表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/177

第30話 関わるな

同じ時間。


同じ場所。


同じ店。



変わらない。



そう思っている。


思おうとしている。



自動ドアが開く。


いつもの音。



中に入る。



視線は動かさない。


必要以上に見ない。



それでいい。


それが一番いい。



それなのに。



分かる。


そこにいる。



あの子。



レジに立っている。


いつも通り。



変わらない動き。


無駄がない。



でも。



揺れている。



ほんのわずかに。



他の客には分からない。


見ようとしなければ、見えない。



それでも。



見えてしまう。



指先。


声のトーン。


視線の落ち方。



全部。


少しだけ、陰がある。



理由も分かる。



聞く必要はない。



見れば分かる。



――分かってしまう。



並ぶ。


順番を待つ。



時間は短い。


それでいい。



長くはいられない。


ここに長くいるべきじゃない。



分かっている。



それでも。



足が止まる。



理由は単純だ。



そこにいるから。



それだけ。



順番が来る。



目が合う。


ほんの一瞬。



それだけで、十分だった。



「いらっしゃいませ」



声が届く。



少しだけ、柔らかい。



昨日より。


一昨日より。



ほんの少しだけ。


変わっている。



その変化を、


拾ってしまう。



拾う必要はないのに。



――よくない。



分かっている。



関わるべきじゃない。


巻き込むべきじゃない。



あの子は。



こちら側じゃない。



そのままでいい。


そのままでいるべきだ。



それなのに。



目が離れない。



理由はない。



ただ、


見てしまう。



少しだけ無理をしている指先。



押さえた声。



考えすぎている視線。



全部、


拾えてしまう。



分かる必要はないのに。



分かってしまう。



会計をする。



バーコード。


音。



いつも通り。



それで終わるはずだった。



そのはずなのに。



言葉が出る。



予定していない言葉。



「平泉さん」



呼んでしまう。



一瞬だけ、止まる。



それでも、続ける。



「今日は、少し元気ですね」



余計なことだ。



言う必要はない。



それでも。



口にしてしまった。



あの子が、少しだけ止まる。



それから、返す。



「……そうですか?」



短く。


迷いながら。



それでいい。



それ以上、いらない。



それ以上は、踏み込まない。



踏み込んではいけない。



分かっている。



線は、引く。


必ず。



会計が終わる。



商品を受け取る。



それで終わり。



それでいい。


それが正しい。



それなのに。



足が止まる。



ほんの一瞬。



視線が落ちる。



あの子の手。



昨日より、少しだけ良い。



確認する。



――確認してしまう。



それだけ。



それ以上は見ない。



見てはいけない。



そのまま、店を出る。



振り返らない。



理由を作らない。



外に出る。


空気が変わる。



現実に戻る。



それでいい。



それなのに。



少しだけ、残る。



「……関わるな」



小さく呟く。



誰に言うでもない。



分かっている。



それでも。



「……でも」



そこで、止める。



続けない。



続けたら、



戻れなくなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ