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第48話 止められた夜
バーだった。
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夜。
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音楽。
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酒。
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軽い空気。
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いつも通りの場所。
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そのはずだった。
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違和感は、小さかった。
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視線。
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空気。
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少しだけ、ずれている。
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井上は、気づく。
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遅くはない。
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でも。
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間に合わない。
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背後。
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動く気配。
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押さえつけられる。
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息が詰まる。
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「……おい」
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冷静に声を出す。
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それでも。
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分かる。
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終わる。
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ここで。
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あっさりと。
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「残念だな」
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笑い声。
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軽い。
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それが、現実だった。
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井上は、初めて思う。
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(ああ、こんなもんか)
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命。
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自分の命。
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こんな簡単に終わる。
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価値なんてない。
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そう思った。
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そのとき。
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扉が開く。
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音が変わる。
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一瞬だけ、空気が止まる。
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入ってくる。
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一人。
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世古。
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理解が追いつかない。
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なんで、ここにいる。
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その疑問より先に。
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現実が動く。
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音。
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衝撃。
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人が倒れる。
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全部が変わる。
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井上は、動けない。
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ただ、見ている。
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あの男を。
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迷いがない。
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躊躇もない。
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必要なことだけを、やる。
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そして。
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終わる。
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静かに。
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世古は、井上の前で止まる。
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何も言わない。
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ただ。
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見る。
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それから。
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「……帰るぞ」
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それだけ。
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井上は、動けなかった。
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理由が分からない。
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なんで助けた。
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なんで。
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俺を。
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