第Ⅲ章「高校、世古という異物」
進学校に進んだ。
優秀な生徒ばかりがいる場所。
医者、弁護士、研究者、官僚。
そういう未来を当然みたいに語るやつらが集まっていた。
清水は、その空気に馴染んでいた。
理屈で話せる。
感情より先に、構造を見られる。
努力も継続できる。
周囲から見れば、清水は順調だった。
だが、その学校にひとり、変なやつがいた。
世古公士。
最初の印象は、うまく言えなかった。
真面目だ。
でも、優等生っぽくない。
頭は切れる。
でも、それを誇らない。
よく分からないところで立ち止まって、
よく分からないところに首を突っ込む。
清水は、最初、少しだけ距離を取った。
(面倒そうだな)
本気でそう思っていた。
なのに、気づけば隣にいる。
グループ課題で自然に同じ班になる。
昼休みに、いつの間にか近くの席にいる。
清水が本を読んでいると、横から覗いてくる。
「それ、面白い?」
「人による」
「清水は?」
「面白い」
「じゃあ面白いんだろうね」
意味が分からない。
ある日、清水は少しだけ苛立って言った。
「お前、なんなんだよ」
世古は、本気で不思議そうな顔をした。
「なにが?」
「なんでそんな自然に入ってくるんだ」
世古は少し考えてから、肩をすくめた。
「嫌だった?」
清水は言葉に詰まった。
嫌、ではなかった。
ただ、説明できない。
この男は、人との距離の詰め方が変だった。
媚びない。
探らない。
でも、ちゃんと見ている。
その“見られている感じ”が、気持ち悪くて、
少しだけ楽だった。
清水は、その感覚にまだ名前をつけられなかった。




