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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
第7章「同じ音、違う意味」
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第51話 演じる人間

谷河。



昔は違う名前を名乗っていた。



どちらでもいい。



名前なんて、呼ばれるためのものだ。



本質じゃない。



本質は、もっと奥にある。



俺は、なんでもできた。



勉強も。



運動も。



人付き合いも。



やればできる。



そういう人間だった。



周りは言う。



「才能あるよな」



「羨ましいわ」



「苦労したことないだろ」



笑いながら。



軽く。



本気でそう思っている顔で。



違う。



全部、違う。



俺は、努力していた。



見えないところで。



誰にも気づかれないように。



孤児だった。



それが、すべてだ。



親がいない。



帰る場所がない。



頼れる人間がいない。



それがどういうことか。



子どもでも分かる。



(ちゃんとしないと、消える)



必要とされなければ。



置いていかれる。



それが怖かった。



だから、やった。



全部。



完璧に。



でも、それだけじゃ足りない。



もう一つ必要だった。



“軽さ”



冗談。



笑い。



適当さ。



それを身につけた。



本気を見せないために。



深く踏み込まれないために。



「谷河ってさ、軽いよな」



「分かる、なんか本気出してない感じ」



その評価は、都合がよかった。



それでいい。



それで、生きてこれた。




T大学。



場所が変わっても、やることは同じだった。



やるべきことをやる。



期待に応える。



軽く振る舞う。



それだけ。



そのはずだった。



一人だけ。



違うやつがいた。



世古。



最初は、よく分からない男。



頭はいい。



でも、それを見せびらかさない。



人に合わせない。



それなのに。



浮かない。



むしろ。



妙に自然にそこにいる。



ある日。



いつも通り、適当に笑っていたときだった。



「お前さ」



世古が言う。



軽い調子で。



それなのに。



逃げ場がなかった。



「なんでワザと軽く見せてる?」



その一言で。



全部、見抜かれた。



笑って誤魔化す。



「は?なにそれ」



いつも通り。



それで終わるはずだった。



世古は、視線を外さない。



「お前、頑張り屋だろ」



淡々と。



当たり前みたいに言う。



「ちゃんとやってるやつの動きしてる」



逃げ道がない。



言い訳も、効かない。



全部、見えている。



谷河は、言葉を失った。



初めてだった。



見られたのは。



表じゃなくて。



中身を。



世古は、少しだけ間を置く。



それから。



「俺は、お前みたいな奴、好きだよ」



軽く言う。



何でもないことみたいに。



それだけ。



その瞬間。



崩れた。



守ってきたものが。



隠してきたものが。



音もなく。



崩れた。



理解された。



初めて。



全部じゃなくていい。



それでも。



本質を見られた。



それだけで。



十分だった。




今。



俺は、北山学園にいる。



主任として。



そして。



世古の下で働いている。



上司と部下。



それが、表の関係。



でも。



本当は違う。



あいつは、不器用だ。



真っ直ぐすぎる。



だから。



潰される。



簡単に。



理不尽に。



悪意に。



組織に。



俺は、それが分かる。



だから。



整える。



繋ぐ。



守る。



ピエロでいい。



軽くていい。



本気を見せなくていい。



それで。



あいつが動けるなら。



それでいい。



谷河は、少しだけ笑う。



静かな職員室で。



誰もいない場所で。



小さく、呟く。



「……貸しは、でかいぞ」



少しだけ間を置く。



それから。



「でもな」



視線を上げる。



遠くを見る。



「舞台に立ってるのは、あいつだ」



その言葉だけが残る。



静かに。



確かに。



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