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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
第7章「同じ音、違う意味」
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第41話 残っているもの

夜。


⸻


静かな部屋。


⸻


灯りは、ひとつだけ。


⸻


机の上に、書類が並んでいる。


⸻


以前と同じ。


⸻


整っている。


⸻


無駄がない。


⸻


順番も。


⸻


意味も。


⸻


すべて、揃っている。


⸻


それでも。


⸻


少しだけ、違う。


⸻


世古は、椅子に座っている。


⸻


ゆっくりと、紙に目を通す。


⸻


動きは変わらない。


⸻


迷いもない。


⸻


必要なところだけを見る。


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それだけの視線。


⸻


それでも。


⸻


どこか、力が抜けている。


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張り詰めていない。


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“崩れてはいない”けど、


“固まりきってもいない”。


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ふと、手が止まる。


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小さく息を吐く。


⸻


深くはない。


⸻


それでも。


⸻


少しだけ、長い。


⸻


机の端に、スマートフォンがある。


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画面は消えている。


⸻


触れない。


⸻


見ることもない。


⸻


それでも。


⸻


そこにある。


⸻


置いたままにしている。


⸻


“触れないままにしている”。


⸻


頭の中に、音が残っている。


⸻


「戻って」


⸻


あの声。


⸻


はっきりと。


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消えない。


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消そうとしていない。


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世古は、目を閉じる。


⸻


一瞬だけ。


⸻


思い出す。


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白い場所。


⸻


何もない空間。


⸻


音も。


⸻


意味も。


⸻


選択もない場所。


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終わっていた場所。


⸻


そこにいた自分。


⸻


動かなくてよかった自分。


⸻


そして。


⸻


残ったもの。


⸻


「……あの子」


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小さく呟く。


⸻


呼ぶほどでもない。


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忘れるほどでもない。


⸻


その中間にある名前。


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それ以上は続かない。


⸻


言葉にしない。


⸻


形にしない。


⸻


必要もない。


⸻


ただ。


⸻


残っている。


⸻


消していない。


⸻


それだけ。


⸻


世古は、目を開ける。


⸻


視線を戻す。


⸻


書類へ。


⸻


現実へ。


⸻


仕事へ。


⸻


変わらない日常。


⸻


処理すべきもの。


⸻


選ぶべきもの。


⸻


整理すべきもの。


⸻


全部、変わっていない。


⸻


それでも。


⸻


一つだけ。


⸻


前と違う。


⸻


選ばなくていいはずだったものが。


⸻


まだ、残っている。


⸻


“選ばないままにできなかったもの”。


⸻


世古は、ペンを手に取る。


⸻


少しだけ、考える。


⸻


ほんの一瞬。


⸻


それは、迷いではない。


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“置き場所を決める”時間。


⸻


それから。


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何かを書く。


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短く。


⸻


迷いなく。


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それで終わる。


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書いた内容は、見えない。


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ただ。


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“残すことを選んだもの”がある。


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ペンを置く。


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指先が、ほんのわずかに止まる。


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それから、離れる。


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椅子から立ち上がる。


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部屋を出る。


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静かに。


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いつも通りに。


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足音も、変わらない。


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それでも。


⸻


どこかだけ。


⸻


まだ、終わっていない。


⸻


終わらせていない。


⸻


そのまま、夜の中へ溶けていく。


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