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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
第8章 HOPE ―動き出す現実―
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第54話 綾は見たくない③

知らない会話


昼。


ドラッグストア。


世古は、棚の前に立っている。


その横に、女性。


落ち着いた雰囲気。


距離は近い。


でも。


必要な距離だった。


「先生、これどう思います?」


女性が商品を手に取る。


世古は、軽く視線を落とす。


「別にいいんじゃないですか」


短く答える。


女性は、少しだけ笑う。


「相変わらずですね」


慣れた会話。


そこに、特別なものはない。


「で」


女性が、少しだけ声を落とす。


「最近、来てるんですか」


世古は、視線を動かさない。


「何がですか」


「例の店」


一拍。


世古の指が、わずかに止まる。


それだけ。


「来てますね」


認める。


隠さない。


女性は、小さく頷く。


「やっぱり」


少しだけ、笑う。


「分かりやすいですよ」


世古は、何も言わない。


女性は続ける。


「保護者の間でも話になってますよ」


「副校長先生、最近ドラッグストア通ってるって」


軽い調子。


でも、見ている。


世古の反応を。


「仕事です」


短く返す。


即答。


女性は、首をかしげる。


「へえ」


納得はしていない。


でも、それ以上は踏み込まない。


「まあ、いいですけど」


少しだけ間を置く。


それから。


「大事にしてくださいね」


静かに言う。


世古の視線が、ほんの一瞬だけ動く。


女性を見る。


「何の話ですか」


「そのままの意味です」


それだけ。


それ以上、言わない。


言う必要がないから。


順番が来る。


レジの前。


世古は、綾を見る。


ほんの一瞬。


目が合う。


その中にあるものを、確認する。


揺れている。


少しだけ。


分かる。


それで十分だった。


「袋、いりません」


いつも通りに言う。


綾の手が、ほんの少しだけ遅れる。


それも、分かる。


女性は、何も言わない。


ただ、横で見ている。


会計が終わる。


商品を受け取る。


そのとき。


世古は、何も言わない。


何も足さない。


何も変えない。


それが、一番いいと分かっているから。


店を出る。


外の光。


女性が、横で小さく言う。


「分かりやすいですね」


世古は、答えない。


歩く。


そのまま。


「……珍しいですよ」


女性が続ける。


「先生が、ああいう顔するの」


世古は、少しだけ視線を上げる。


前を見る。


「気のせいです」


短く言う。


女性は、少しだけ笑う。


否定しない。


でも、受け取らない。


それでいいと思っている。


世古は、何も言わない。


それでも。


頭の中には、残っている。


レジの前。


少しだけ揺れた視線。


あの子。


そのまま。


何も言わずに歩き続けた。


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