ー【第4節】教授たちとの決別と宮廷錬金術師への道
第4節 教授たちとの決別と宮廷錬金術師への道
ある日、実技の授業で事件は起きた。
課題は「ミスリル銀の精製」。通常なら数時間かけ、高温の炉と大量の触媒を使って行う高難易度の錬金術だ。
「よし、始め!」
教師の合図と共に、生徒たちは一斉に詠唱を始め、炉に火を入れる。汗だくになりながら材料をかき混ぜる彼らを他所に、アルスはただ黙って目の前の鉄屑を見つめていた。
「おいロウェル! 何をしている、早く始めろ!」
教師が怒鳴りつける。しかしアルスは動じない。彼の脳内では、禁書庫で得た知識と師匠の教えが高速で回転し、最適な術式を構築していた。
「……再構築」
アルスが小さく呟き、指先で鉄屑に触れる。
カッ!
一瞬、眩い閃光が教室を包んだ。光が収まると、そこには不純物一つない、鏡のように輝く最高純度のミスリルインゴットが鎮座していた。
「な……っ!?」
教師も生徒たちも、言葉を失った。炉も触媒も使わず、たった一秒で? しかも、国宝級の純度で?
「ば、馬鹿な! 不正だ! 貴様、何をした!?」
教師がアルスの胸ぐらを掴む。理解できない恐怖と、自分の立場が脅かされる焦りが、彼を狂わせていた。
「不正じゃない。これが、本当の錬金術です」
アルスは静かに、しかし力強く言い返した。その瞳には、もはや彼らに対する恐怖も劣等感もなかった。あるのは、真理を知る者だけが持つ、揺るぎない自信だけ。
この一件は、すぐに教授会で問題となった。
「あのような異端を許してはならん!」
「学院の権威に関わる!」
「危険思想だ、排除すべきだ!」
保身に走る教授たちは結託し、アルスを「早期卒業」という名目で追い出すことを決定した。表向きは優秀さを認めた形だが、実質的な追放処分だ。まだ五歳の子供を、後ろ盾のない社会に放り出す。それは死刑宣告にも等しかった。
荷物をまとめ、学院の門を出ようとするアルス。背中にはマリモが入ったリュック。行き先などない。故郷に帰れば家族に迷惑がかかる。
「……どこへ行こうか、師匠」
『フン、世界の果てまで冒険するのも悪くないぞ』
強がりを言う二人の前に、一台の豪華な馬車が止まった。窓が開き、中から威厳ある初老の男性が顔を出す。
「待ちたまえ、アルス・ロウェル君」
「……誰ですか?」
「私はオーガスト・ヴァン・ルミナリア。この学院の長だ」
学院長!? アルスは身構えた。追放処分の最終通告だろうか。
しかし、オーガストは穏やかに微笑んだ。
「君の噂は聞いている。……いや、ヘルメスから報告を受けていたよ。『とんでもない天才がいる』とな」
「……」
「教授連中は君を恐れたが、私は違う。君の才能を、この国のために活かしてほしいと思っている」
オーガストは一枚の羊皮紙を差し出した。そこには、王家の紋章と共に、信じられない言葉が記されていた。
「『近衛騎士団専属・宮廷錬金術師』への任命書だ」
「えっ……!?」
「君の実力なら、形式的な試験など不要だ。最前線で、その力を証明してみせたまえ。……ただし、環境は過酷だぞ。それでもやるかね?」
アルスは羊皮紙を見つめ、そしてマリモ師匠のいるリュックをぎゅっと握りしめた。
ここで逃げれば、ただの追放者だ。でも、この道を進めば、いつか自分を認めさせ、故郷のみんなを守れる力を手に入れられるかもしれない。
「やります。……僕に、やらせてください!」
オーガストは満足げに頷いた。
「よろしい。では行きたまえ、若き天才よ。君の錬金術が、この国の未来を変えることを期待している」
こうして、五歳の少年アルス・ロウェルは、史上最年少の宮廷錬金術師として、新たな戦場へと足を踏み入れることになった。
それは栄光への第一歩であり、同時に、腐敗した王国との決別へと続く、波乱の幕開けでもあった。




