【第2章】【第1節】王立錬金術学院での孤独な日々、特待生への冷遇
第2章 禁書庫の知識と追放
第1節 王立錬金術学院での孤独な日々、特待生への冷遇
王立錬金術学院。それは階層都市国家ルミナリアの上層に位置する、白亜の塔群だ。貴族の子弟たちが学び、国の未来を担うエリート錬金術師を育成する最高学府。本来なら、最下層出身の子供が足を踏み入れることなど許されない神聖な場所だ。
しかし、アルス・ロウェルにとって、そこは絢爛豪華な牢獄でしかなかった。
「おい、ドブネズミ! 今日も一段と臭いな!」
「寄るなよ、菌が移る!」
廊下を歩くだけで罵声が飛んでくる。特待生として入学した四歳のアルスに対し、周囲の目は冷たかった。貴族の子弟たちにとって、スラム出身のアルスは異物であり、同時に「自分たちより優秀な成績で入学した」という事実が許せない存在だったのだ。
アルスの制服には、初日からインクや泥をかけられた痕が残っていた。教科書は破られ、実験道具には細工が施されていた。教師たちでさえ、見て見ぬふりをするどころか、「下賤な者が分を弁えないからだ」と嘲笑っていた。
「……気にしない、気にしない」
アルスは自分に言い聞かせるように呟き、ボロボロの教科書を開く。彼には、言い返す言葉も、助けを求める相手もいなかった。唯一の味方であるマリモ師匠は、学院内ではぬいぐるみのフリをして、アルスのリュックの中でじっと耐えている。
『アルス、我慢ならん。一発ブレスでも吐いてやろうか』
「だめだよ師匠。そんなことしたら、ばあちゃんたちに迷惑がかかる」
アルスは必死にマリモを宥める。人質同然に故郷に残してきた人々のことを考えれば、どんな仕打ちにも耐えるしかなかった。
しかし、学院の授業は、いじめ以上にアルスを苦しませた。それは退屈という名の拷問だったからだ。
「えー、本日は『初級ポーション生成』を行う。まず水と薬草を鍋に入れ、右回りに三回、左回りに二回かき混ぜながら詠唱を……」
教師の説明を聞きながら、アルスはあくびを噛み殺した。
そんな儀式的な手順、無駄だらけだ。師匠の教えによれば、物質の構造を理解し、魔力を直接干渉させれば一瞬で済む。
「おいロウェル、何あくびをしている! 貴様にはまだ早かったか? ドブ川の水でも汲んでいろ!」
「……すみません」
アルスは大人しく謝ったが、内心では呆れていた。この学院の錬金術は、効率よりも形式や権威付けを重視しすぎて、本質からかけ離れてしまっている。ここで学ぶことは何もない。
そう悟ったアルスは、次第に授業をサボるようになった。彼が向かった先は、学院の最奥にある巨大な建物――「王立書物館」だった。




