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毎日来る副校長が、なぜか“会計の瞬間だけ消える”話  作者: おみき
第7章「同じ音、違う意味」
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第40話 同じ音、違う意味

数日後。


⸻


いつも通りの場所。


⸻


レジに立つ。


⸻


同じエプロン。


⸻


同じ景色。


⸻


それでも。


⸻


少しだけ、世界が違う。


⸻


色が変わったわけじゃない。


⸻


音も、匂いも、同じ。


⸻


ただ。


⸻


“触れ方”が、違う。


⸻


私は、呼吸を整える。


⸻


浅くならないように。


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崩れないように。


⸻


「いらっしゃいませ」


⸻


声を出す。


⸻


いつも通り。


⸻


でも。


⸻


前より、少しだけ軽い。


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押しつけていない声。


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自分のままの声。


⸻


自動ドアが開く音。


⸻


あの音。


⸻


何度も聞いてきたはずなのに。


⸻


今日は、少しだけ違って聞こえる。


⸻


少しだけ。


⸻


待っていた音みたいに。


⸻


私は、顔を上げる。


⸻


その人がいる。


⸻


変わらないはずの姿。


⸻


でも。


⸻


ちゃんと戻ってきた姿。


⸻


“消えなかった人”。


⸻


「袋、いりません」


⸻


同じ言葉。


⸻


同じ温度。


⸻


それだけで。


⸻


胸の奥が、少しだけ温かくなる。


⸻


私は、小さく頷く。


⸻


商品をスキャンする。


⸻


ピッ、という音。


⸻


一定のリズム。


⸻


変わらないはずの音。


⸻


それが、少しだけ嬉しい。


⸻


前と同じはずなのに。


⸻


全部が違う。


⸻


私は、少しだけ視線を上げる。


⸻


その人を見る。


⸻


ほんの一瞬だけ。


⸻


目が合う。


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逸らさない。


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どちらも。


⸻


逃げない。


⸻


追わない。


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ただ。


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そこに置く。


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それだけの距離。


⸻


「……お身体、大丈夫ですか」


⸻


自然に出た言葉。


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考えていない。


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整えてもいない。


⸻


そのまま。


⸻


その人は、少しだけ間を置く。


⸻


ほんの一瞬。


⸻


どこまで答えるか、測るように。


⸻


「まあ」


⸻


短く答える。


⸻


曖昧で。


⸻


十分で。


⸻


ちょうどいい。


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それ以上はいらない。


⸻


それでも。


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それで、全部足りている。


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私は、小さく息を吐く。


⸻


知らないうちに詰めていたものが、


少しだけほどける。


⸻


商品を手渡す。


⸻


そのとき。


⸻


指先が触れる。


⸻


ほんの一瞬。


⸻


一瞬だけなのに。


⸻


時間が、わずかに伸びる。


⸻


熱が、伝わる。


⸻


冷たくない。


⸻


ちゃんと、生きている温度。


⸻


それだけで。


⸻


現実が、はっきりする。


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ここにいる。


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戻ってきている。


⸻


私は、少しだけ指を引く。


⸻


名残を残さないように。


⸻


残りすぎないように。


⸻


「ありがとうございました」


⸻


私は、言う。


⸻


今度は、少しだけ柔らかく。


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押しつけない。


⸻


でも、逃げない。


⸻


その人は、軽く頷く。


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そのまま、背を向ける。


⸻


自動ドアが開く。


⸻


外の光が入る。


⸻


白く、強く。


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その中へ、歩いていく。


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足取りは、少しだけゆっくり。


⸻


でも、止まらない。


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私は、その背中を見送る。


⸻


前と同じ。


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それでも。


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もう、同じじゃない。


⸻


“知っている背中”になっている。


⸻


自動ドアが閉まる。


⸻


いつもの音。


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それなのに。


⸻


少しだけ、長く残る。


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余韻みたいに。


⸻


私は、視線をレジに戻す。


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指先を見る。


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さっき触れた場所。


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何も残っていないはずなのに。


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ほんの少しだけ、感覚がある。


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消えないほどじゃない。


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でも、消えても困るくらい。


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次の客が来る。


⸻


私は、顔を上げる。


⸻


「いらっしゃいませ」


⸻


日常は、続いていく。


⸻


止まらない。


⸻


それでいいと思った。


⸻


全部が変わる必要はない。


⸻


壊れる必要もない。


⸻


ただ。


⸻


少しだけ。


⸻


意味が変わればいい。


⸻


同じ言葉でも。


⸻


同じ動きでも。


⸻


そこにある気持ちが、少し違えばいい。


⸻


それだけで。


⸻


世界は、ちゃんと変わる。


⸻


それだけで、十分だった。


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