3
数学の授業中に、友人のさらが耳打ちしてきた。
「授業が終わったら田中君に渡してほしい」
一枚の紙きれを渡してきた。
「お昼ご飯が終わったら、旧校舎の一番上の踊り場に来て下さい」
「分かった」
数学教師が目ざとく、さらと黄李が会話しているのを見つけて、
「佐崎、この問題分かったのか。なら前に来て黒板に解を書いてみろ」
と指示してきたので、黄李はさっと自分のノートを取って、黒板の前まで行った。途中でさらを振り返ってちらと睨みつけてやると、さらが両手を合わせて謝っていた。
黄李は舌を出して、ほんのりと数学教師に見咎められない程度に、さらに向かってあっかんべーとしてやった。と、その途端、
「山田はこっちを解け」
と、さらにも黒板に解を書くように命令して、さらは頭を低くしながら内心びくついて立ち上がった。
さらは数学がとても苦手であった。頓珍漢な答えを書いて、黄李より先に机に戻った。
授業が終わった。さらがこっちを見ている。
まったく、便利使いして、と思いながら黄李は紙切れを隣のクラスの田中一成のところへ渡しにいった。
「これ、山田さらからメッセージ」
「メッセージ?」
焼きそばパンを口に咥えたまま、田中は紙切れを読んだ。
「へえ、お前じゃないのか。分かった分かった」
田中は紙切れをこっちに返してきて、黄李は自分の教室に戻った。
暫くすると、授業が始まる直前に教室の扉を中に入ってくるさらが、黄李の机から見えた。
ぼんやりとした目つきで机につくさらを見て、上手くいったのかいかなかったのか判断しかねて、黄李は彼女をそっとしておいた。
その日の授業が全て終わると、田中が黄李とさらのいる教室の入り口にいた。
さらはそれを認めて、慌てて荷物をまとめてバレリーナのようにふわふわと浮いた足取りで田中がいる方へと走っていった。
田中はさらの長い髪を撫でて、一緒に教室から離れていった。
さらは、嬉しそうだった。
黄李は、自分には智弘がいるのに、友人に恋人ができたことを勝手ながら少し寂しく思った。
その日は、帰った後一段と店が忙しかった。黄李は何度も父親や他の店員に叱り飛ばされたり喚かれたりしながら、その日の営業と店の掃除を乗り越えた。
翌日、登校したら机で頬杖を突いてぼんやりとするさらに呼び掛けた。
「おはよう。さら」
「おはよう……」
「昨日って上手くいったんだよね? 田中って優しい?」
さらの目が泳いだ。心の中で痛みや甘さが生まれては消えていくような、そんな曖昧な表情をした。
「ちょっとこっち来て」
黄李は教室を出て、旧校舎の人気がいないところに連れていかれた。閑散とした旧校舎の廊下は、空気が乾いていた。
「もう、ホテルに連れていかれちゃった……」
「え、もう? ちゃんと断った?」
さらは口をパクパクさせてから言い訳を掘り出すように、
「振られたくないから……」
と目を伏せて言った。
「告白した時も、キスしてくれて、すごいロマンティックで、あ、田中君って優しいなと思ったんだけれど、やっぱおかしいよね?」
「おかしいよ」
「でもね、好きなの。大好きになっちゃたの。キスする前よりももっと」
「さら」
「何?」
「襟首の下に痕ついてる」
「首絞めてくるから、一成」
「最初からそんなにハードなことするの⁉」
「うん」
さらの目は潤んで、赤みがかって、嬉しそうだった。
「でも、怖いの……。これから何されるか分からなくて怖いの」
さらは、黄李の肩に額をもたせかけた。制服の肩口がさらの涙で濡れて、黄李はどうしようもなく、さらの頭を撫でてやった。
「私から田中に何か言おうか?」
「言わないで。言わないでほしい」
さらは、その場に頽れて、手を唇に添えながら
「すごく、痛くて痛くて……。気持ち良くて、離れたくないの」
黄李は心配しながらも呆れた思いで友人を見下ろした。
ひと月後、さらはリストバンドを身に着けて離さないようになった。黄李はリストカットを疑った。
そらから半月後、彼女は自殺した。身体中の着衣状態では見えない場所に痣があったらしい。歩道橋から飛び降りるさらを見掛けてしまった中学生は、
「恍惚というか……うっとりした顔をしていました」
と、供述したそうだ。
黄李は歩道橋に花を供えた。その日、家に帰って厨房に入ると、父からいきなり腹を強か蹴り上げられた。
黄李はステンレスの床に膝をついて咳き込んだ。母親は遠くから面白そうにその様を眺めていた。
「遅かったよなあ。今日、帰ってくるのが。知ってるんだぞ。男と一緒にいるのは」
優は黄李の髪を掴んで上に引っ張って、黄李を立ち上がらせてから、顔を張った。
爪が一瞬食い込んで、頬骨の上が切れたのが分かった。
「ここに跪け」
黄李は茫然とした。優は黄李の膝頭を蹴った。
「いたっ」
黄李は尻もちをついて、恐怖から、その場に素早く膝をついた。背後で母親がくすくす笑うのが聞こえた。
「もう、帰ってこなくていいぞ」
優はわざと道化のような憎たらしい顔をして、黄李にそう告げた。
黄李は泣きながら、部屋に取って帰り、店での制服から普段着に着替えて、学生鞄を引っ掛けて外に飛び出した。
泣きながら行った先は、智弘の家だった。赤い屋根が可愛いメルヘンチックな一軒家で、智弘は五人兄弟だったはずだ。
黄李はその家の前で智弘に電話を掛けた。
「もしもし」
「智弘、会いたい。今、智弘の家の前にいる」
黄李の泣き声を聞いた智弘はすぐに家から飛び出してきてくれた。
「どうしたの? 大丈夫?」
智弘は、軽く黄李の頭を撫でてくれた。
「さらが死んじゃった。それなのに、それなのに、お父さんは何も……」
「うん。うん。落ち着こう。落ち着こう」
智弘は黄李の背中を叩いて、黄李の身体に触れて宥め続けた。
「今日、家帰れないの」
「そっか。二人でホテルで休む? 明日は学校さぼって」
「うん」
黄李は智弘の肩に顔を埋めた。
「よしよし。ちょっと待っててね。荷物取ってくるから」
二、三分後、智弘は家から出てきた。
「行こう」
智弘は黄李の手を取った。
――さながら、王子様のように。
ホテルの部屋に入った途端に、ぐったりと疲れが押し寄せてきた。黄李はそのままベッドに倒れこんだ。
「疲れた。もう嫌……」
「僕シャワー浴びてくるから、寝てなよ」
智弘は浴室に消えていった。
「もう嫌。ずっと寝ていたい。ずっとここにいたい」
黄李は寝返りを打って、布団の中に身を沈めた。ほどなくして、智弘がシャワーから出てきた。
「もう寝た?」
小さな声で尋ねる智弘に、「起きてる」と答えた。
「シャワー浴びてくれば? 別に襲ったりしないから」
「うん……。起きるの面倒くさい」
「はい。起きて」
智弘が黄李の両手を引っ張ってベッドから起こした。
「立って」
黄李は智弘に従った。脱衣所に連れていかれた。
「手を上げて」
智弘に紺のトレーナーと肌着シャツを脱がされ
「足上げて」
ジーンズパンツも下着ごと脱がされた。
「うーん」
とろりんと寝ぼけ眼な黄李は智弘に甘え切って、従順だった。背中を押されて
「お風呂入って」
と言われて浴室に入った。浴室のプラスチックの小さい椅子に座り、頭から温かいシャワーを掛けられた。泡立てた香りの立つシャンプーで髪の毛を洗ってもらい、ボディソープで身体を擦られて、シャワーで流された。
ほかほかと身体が湯気を立てて、脱衣所に上がる時には、黄李の頭も覚醒していて、
「自分で身体拭く」
と主張したが、
「今更いいでしょ。拭いてあげるから」
と、智弘が丹念に備え付けのバスタオルで温まって紅潮した肌を拭き上げてくれた。
バスローブを羽織ると、気分はさっぱりしていた。
それから夜遅くになって寝付くまで、二人はベッドで身体を寄せ合いテレビで最近流行りのドラマを見ていた。
「これ、見たことなかった」
家でチェンネルを選ばせてもらえない黄李が言った。
「え、珍しい」
「うん。珍獣なの、私」
「なんで?」
「なんとなく。私、人間じゃないのかなって」
「僕の可愛い子猫ちゃんで子犬ちゃんで、ハムスターみたいな……」
「えー。なんか複雑」
「珍獣じゃないでしょ。絶滅危惧種みたいに貴重ではあるけど」
「どういうこと」
「あまり見ないくらい古風で線が細い女の子」
「古風って?」
「人の言うことよく聞くし、礼儀正しいし、ほんとに心の底から親切で優しいし」
「それって古風なの?」
「いや、他の言い方が見つかんなくて。あと、エッチなのに清楚」
「あ、ひどい」
「いいことじゃん。少なくとも僕にとっては」
黄李は智弘の左腕に身体をもたせかけた。
「智弘、いい匂い」
「ここのボディソープのせいかな?」
「ううん。智弘っていつもいい匂いがするの。いい人の匂い」
智弘は左腕を黄李の肩に回して、互いの身体を密着させた。
「もう寝ようか」
「うん。眠くなってきた。おやすみ」
「うん。おやすみ」
智弘はベッド横の装置で部屋の照明を落とした。
翌日の朝、目が覚めたら黄李から求めて、セックスをした。黄李は智弘が愛おしくて恋しくて、切望するような心がピンク色をした水に浸かるような気持ちが抑えられなかった。
好きよ、好きよ。好きよ。
行為の間中、そう智弘の耳に囁いた。智弘の耳たぶに嚙みつくのが好きになった。
智弘の耳たぶは甘く温かかった。少し熱いくらいだった。さらりとした産毛の舌触りがあって気持ち良かった。
次の日も学校に行かずに、セックスに耽った。
智弘は黄李の乳首に噛み付き、胸をまさぐった。そして、黄李の首筋を噛んで痕を付けた。
その次の日もそうして過ごした。
その日の深夜に黄李は肩を揺すって起こされた。
「ねえ」
「何? 智弘」
黄李はそういいつつキスをねだった。
「待って。その前に話聞いて。もう家に帰るのも学校に行くのも止めようよ」
「いいの?」
「うん。あんな家にいたってお先真っ暗だ」
「嬉しい。ずっと智弘と一緒にいられる」
黄李は智弘の首に抱き着いた。智弘は黄李の背中をぽんぽんと叩いた。
「いい子。いい子」
早朝、二人は貯金を下ろして、電車で遠くの街へ逃げていった。
二人の目には街行く誰の顔も目に入らなかった。車は動く模型で、人はアンドロイドで、街並みは舞台装置で、電車は二人のために用意されていた。
この世界全てが空々しく、熱をもった物は自分たち二人だけだった。
住んでいた街を逃げて、最初に行ったところは、郊外に建設された小さな遊園地だった。
黄李はメリーゴーランドの白馬にまたがった。智弘は陶製のインド象に。
二人は笑っていて、メリーゴーランドの天井の、角度を変えて幾枚も張られた鏡が、二人の姿を乱反射させた。
黄李は白馬の首に抱き着いて、智弘の目を上目遣いにわざと見上げた。智弘は反応に困った風に笑った。
メリーゴーランドが止まった。
「あ、終わっちゃった」
「降りよう」
智弘が自分の身体を象から滑らせた。黄李も白馬からまたいでいた足を上げて降りた。
二人は手を繋いで他のアトラクションを探した。
「次、どうする?」
「んー。お腹空いたね。何か食べよっか」
「あっちでソフトクリーム食べよう」
「うん」
智弘がソフトクリームを買ってきて、観覧車の下のベンチで待つ黄李のところに戻っていた。
「美味しそう。あ、智弘ずるい。自分だけミックス味買って」
「交換しようか」
「ううん。このままでいい」
二人は身体から今までの日常の重みが抜けて、子供に帰って、子供をひと時だけやり直しているような気の抜けた、愉しい気分を味わっていた。
頭の中がふわふわして、労働も勉強も二度とできないような気ままな安楽とした心持だった。
身体が羽のような重さしかないように感じた。
黄李はベンチの下で足をぶらぶらさせた。
二人はそれからジェットコースターに乗りに向かった。
それから電車でさらに遠くの街へ向かった。書店や八百屋が並ぶ商店街を二人は手を繋いで並んで歩いた。
「あ、ねえ」
智弘が古書店の前で立ち止まった。二階建ての黒い瓦屋根の民家のような店だった。ガラス戸に張り付けられた張り紙に「住み込みのバイト募集」ときれいとは言えない字でマジックで書いてあった。
「僕、ここあたってみるよ」
その日は旅館で一泊した。古びた民宿のような旅館だった。一汁一菜の夕飯が出た。
二人は大浴場に男女で別れて入ってから、敷かれた二組の布団の上で転がってじゃれあって遊んだ。黄李は智弘の耳にまた噛み付いた。二人は結局、片方の布団に身を寄せ合って寝た。智弘が黄李の額にキスをする形で二人は寝入っていた。
翌日の午前中に、昨日の張り紙の古書店のガラス戸を引いて、仕事をしたいと申し出た。
「住み込み?」
店主は小さめのフチなし眼鏡の奥から細い目をしてそう尋ねた。
「はい。姉も同じ部屋でいいんで住まわせてください」
「あなたたち未成年?」
「お願いします。両親の虐待から逃げてきたんです。一生懸命働きますから。覚えも早いです」
「まあ、いいけど」
店主は奥の階段に行って、
「こっち来て。部屋、こっち」
と、智弘と黄李を振り返った。二人は店主の後から階段を上った。
「あなたたち姉弟なんだ」
「はい」
「どっちが働くの?」
「僕が働きます」
「お姉さんはその間どうするの?」
黄李がそこで口を挟んだ。
「どこか近所で働き口を世話してはいただけないでしょうか」
「うん。いいよ。あたってみる」
「お世話になります」
階段を上がりきったところでガラガラっと立て付けの悪そうな音を立てて店主は引き戸を開いた。
「この部屋。トイレはあっち。隣のその部屋は倉庫。基本、二階にはあんまり誰も来ないから安心して。食事は朝七時と昼十二時と夜の七時に下で僕と奥さんと一緒に取ればいいから。じゃあ、荷物置いて少し休んでて。それにしても荷物少ないねえ」
ひとしきり喋って、店主は下に下りていった。
黄李は窓の下の壁を背にしてぺたんとそこに座って茫然としていた。
――新しい生活か。
智弘は押入れを開けてみた。布団がちょうど二組あって安心した。それから押入れの前に膝を立てて座り込んだ。そして、
「眠くなっちゃった」
と半身を後ろに倒した。黄李はその横に寝転がって、また智弘の耳を甘噛みした。
「くすぐったいって。やめなよ。昼間から」
「ごめんなさい」
引き戸がノックされた。
「ちょっといい?」
二人は起き上がった。
「はい」
引き戸が開けられて、店主の奥さんらしき髪をひっつめにした背の高い女性が、
「お名前教えて」
「浅田智弘です」
「浅田黄李です」
二人は苗字を浅田に統一して教えた。
「分かった。あと三十分くらいでお昼ご飯だから下に降りてきてね」
「了解しました」
智弘が返事をした。
二人で階下に降りて、店の奥の居住空間に通じる居間の戸を開けると、さっきの奥さんが食卓にどんぶりを四膳並べていた。
「牛丼でいい?」
尋ねられたので、智弘が
「はい。ありがとうございます。お世話になります」
と、礼を言った。店主が店から居間に入ってきた。
「仕事は明日からでいい。今日はとりあえず、食べて寝ろ。言っておくけれど、いろいろと仕事を押し付けるくらいにやってもらうし、甘くないからな」
「はい。よろしくお願いします」
智弘が食卓の椅子の横で頭を下げた。
「とにかく食べよう」
店主がそう言って、椅子に座った。智弘と黄李もそれに倣った。
「虐待っていうのは、どういうことだ?」
店主が牛丼をかきこむ合間にいろいろと尋ねてきた。
「僕は、身体を殴られることが多くて、姉は身体を触られたり、精神的に追い詰められるような言動をされることがとにかく多くて」
智弘は、黄李のことについて嘘を挟んだ。確かに、虐待の典型に話を寄せておく方が、通じやすい。
「身体に傷とかあるのか?」
「はい」
「見せてみろ」
奥さんが立ち上がりかけた店主の肩を強か叩いた。
「失礼よ。かわいそうじゃない」
「そうか」
そういって、店主は智弘の傷を見ることを止めた。智弘は申し訳なさそうに目を伏せて、黄李も「ご迷惑おかけしてすいません」と頭を下げて、牛丼を大人しい態度で食べた。
「美味しいです」
「黄李ちゃんだっけ?」
「はい」
「黄李ちゃん。ケーキ。ケーキあるのよ。親戚から貰った手作りのケーキ。チーズケーキ好き? 焼きじゃなくてレアなやつ」
「好きです」
黄李は最大限感謝を示して愛想を尽くそうと笑った。
「牛丼の後に食べましょう。あ、切っておこう」
奥さんはそう言って、席を立った。
レアチーズケーキは美味しかった。そのおやつの席で、黄李は精神がほろほろと崩れたように涙を零したから、奥さんに気を遣わせた。店主は、
「智弘君は、明日から働けるか?」
「はい。大丈夫です。他に何もすることないですし」
「お姉さんは暫く休ましてやれ。彼女の働き口もおいおい見つけられたら見つける。無かったら、親戚の家に子守りにでもやらせる。ちょうど、キャリアウーマンに戻りたい子持ちの母親がいたんだ。それでいいか?」
「黄李」
智弘が呼び掛けた。レアチーズを口にして子供のように泣いている黄李は顔を上げて、しっかりと
「それでいいです。よろしくお願いします」
と言った。
「礼儀正しいな。二人とも」
店主はケーキの最後の一口を口に入れて、店に戻った。
そのあと、二人で二階にいる時に、奥さんがブラウン管のテレビを持ってきてくれた。
次の日の午前中から、智弘は古書店で働き始めた。朝9時から店番に立ちながら、ネット注文の商品の梱包と出荷の作業。昼休憩を挟んで夕食までずっとその仕事をして、その後は夜の9時まで店主が値札を付けた商品を分類しながら店の書棚に納めていく。
値札を付けたまま溜め込んである商品が2年前の分からあるので、この作業は日々根気よく続けて消化していかなければいけない。だから毎日夜まで働かなくてはいけないし、そのための智弘という人手を雇ったのだ。智弘は黄李と部屋に二人でいる時に、
「ブラックだった」
と言って笑った。それでもそう嫌でもなさそうだった。
黄李は、しばらくの間、奥さんの家事の手伝いをしているか、部屋でのんびりとして過ごした。
隣の倉庫は日用品が詰まっていた。奥さんが、
「せっかく人手があるから、掃除しようと思って」
と、黄李にはたきをもたせて、中に入って、箱やらお着物やら家具やらの埃を取ったり軽く水拭き、乾拭きしたりした。
由緒の正しそうな古い書画骨とう品もあって、黄李は物珍しく眺めた。
余裕のあるお宅なんだろうなというのが、感想だった。




