↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/177

第29話 言えなかったこと

あの日のことを、思い出す。


⸻


レジの前。


いつも通りのやり取り。


⸻


「なんで、勝手にやるんですか」


⸻


自分の声。


静かで。


冷たくて。


はっきりしていた。


⸻


あの人は、何も言い返さなかった。


⸻


ただ。


ほんの少しだけ、視線を落とした。


⸻


そのときの表情を。


今になって、思い出す。


⸻


はっきりとは、見えていなかったはずなのに。


⸻


なぜか、残っている。


⸻


少しだけ。


⸻


遠くを見るような、目。


⸻


私は、目を閉じる。


⸻


何もできなかった。


何も選べなかった。


⸻


それは、事実だと思う。


⸻


それでも。


⸻


あの言葉は、違ったかもしれない。


⸻


責めたかったわけじゃない。


⸻


ただ。


⸻


怖かった。


⸻


自分で決めていると思っていたことが、


どこまで本当なのか、分からなくなって。


⸻


その不安を、


あの人に向けただけだった。


⸻


――それでも。


⸻


ゆっくりと、言葉が浮かぶ。


⸻


あの人は、何も言わなかった。


⸻


言い訳も。


否定も。


⸻


何も。


⸻


そのことの方が、


少しだけ、重い。


⸻


私は、ゆっくりと息を吐く。


⸻


何を、決められるというのだろう。


⸻


そう思う。


⸻


でも。


⸻


何も決めなかったままで、


済ませていいわけでもない。


⸻


その間に、立たされている。


⸻


今は、まだ。


⸻


どちらにも、寄れないまま。


⸻


胸の奥に、残るものがある。


⸻


消えない。


⸻


消えなくていいのかもしれない。


⸻


そう思ったところで、


まだ、言葉にはならなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。