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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
第7章「同じ音、違う意味」
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第50話 壊れることで守る

山下。



俺の名前は、山下為五郎だ。



親父は、俺を守って死んだ。



交通事故だった。



俺の体を突き飛ばして。



そのまま。



ばあちゃんから聞いた。



死ぬ間際。



「大丈夫か」



「よかった」



「お前を守れて」



「強く生きろ」



そう言ったらしい。



俺が生まれたとき。



お袋は死んだ。



ひどい難産だったらしい。



親父は、そのとき。



何もできなかった。



守れなかった。



それを、ずっと引きずってた。



それでも。



生まれたばかりの俺を抱きしめて。



「お前だけは守る」



そう言ってたらしい。



それも、ばあちゃんから聞いた。



俺のせいだ。



そう思った。



俺が生まれたから。



お袋は死んだ。



俺を守ったから。



親父は死んだ。



中学までは、ばあちゃんが育ててくれた。



でも。



ばあちゃんも死んだ。



俺が中学に入った年だった。



俺は、守られてばかりだ。



なのに。



誰も、俺を責めなかった。



責めてくれる人間も、いなかった。



だから、余計に分からなかった。



俺は、どう生きればいい。



ずっと、考えていた。



何かを守ろうとした。



必死で。



それなのに。



守ろうとすればするほど。



壊れていく。



花も。



動物も。



人間も。



全部。



俺は、守る側じゃない。



壊す側の人間なんだと。



そう思った。



だったら。



やることは一つだ。



踏み躙る奴らを、壊す。



守れないなら。



せめて。



壊す。



それだけだった。



今日も。



足元には、転がってる。



善良な奴らを傷つける連中が。



それなのに。



人は俺を化け物って呼ぶ。



モンスター為五郎。



笑えるよな。



守るために壊してるのに。



壊すから、化け物扱いだ。



結局。



どっちにしても。



同じか。



俺が守るべきは他人だ。



だから。



他人を傷つける奴を壊す。



でも。



他人を傷つけるのは、俺自身でもある。



だから。



俺を壊せる奴を探す。



それで、いい。



そう思ってた。



大井埠頭。



夜。



騒音。



光。



集まってる。



千三百。



連合らしい。



どうでもいい。



壊せばいい。



それだけだ。



少しだけ。



疲れてたのかもしれない。



「……親父」



「お袋」



小さく呟く。



「俺、守りたいんだ」



「許してくれよ」



返事はない。



当たり前だ。



それでも。



一歩、踏み出す。



一人で。



その中に入る。



音が消える。



動きだけが残る。



壊す。



壊す。



壊す。



数なんて、分からない。



百か。



二百か。



それぐらいは、やったかもしれない。



でも。



もう、動かない。



体が重い。



視界が揺れる。



「……終わりか」



そう思う。



これでいい。



俺が壊れれば。



誰かは守られる。



それでいい。



目を閉じる。



そのとき。



衝撃が、消えた。



「……?」



目を開ける。



光が、揺れる。



白い。



真っ白な集団が。



突っ込んでくる。



千の中に。



迷いなく。



蹴散らしていく。



その中に。



一人。



黒い男。



大きくない。



でも。



全部を持っていく。



その男が、近づく。



俺の体を持ち上げる。



軽々と。



バイクに乗せる。



そして。



耳元で。



囁く。



「悲劇の主人公気取ってんのか?」



一瞬で。



全部、止まる。



そのあと。



「だが、気に入った」



短く言う。



「俺の仲間に入れてやる」



それだけ。



理由も。



説明もない。



それなのに。



初めてだった。



この感覚。



安心。



遠い昔。



抱いたことがある気がする。



それと同じ。



涙が出る。



勝手に。



止まらない。



意識が落ちる。



そのまま。



暗くなる。




それから。



俺は、その人を兄貴と呼ぶ。



理由なんて、いらない。



あの夜。



俺は初めて、救われた。



だから。



それだけで、いい。


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