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第43話 届かない場所
理屈は綺麗だった。
原因があって、結果があって、その間に言葉がある。条文、判例、解釈。積み上げれば、結論に辿り着ける。少なくとも、本の中ではそうだった。
だが、現実はそこまで整っていなかった。
父の会社で起きた小さな労務トラブル。下請けの男は契約書にサインしていた。だが、その中身を理解していない。近所で起きた金銭問題。借用書もろくに確認せず、口約束で金を貸し、人生を壊している人がいた。学校でもいた。家が弱い。親が知らない。だから、やられても「仕方ない」で終わるやつがいた。
清水は、腹が立った。
なんでだ。
ルールはあるだろ。
守るためにあるんじゃないのか。
けれど現実は違った。
ルールがあるだけでは足りない。知っている人間がいなければ届かない。使う人間がいなければ意味がない。そして、使おうとしたときには、もう遅いことさえある。
その事実を知るたび、清水の理想は少しずつ削られていった。
法律は万能じゃない。
本だけでは人は救えない。
でも、だから捨てる、にはならなかった。
届かない場所がある。
だからこそ、届く場所では絶対に届かせる。
清水の信じたものは、夢のままでは終わらなかった。痛みを知ってもなお、手放さないものに変わっていった。




