第47話 嫌われる側
井上。
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名字だけで、だいたいのことは分かる。
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井上総合病院。
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御曹司。
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金もある。
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環境もある。
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将来もある。
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そういう人間だった。
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だから。
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人は寄ってくる。
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最初は、分からなかった。
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優しくすれば、喜ばれる。
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笑えば、返ってくる。
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それが普通だと思っていた。
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でも。
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違った。
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話しかけてくる人間の目。
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近づいてくる距離。
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その全部が。
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“俺”を見ていない。
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家を見ている。
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金を見ている。
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肩書きを見ている。
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それに気づいたとき。
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全部が、どうでもよくなった。
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優しくするのをやめた。
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笑うのをやめた。
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距離を取るのをやめた。
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むしろ。
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踏み込むようにした。
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嫌われるように。
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嫌がらせをする。
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空気を壊す。
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相手の嫌がることを、わざとやる。
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そうすれば。
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残る人間だけが、本物だと思った。
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結果。
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誰も残らなかった。
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それでもいいと思っていた。
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どうせ、誰も信じていない。
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それでいい。
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T大学。
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同じだった。
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優秀な人間が集まる場所。
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でも。
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中身は変わらない。
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寄ってくる。
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離れる。
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繰り返す。
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その中に、一人だけ。
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気に入らないやつがいた。
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世古。
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真面目。
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静か。
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変にまっすぐ。
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それが、気に入らなかった。
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だから、絡んだ。
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何度も。
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わざと。
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嫌がらせを続けた。
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反応を見たかった。
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壊れるか。
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怒るか。
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逃げるか。
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何かしら、出ると思っていた。
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でも。
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何も出ない。
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変わらない。
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ただ。
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そこにいる。
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それが、余計に気に入らなかった。
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