ー【第2節】書物館での出会いとバベルの鍵の真価
第2節 書物館での出会いとバベルの鍵の真価
王立書物館。そこはルミナリア国内でも最大規模の蔵書数を誇る、知識の宝庫だ。高い天井まで届く書架には、錬金術だけでなく、歴史、地理、魔物学など、あらゆる分野の本がぎっしりと並んでいる。
「ここなら……誰にも邪魔されない」
アルスは隅の席を確保し、手当たり次第に本を積み上げた。
彼には、マリモ師匠から授かった『バベルの鍵』がある。どんな難解な専門書も、古い言語で書かれた歴史書も、彼にとっては絵本を読むように簡単に理解できた。
『ほう、これは興味深いな。数百年前の魔術体系か』
マリモ師匠もリュックから顔を出し、アルスと一緒に本を覗き込む。
「うん。でも、こっちの記述は間違ってる。魔力の波長が逆だよ」
『ふむ、人間の研究など所詮はその程度か』
二人は時間を忘れて本に没頭した。昼休みも放課後も、時には夜遅くまで、アルスは書物館に籠り続けた。いじめっ子たちも、教師たちも、本の虫になったアルスには興味を失っていった。
そんな生活が一年ほど続いたある日。
アルスは一般書架にある本を、ほぼ全て読み尽くしてしまっていた。五歳になった彼は、子供とは思えないほどの知識を蓄えていたが、同時に新たな渇きを感じていた。
「もっと……もっと知らないことを知りたい」
そんな彼の前に、一人の老人が現れた。白髪に丸眼鏡、そして何とも言えない知的な雰囲気を纏った人物だ。
「ふぉっふぉっふぉ。熱心じゃな、少年」
「あ……あなたは?」
「わしか? わしはここのしがない管理人、ヘルメス・トリスじゃよ」
彼は王立書物館の館長であり、実は学院内でも一目置かれる賢者だった。ヘルメスは、アルスが入学当初から毎日通い詰め、驚異的なペースで本を読破していることに気づいていたのだ。
「君の目は、知識への純粋な飢えをしておる。……どうじゃ、もっと面白い場所へ案内してやろうか?」
「面白い場所……?」
「うむ。教授連中ですら許可が必要な、秘密の部屋じゃ」
ヘルメスは悪戯っぽく笑い、書架の奥にある隠し扉を開いた。そこには重厚な鉄の扉があり、「禁書庫」というプレートが掲げられていた。




