第24話 施されている
流れがある。
そう思ったのは、初めてだった。
⸻
自分の意思とは関係なく、
何かが進んでいく。
⸻
そんな感覚。
⸻
昼過ぎ。
スマートフォンを見る。
⸻
母からのメッセージ。
『術後検査、問題なかったって』
⸻
短い言葉。
⸻
それだけ。
⸻
それなのに。
⸻
止まらない。
⸻
私は、しばらく画面を見ていた。
⸻
「……早すぎる」
小さく呟く。
⸻
あり得ることなのか。
分からない。
⸻
それでも、現実としてそこにある。
⸻
仕事に向かう。
いつも通りの道。
⸻
それでも、足が少しだけ重い。
⸻
レジに立つ。
いつも通りの場所。
⸻
その人はいない。
⸻
来ない。
⸻
当然だと思う。
⸻
自分で、線を引いたから。
⸻
それでも。
⸻
何かが、残っている。
⸻
昼過ぎ。
同僚の声が聞こえる。
⸻
「聞いた? あの病院」
⸻
私は、手を止めない。
⸻
それでも、耳だけがそちらに向く。
⸻
「紹介じゃないと、まず入れないらしいよ」
⸻
その言葉に、胸がわずかにざわつく。
⸻
「すごい先生いるんだって」
⸻
笑いながらの会話。
ただの雑談。
⸻
それでも。
⸻
私は、少しだけ呼吸を忘れる。
⸻
――紹介。
⸻
頭の中で、言葉が重なる。
⸻
「できますよ」
⸻
短い一言。
⸻
それだけで、何かが動いた。
⸻
私は、ゆっくりと息を吐く。
⸻
偶然。
⸻
そう思おうとする。
⸻
でも。
⸻
それだけでは、足りない。
⸻
夜。
店を出る。
空気が、少しだけ冷たい。
⸻
歩きながら、考える。
⸻
――頼んでいない。
⸻
あの人に。
⸻
はっきりと、頼んだわけじゃない。
⸻
それでも。
⸻
進んでいる。
⸻
手術も。
ドナーも。
⸻
全部が。
⸻
少しずつ。
⸻
自分の外で。
⸻
ふと、足を止める。
⸻
胸の奥が、ざわつく。
⸻
これは。
⸻
私の力じゃない。
⸻
そう思ってしまう。
⸻
思ってしまった。
⸻
私は、ゆっくりと息を吐く。
⸻
考えないようにする。
⸻
そうしないと。
⸻
どこまでが自分で、
どこからが自分じゃないのか。
⸻
分からなくなる気がした。
⸻
家に帰る。
ドアを閉める。
静かな部屋。
⸻
それでも、どこかだけ落ち着かない。
⸻
私は、スマートフォンを手に取る。
⸻
連絡先を開く。
⸻
そこに、名前はない。
⸻
それでも、浮かぶ。
⸻
あの人のこと。
⸻
指が、少しだけ動く。
⸻
止まる。
⸻
――違う。
⸻
これは。
⸻
自分で決めたことじゃない。
⸻
そう思う。
⸻
それでも。
⸻
どこかで。
⸻
自分も、その流れに乗っている。
⸻
そんな気がした。
⸻
私は、ゆっくりと画面を閉じる。
⸻
何も押さない。
何も選ばない。
⸻
それでも。
⸻
何かが、確実に進んでいる。




