第11話 同じ時間にいない人
自分と同じくらいの年齢に見える。
実際は、四十代後半。
ホームページの紹介でも確認したのに。
ふと、そう思う。
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弁護士の清水も。
医師の井上も。
落ち着いていて、整っていて、無駄がない。
それでも。
どこか、軽さが残っている。
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重さを知っているはずなのに、
それを背負っている感じがしない。
うまく言えない。
ただ。
“今”にいる人たち、という感じがする。
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それに対して。
あの人は、違う。
整っている。
落ち着いている。
それなのに。
どこかだけ、時間が止まっているように見える。
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――疲れている。
そう思う。
理由は分からない。
ただ、そう感じる。
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夜。
レジに立ちながら、そのことを考えている。
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自動ドアが開く音がする。
顔を上げる。
その人がいた。
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変わらないはずの姿。
それでも。
前よりも、また少しだけ違って見える。
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「いらっしゃいませ」
声をかける。
「袋、いりません」
同じ言葉。
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商品をスキャンする。
ピッ、という音が響く。
ほんの少しだけ、間ができる。
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「……あの」
気づけば、また声が出ていた。
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その人が、視線を上げる。
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私は、少しだけ迷う。
何を聞くのか。
何を言うのか。
分かっていないまま。
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「……同じくらいに見えます」
言ってから、少しだけ後悔する。
何の話なのか、自分でも分からない。
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その人は、何も言わない。
それでも。
ほんの少しだけ、続きを待っている気がした。
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私は、言葉を探す。
「清水さんも」
名前を出してから、少しだけ驚く。
「井上先生も」
止められなかった。
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「……同じくらいの年齢に見えるのに」
そこまで言って、言葉が詰まる。
違う。
本当に言いたいのは、それじゃない。
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それでも。
「……なんか、違いますよね」
ようやく形になる。
曖昧な言葉。
それでも、それしか出てこなかった。
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その人は、少しだけ目を細める。
笑ったのかどうかは、分からない。
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「そうですか」
静かな声だった。
肯定でも、否定でもない。
ただ、受け取っただけ。
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それでも。
ほんのわずかに、何かが動いた気がした。
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私は、もう一度だけ言葉を探す。
――聞きたい。
そう思う。
でも。
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「……疲れてるように見えます」
気づけば、そう言っていた。
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言った瞬間、空気が少しだけ変わる。
取り消したくなる。
それでも。
もう遅かった。
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その人は、ほんのわずかに視線を落とす。
初めて、表情が揺れた気がした。
ほんの一瞬だけ。
すぐに戻る。
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「そう見えるなら、そうなのかもしれません」
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それだけ。
否定しない。
説明もしない。
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それなのに。
それ以上、聞けなくなる。
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会計を終える。
「ありがとうございました」
その人は、軽く頷く。
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自動ドアが開く。
背中が遠ざかる。
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私は、その場に立ったまま、動けなかった。
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――同じ時間にいない。
そう思う。
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同じ場所にいるはずなのに。
同じ時間を生きているはずなのに。
あの人だけ、どこかが違う。
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私は、ゆっくりと息を吐く。
少しだけ、踏み込みすぎた気がした。
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それでも。
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もう、知らないふりはできなかった。




