表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/177

第11話 同じ時間にいない人

自分と同じくらいの年齢に見える。


実際は、四十代後半。


ホームページの紹介でも確認したのに。


ふと、そう思う。



弁護士の清水も。

医師の井上も。


落ち着いていて、整っていて、無駄がない。


それでも。


どこか、軽さが残っている。



重さを知っているはずなのに、

それを背負っている感じがしない。


うまく言えない。


ただ。


“今”にいる人たち、という感じがする。



それに対して。


あの人は、違う。


整っている。

落ち着いている。


それなのに。


どこかだけ、時間が止まっているように見える。



――疲れている。


そう思う。


理由は分からない。


ただ、そう感じる。



夜。


レジに立ちながら、そのことを考えている。



自動ドアが開く音がする。


顔を上げる。


その人がいた。



変わらないはずの姿。


それでも。


前よりも、また少しだけ違って見える。



「いらっしゃいませ」


声をかける。


「袋、いりません」


同じ言葉。



商品をスキャンする。


ピッ、という音が響く。


ほんの少しだけ、間ができる。



「……あの」


気づけば、また声が出ていた。



その人が、視線を上げる。



私は、少しだけ迷う。


何を聞くのか。

何を言うのか。


分かっていないまま。



「……同じくらいに見えます」


言ってから、少しだけ後悔する。


何の話なのか、自分でも分からない。



その人は、何も言わない。


それでも。


ほんの少しだけ、続きを待っている気がした。



私は、言葉を探す。


「清水さんも」


名前を出してから、少しだけ驚く。


「井上先生も」


止められなかった。



「……同じくらいの年齢に見えるのに」


そこまで言って、言葉が詰まる。


違う。


本当に言いたいのは、それじゃない。



それでも。


「……なんか、違いますよね」


ようやく形になる。


曖昧な言葉。


それでも、それしか出てこなかった。



その人は、少しだけ目を細める。


笑ったのかどうかは、分からない。



「そうですか」


静かな声だった。


肯定でも、否定でもない。


ただ、受け取っただけ。



それでも。


ほんのわずかに、何かが動いた気がした。



私は、もう一度だけ言葉を探す。


――聞きたい。


そう思う。


でも。



「……疲れてるように見えます」


気づけば、そう言っていた。



言った瞬間、空気が少しだけ変わる。


取り消したくなる。


それでも。


もう遅かった。



その人は、ほんのわずかに視線を落とす。


初めて、表情が揺れた気がした。


ほんの一瞬だけ。


すぐに戻る。



「そう見えるなら、そうなのかもしれません」



それだけ。


否定しない。

説明もしない。



それなのに。


それ以上、聞けなくなる。



会計を終える。


「ありがとうございました」


その人は、軽く頷く。



自動ドアが開く。


背中が遠ざかる。



私は、その場に立ったまま、動けなかった。



――同じ時間にいない。


そう思う。



同じ場所にいるはずなのに。

同じ時間を生きているはずなのに。


あの人だけ、どこかが違う。



私は、ゆっくりと息を吐く。


少しだけ、踏み込みすぎた気がした。



それでも。



もう、知らないふりはできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ