↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/177

第23話 線を引く

受け入れた。


⸻


そう思うことにして、

次の日も、いつも通りに仕事に行く。


⸻


同じ道。

同じ景色。


⸻


それでも、少しだけ足取りが重い。


⸻


昨日のことが、残っている。


⸻


父の声。

震えていた手。


⸻


「なんとかする」


⸻


あの言葉が、消えない。


⸻


レジに立つ。


いつも通りの場所。


⸻


それでも、どこか落ち着かない。


⸻


自動ドアが開く音がする。


顔を上げる。


⸻


その人がいた。


⸻


変わらないはずの姿。


⸻


それなのに、今日は少しだけ違って見える。


⸻


近い。


⸻


そう感じてしまう。


⸻


「いらっしゃいませ」


「袋、いりません」


⸻


商品をスキャンする。


ピッ、という音が響く。


⸻


私は、視線を落としたまま考える。


⸻


――この人なら。


⸻


その続きを、考えてしまう。


⸻


だから。


ここで止める。


⸻


「……あの」


⸻


気づけば、声が出ていた。


⸻


その人が、視線を上げる。


⸻


私は、少しだけ息を整える。


⸻


「……もう、大丈夫です」


⸻


言葉にすると、少しだけ現実になる。


⸻


「いろいろ、ありがとうございました」


⸻


続ける。


⸻


それで終わるはずだった。


⸻


それでも。


⸻


「これ以上は」


⸻


少しだけ、言葉が詰まる。


⸻


それでも。


⸻


「……頼らないで、やってみたいので」


⸻


言い直す。


⸻


静かに。


⸻


逃げるみたいにならないように。


⸻


その人は、ほんの一瞬だけ視線を落とす。


すぐに戻る。


⸻


「そうですか」


⸻


それだけ。


⸻


否定しない。

引き止めない。


⸻


それが、逆に苦しかった。


⸻


私は、視線を上げられない。


⸻


間違っていない。


そう思う。


⸻


これでいい。


そう思う。


⸻


それでも。


⸻


どこかで、少しだけ崩れている。


⸻


会計を終える。


「ありがとうございました」


⸻


その人は、軽く頷く。


⸻


自動ドアが開く。


背中が遠ざかる。


⸻


私は、その場に立ったまま動けなかった。


⸻


――これでいい。


⸻


そう思う。


⸻


頼らない。


⸻


あとは、自分でやる。


⸻


父も、そう言った。


⸻


だから。


これでいい。


⸻


それなのに。


⸻


少しだけ、息がしづらい。


⸻


何かを、押し込めたみたいに。


⸻


自動ドアが閉まる音がする。


⸻


その音が、少しだけ遠く聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。