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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
第8章 HOPE ―動き出す現実―
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第62話 エクスプロージョン

抑えきれないもの


夜。


部屋。


静かだった。


何もない。


音も。


光も。


ただ、自分だけがいる。


綾は、床に座っている。


動かない。


スマートフォンが、目の前にある。


画面は暗い。


触っていない。


触れない。


頭の中に、残っている。


昼のこと。


あの女性。


あの距離。


あの言葉。


――本気なんで。


綾は、目を閉じる。


一度。


ゆっくりと息を吐く。


それでも。


消えない。


むしろ。


はっきりしてくる。


「……なんで」


小さく、言葉が落ちる。


誰に向けたものかも分からない。


それでも。


止まらない。


「なんで、あんな」


続かない。


言葉にならない。


でも。


感情だけが、残る。


胸の奥。


重い。


逃げられない。


綾は、スマートフォンを手に取る。


無意識だった。


画面をつける。


連絡先。


そこに、名前がある。


世古。


指が止まる。


ほんの少し。


それでも。


もう、止めない。


――送る。


短く。


それだけでいい。


『少し、話せますか』


送信。


戻れない。


でも。


後悔はなかった。



数分後。


返信。


『いいですよ』


それだけ。


短い。


いつも通り。


それなのに。


綾の胸が、少しだけ速くなる。



外。


夜の空気。


少しだけ冷たい。


いつもの場所。


コンビニの裏。


人通りが少ない。


綾は、先に来ていた。


立ったまま。


動かない。


足音。


分かる。


振り返らなくても。


世古が来る。


距離が、止まる。


いつもの距離。


でも。


今日は、違う。


「……どうしました」


世古が言う。


静かに。


いつも通り。


綾は、少しだけ顔を上げる。


そのまま、見る。


逃げない。


「……昼の」


声が出る。


震えている。


それでも、止めない。


「見てました」


はっきりと。


世古は、何も言わない。


でも。


視線は外さない。


綾は、続ける。


「……あの人と」


一拍。


息が少し乱れる。


それでも。


「一緒にいるの」


言い切る。


沈黙。


短くない。


でも。


逃げない。


綾は、自分でも分かっている。


ここで止めたら、終わる。


だから。


続ける。


「……嫌でした」


はっきりと。


初めて。


その言葉を、自分で使う。


空気が、変わる。


世古の視線が、わずかに動く。


綾の中で、何かが崩れる。


止まらない。


「なんでか分からないですけど」


「分からないけど」


「でも」


息が詰まる。


それでも。


「……嫌でした」


繰り返す。


自分に確認するみたいに。


綾は、少しだけ視線を落とす。


「勝手ですよね」


小さく言う。


「何も言ってないのに」


「何も決めてないのに」


苦しくなる。


それでも。


止めない。


「……でも」


顔を上げる。


もう一度。


世古を見る。


「取られるの、嫌でした」


言い切る。


静かに。


でも。


逃げずに。


完全に。


言葉になった。



沈黙。


長い。


でも。


怖くない。


もう、言ったから。


隠してないから。


世古が、少しだけ息を吐く。


ほんのわずかに。


それから。


「……そうですか」


短く言う。


いつも通り。


それなのに。


少しだけ違う。


綾は、少しだけ眉を寄せる。


「それだけですか」


思わず出る。


少しだけ強く。


世古は、綾を見る。


まっすぐに。


逃げない。


「それ以上、何を言えばいいんですか」


静かに返す。


綾は、言葉に詰まる。


確かに。


何を求めているのか。


分からない。


それでも。


「……分かってるはずです」


小さく言う。


逃げない。


世古は、ほんの一瞬だけ視線を落とす。


それから。


戻す。


「分かってます」


はっきりと。


綾の呼吸が、止まる。


次の言葉を待つ。


待ってしまう。


世古は、続ける。


「だから」


一拍。


ほんのわずか。


「あなたを、呼びましたか」


静かに言う。


綾の思考が、一瞬止まる。


意味が、遅れて入る。


「……え」


世古は、続ける。


「こちらから、呼んだことはありません」


事実だけ。


それだけ。


でも。


重い。


綾は、何も言えない。


世古が、少しだけ視線を外す。


ほんの一瞬。


「それでも来る人を、止める理由はありません」


静かに。


淡々と。


でも。


嘘はない。


綾の胸が、少しだけ痛む。


でも。


逃げない。


世古が、最後に言う。


「……あなたは、違います」


その一言。


綾の呼吸が、完全に止まる。


意味が、すぐには分からない。


それでも。


分かる。


他と違う。


そう言われた。


それだけで。


胸の奥が、強く揺れる。



綾は、何も言えなかった。


言葉が出ない。


代わりに。


少しだけ、笑う。


うまく笑えていない。


それでも。


「……ずるいです」


ぽつりと。


それだけ言う。


世古は、何も言わない。


でも。


ほんのわずかに。


表情が緩む。


それで、十分だった。


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