第30話 関わるな
同じ時間。
同じ場所。
同じ店。
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変わらない。
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そう思っている。
思おうとしている。
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自動ドアが開く。
いつもの音。
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中に入る。
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視線は動かさない。
必要以上に見ない。
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それでいい。
それが一番いい。
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それなのに。
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分かる。
そこにいる。
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あの子。
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レジに立っている。
いつも通り。
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変わらない動き。
無駄がない。
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でも。
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揺れている。
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ほんのわずかに。
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他の客には分からない。
見ようとしなければ、見えない。
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それでも。
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見えてしまう。
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指先。
声のトーン。
視線の落ち方。
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全部。
少しだけ、陰がある。
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理由も分かる。
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聞く必要はない。
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見れば分かる。
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――分かってしまう。
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並ぶ。
順番を待つ。
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時間は短い。
それでいい。
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長くはいられない。
ここに長くいるべきじゃない。
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分かっている。
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それでも。
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足が止まる。
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理由は単純だ。
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そこにいるから。
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それだけ。
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順番が来る。
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目が合う。
ほんの一瞬。
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それだけで、十分だった。
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「いらっしゃいませ」
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声が届く。
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少しだけ、柔らかい。
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昨日より。
一昨日より。
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ほんの少しだけ。
変わっている。
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その変化を、
拾ってしまう。
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拾う必要はないのに。
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――よくない。
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分かっている。
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関わるべきじゃない。
巻き込むべきじゃない。
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あの子は。
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こちら側じゃない。
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そのままでいい。
そのままでいるべきだ。
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それなのに。
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目が離れない。
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理由はない。
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ただ、
見てしまう。
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少しだけ無理をしている指先。
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押さえた声。
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考えすぎている視線。
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全部、
拾えてしまう。
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分かる必要はないのに。
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分かってしまう。
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会計をする。
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バーコード。
音。
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いつも通り。
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それで終わるはずだった。
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そのはずなのに。
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言葉が出る。
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予定していない言葉。
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「平泉さん」
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呼んでしまう。
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一瞬だけ、止まる。
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それでも、続ける。
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「今日は、少し元気ですね」
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余計なことだ。
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言う必要はない。
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それでも。
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口にしてしまった。
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あの子が、少しだけ止まる。
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それから、返す。
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「……そうですか?」
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短く。
迷いながら。
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それでいい。
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それ以上、いらない。
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それ以上は、踏み込まない。
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踏み込んではいけない。
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分かっている。
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線は、引く。
必ず。
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会計が終わる。
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商品を受け取る。
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それで終わり。
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それでいい。
それが正しい。
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それなのに。
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足が止まる。
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ほんの一瞬。
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視線が落ちる。
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あの子の手。
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昨日より、少しだけ良い。
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確認する。
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――確認してしまう。
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それだけ。
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それ以上は見ない。
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見てはいけない。
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そのまま、店を出る。
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振り返らない。
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理由を作らない。
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外に出る。
空気が変わる。
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現実に戻る。
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それでいい。
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それなのに。
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少しだけ、残る。
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「……関わるな」
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小さく呟く。
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誰に言うでもない。
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分かっている。
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それでも。
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「……でも」
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そこで、止める。
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続けない。
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続けたら、
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戻れなくなる。




