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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
第8章 HOPE ―動き出す現実―
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第66話 現場という場所

北山学園の門をくぐると、空気が少しだけ違った。


広い敷地。整えられた植栽。

どこを見ても、手が入っているのが分かる。


父は、ゆっくりと歩きながら周囲に目を配る。


見るというより、“測っている”ような視線だった。



「こちらです」


前を歩く男が、振り返る。


世古だった。


前と変わらない。

整っているのに、どこか疲れている顔。


それでも、立ち方に迷いがない。



「……どうも」


父は、短く頭を下げる。


「本日はお時間ありがとうございます」


世古も、同じように頭を下げる。


それ以上の言葉はない。



校舎の裏手に回る。


見えない場所ほど、よく分かる。


排水の流れ。

外壁の細かな補修跡。

手入れの頻度。


父の視線が、ゆっくりと動く。



「……悪くないな」


小さく呟く。


誰に聞かせるわけでもない声。



「ありがとうございます」


世古は、ただそれだけ返す。



しばらく歩く。


途中で、古いベンチの前で足が止まる。


木材の一部が傷んでいる。


父は、しゃがみ込む。


手で軽く押す。

指先で、木の状態を確かめる。



「ここは、替えた方がいい」


顔を上げずに言う。


「まだ使えるが、長くはもたん」



「承知しました」


世古は、すぐに頷く。


メモは取らない。

けれど、そのまま覚えているようだった。



父が立ち上がる。


その動きが、ほんの少しだけ軽い。



「……あんた」


ふと、父が言う。



「はい」



「現場、分かってるな」



短い問い。



世古は、一瞬だけ間を置いてから答える。


「必要な範囲で」



それだけ。



父は、少しだけ目を細める。


試すような視線。


けれど、それ以上は何も言わない。



「……ここなら」


ぽつりと、父が言う。



「やれるかもしれん」



その言葉は、誰に向けたものでもなかった。



風が、少しだけ吹く。


木々が揺れる音が、小さく響く。



世古は、その場で一歩下がる。


そして、ゆっくりと頭を下げる。



「お願いします」



短い言葉だった。



父は、何も言わない。


ただ、もう一度だけ周囲を見渡す。



「……まだ分からん」


小さく呟く。



「だが」


一拍。



「悪くない」



それが、父の答えだった。


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