第50話 壊れることで守る
山下。
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俺の名前は、山下為五郎だ。
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親父は、俺を守って死んだ。
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交通事故だった。
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俺の体を突き飛ばして。
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そのまま。
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ばあちゃんから聞いた。
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死ぬ間際。
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「大丈夫か」
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「よかった」
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「お前を守れて」
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「強く生きろ」
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そう言ったらしい。
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俺が生まれたとき。
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お袋は死んだ。
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ひどい難産だったらしい。
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親父は、そのとき。
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何もできなかった。
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守れなかった。
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それを、ずっと引きずってた。
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それでも。
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生まれたばかりの俺を抱きしめて。
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「お前だけは守る」
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そう言ってたらしい。
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それも、ばあちゃんから聞いた。
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俺のせいだ。
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そう思った。
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俺が生まれたから。
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お袋は死んだ。
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俺を守ったから。
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親父は死んだ。
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中学までは、ばあちゃんが育ててくれた。
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でも。
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ばあちゃんも死んだ。
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俺が中学に入った年だった。
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俺は、守られてばかりだ。
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なのに。
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誰も、俺を責めなかった。
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責めてくれる人間も、いなかった。
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だから、余計に分からなかった。
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俺は、どう生きればいい。
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ずっと、考えていた。
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何かを守ろうとした。
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必死で。
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それなのに。
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守ろうとすればするほど。
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壊れていく。
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花も。
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動物も。
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人間も。
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全部。
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俺は、守る側じゃない。
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壊す側の人間なんだと。
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そう思った。
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だったら。
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やることは一つだ。
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踏み躙る奴らを、壊す。
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守れないなら。
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せめて。
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壊す。
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それだけだった。
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今日も。
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足元には、転がってる。
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善良な奴らを傷つける連中が。
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それなのに。
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人は俺を化け物って呼ぶ。
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モンスター為五郎。
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笑えるよな。
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守るために壊してるのに。
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壊すから、化け物扱いだ。
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結局。
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どっちにしても。
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同じか。
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俺が守るべきは他人だ。
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だから。
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他人を傷つける奴を壊す。
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でも。
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他人を傷つけるのは、俺自身でもある。
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だから。
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俺を壊せる奴を探す。
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それで、いい。
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そう思ってた。
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大井埠頭。
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夜。
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騒音。
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光。
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集まってる。
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千三百。
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連合らしい。
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どうでもいい。
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壊せばいい。
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それだけだ。
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少しだけ。
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疲れてたのかもしれない。
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「……親父」
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「お袋」
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小さく呟く。
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「俺、守りたいんだ」
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「許してくれよ」
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返事はない。
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当たり前だ。
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それでも。
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一歩、踏み出す。
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一人で。
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その中に入る。
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音が消える。
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動きだけが残る。
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壊す。
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壊す。
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壊す。
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数なんて、分からない。
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百か。
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二百か。
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それぐらいは、やったかもしれない。
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でも。
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もう、動かない。
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体が重い。
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視界が揺れる。
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「……終わりか」
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そう思う。
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これでいい。
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俺が壊れれば。
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誰かは守られる。
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それでいい。
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目を閉じる。
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そのとき。
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衝撃が、消えた。
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「……?」
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目を開ける。
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光が、揺れる。
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白い。
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真っ白な集団が。
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突っ込んでくる。
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千の中に。
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迷いなく。
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蹴散らしていく。
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その中に。
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一人。
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黒い男。
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大きくない。
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でも。
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全部を持っていく。
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その男が、近づく。
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俺の体を持ち上げる。
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軽々と。
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バイクに乗せる。
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そして。
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耳元で。
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囁く。
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「悲劇の主人公気取ってんのか?」
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一瞬で。
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全部、止まる。
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そのあと。
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「だが、気に入った」
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短く言う。
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「俺の仲間に入れてやる」
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それだけ。
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理由も。
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説明もない。
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それなのに。
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初めてだった。
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この感覚。
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安心。
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遠い昔。
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抱いたことがある気がする。
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それと同じ。
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涙が出る。
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勝手に。
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止まらない。
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意識が落ちる。
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そのまま。
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暗くなる。
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それから。
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俺は、その人を兄貴と呼ぶ。
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理由なんて、いらない。
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あの夜。
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俺は初めて、救われた。
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だから。
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それだけで、いい。




