ー【第3節】翠玉の古龍の正体と、最強生物たちとの同盟
第3節 翠玉の古龍の正体と、最強生物たちとの同盟
霧の樹海。Sクラスの魔物が跋扈する人類未踏の地。
しかし、今のアルスにとっては庭のようなものだった。彼が開発した「ビーストチャオ」を定期的に森へ供給することで、魔物たちは空腹を満たし、街を襲う必要がなくなっていたからだ。
「グルルッ(アルス、こっちだ)」
「ガウッ(美味い飯をありがとう)」
凶暴なはずの魔物たちが、アルスを見ると尻尾を振って寄ってくる。バベルの鍵を持つアルスには、彼らの感謝の言葉がはっきりと聞こえていた。
樹海の最深部。そこには、天を衝くような巨木――世界樹の切り株である『白聖樹』が鎮座していた。神秘的な光を放つその場所で、マリモ師匠は立ち止まった。
『よく来たな、我が弟子よ。……ここが我の本来の玉座だ』
マリモ師匠の体が眩い光に包まれる。
小さな毛玉の姿が膨れ上がり、鱗に覆われ、巨大な翼と千の眼を持つ、威厳あるドラゴンの姿へと変わっていく。
「し、師匠……!?」
『我が名は翠玉の古龍グラン・ヴェルデ。この樹海と、星の緑を統べる者なり』
その圧倒的な存在感に、アルスは息を呑んだ。しかし、不思議と恐怖はなかった。その眼差しは、あの毛玉の時と同じく、温かく自分を見守ってくれていたからだ。
『アルスよ。貴様は我の命を救い、この森の眷属たちをも満たしてくれた。……よって、我は貴様と魂の盟約を結ぶ』
グラン・ヴェルデは巨大な頭を下げ、アルスの小さな手に触れた。
『これより我らは運命共同体。森の民は、貴様とアッシュバーデンの友となる』
「ありがとう、師匠……! ううん、グラン・ヴェルデ様!」
『マリモでいい。その名も気に入っておる』
こうして、アッシュバーデンは最強の守護者を手に入れた。
街の子供たちがS級魔物の背に乗って遊び、主婦たちが魔物と一緒に井戸端会議をする。そんな信じられない光景が日常となったのだ。
さらに、アルスの冒険は陸だけに留まらなかった。
マリモ師匠の提案で訪れた「東方限界海域」でのバカンス。そこで出会ったのは、海淵の聖牛神ヴォル・アピス――通称「アピスちゃん」だった。
「モ〜ッ!(アルスくん、背中に乗りなよ!)」
「わあ、速い! アピスちゃんすごい!」
潮騒の神殿で経営されている「海の家」で、アルスはアピスちゃんと意気投合。彼女が作る特製焼きそば(海鮮マシマシ)に舌鼓を打ち、海でも最強の同盟を結ぶことに成功した。
この異常事態をいち早く察知した男がいた。
西方砂漠地帯を統べる自由都市連盟の情報屋、カイ・シャドウウォーカーだ。
「……おいおい、マジかよ」
カイは送られてきた報告書を見て、冷や汗を流した。
「極東の最下層で、古龍と海神が子供と遊んでるだと? しかもその子供、世界経済を牛耳り始めてる……」
カイは即座に決断した。
「敵に回しちゃいけねぇ。……全力で媚びを売るぞ」
彼はアルスを「極東の実質的支配者」としてマークし、密かに協力関係を結ぶための工作を開始した。
一方、その頃のルミナリア王宮。
植物状態の国王に代わり、実権を握る皇后リリアナと、筆頭錬金術師クラウスたちは、焦りを募らせていた。
「どういうことなの!? なぜアッシュバーデンの物資が届かないの!」
「は、はい……彼らが価格交渉に応じないため、輸入がストップしておりまして……」
「おのれ、ドブネズミどもめ! 調子に乗りおって!」
資源供給を止められた王都の経済は麻痺しつつあった。貴族たちの贅沢な暮らしも、騎士団の装備も、すべてアッシュバーデンに依存していたツケが回ってきたのだ。
「もう許せません。……ヴォルター大元帥を呼びなさい」
皇后リリアナは、ヒステリックに叫んだ。
「近衛騎士団を総動員して、アッシュバーデンを制圧するのです! あの生意気な子供から、全てを奪い返しなさい!」
忍び寄る戦火の足音。
しかし、彼らはまだ知らない。
自分たちが踏み潰そうとしている「ドブネズミ」が、すでに世界を滅ぼせるほどの力を手に入れていることを。
そして、その背後には、神話級の怪物たちが控えていることを。
次回、最終決戦。
愚かな王国軍10万 vs 最強の古龍&海神&天才錬金術師。
勝負の行方は、火を見るよりも明らかだった――。




