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第49話 命の重さ
白衣は、重さを消す。
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同じに見せるためのものだった。
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誰が来ても。
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どんな命でも。
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同じ手順で扱う。
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それが、医者だと思っていた。
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でも。
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違った。
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井上は、分けていた。
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助かる命。
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助からない命。
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意味のある命。
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そうでない命。
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無意識に。
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それが効率だった。
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それが現実だった。
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あの夜までは。
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目の前の患者を見る。
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重症。
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もう一人。
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軽症。
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優先順位は、明確だった。
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迷う必要はない。
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それなのに。
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手が、止まる。
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思い出す。
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あの夜。
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自分。
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終わるはずだった命。
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それを。
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理由もなく拾った男。
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選別もなく。
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ただ。
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そこにいたから。
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それだけで。
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井上は、小さく息を吐く。
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「……両方やる」
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気づけば、そう言っていた。
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スタッフが一瞬止まる。
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それでも動く。
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現場が変わる。
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負荷が上がる。
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非効率。
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それでも。
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止めない。
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井上は、手を動かす。
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一つ。
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もう一つ。
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両方。
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拾う。
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そのあと。
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静かになる。
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一つは助かる。
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もう一つも、繋がる。
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井上は、手を止める。
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白衣を見る。
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同じはずなのに。
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少しだけ重い。
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「……面倒だな」
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小さく言う。
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それでも。
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どこかで、分かっている。
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命は、選ぶものじゃない。
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少なくとも。
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あの男の前では。
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