第23話 線を引く
受け入れた。
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そう思うことにして、
次の日も、いつも通りに仕事に行く。
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同じ道。
同じ景色。
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それでも、少しだけ足取りが重い。
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昨日のことが、残っている。
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父の声。
震えていた手。
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「なんとかする」
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あの言葉が、消えない。
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レジに立つ。
いつも通りの場所。
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それでも、どこか落ち着かない。
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自動ドアが開く音がする。
顔を上げる。
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その人がいた。
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変わらないはずの姿。
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それなのに、今日は少しだけ違って見える。
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近い。
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そう感じてしまう。
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「いらっしゃいませ」
「袋、いりません」
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商品をスキャンする。
ピッ、という音が響く。
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私は、視線を落としたまま考える。
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――この人なら。
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その続きを、考えてしまう。
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だから。
ここで止める。
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「……あの」
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気づけば、声が出ていた。
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その人が、視線を上げる。
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私は、少しだけ息を整える。
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「……もう、大丈夫です」
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言葉にすると、少しだけ現実になる。
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「いろいろ、ありがとうございました」
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続ける。
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それで終わるはずだった。
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それでも。
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「これ以上は」
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少しだけ、言葉が詰まる。
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それでも。
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「……頼らないで、やってみたいので」
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言い直す。
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静かに。
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逃げるみたいにならないように。
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その人は、ほんの一瞬だけ視線を落とす。
すぐに戻る。
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「そうですか」
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それだけ。
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否定しない。
引き止めない。
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それが、逆に苦しかった。
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私は、視線を上げられない。
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間違っていない。
そう思う。
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これでいい。
そう思う。
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それでも。
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どこかで、少しだけ崩れている。
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会計を終える。
「ありがとうございました」
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その人は、軽く頷く。
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自動ドアが開く。
背中が遠ざかる。
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私は、その場に立ったまま動けなかった。
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――これでいい。
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そう思う。
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頼らない。
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あとは、自分でやる。
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父も、そう言った。
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だから。
これでいい。
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それなのに。
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少しだけ、息がしづらい。
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何かを、押し込めたみたいに。
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自動ドアが閉まる音がする。
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その音が、少しだけ遠く聞こえた。




