深く吸い込んでも、胸の奥は痛まない。



「綾」


背後から声をかけられる。


振り返ると、同僚が立っていた。


「最近、ちょっと雰囲気違うよね」


不意に言われて、言葉が詰まる。



「そうですか?」


「うん。なんか、ちょっとだけ楽そう」



楽。


その言葉が、少しだけ遠くに感じる。



「……そうかもしれません」


はっきりしないまま、そう答える。



同僚は、それ以上は何も言わずに笑って、戻っていく。



自動ドアが開く。


反射みたいに顔を上げる。


一瞬だけ、息が止まる。



違う。


そこにいたのは、ただの客だった。



それでも。



少しだけ、思う。



あの人は、今日もどこかで、同じように何かを動かしているのかもしれない。



そう考えてから、すぐにやめる。



考えない方が楽なことは、まだ多い。



それでも。



同じ場所に立っているはずなのに、


ほんの少しだけ、違う場所にいる気がした。


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