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モニターには、あの鼻を中心にバツのように包帯を巻いている、そいつがいた。
ニヤニヤしながら、両脇にいつか見た同じ顔の双子姉妹を侍らして、画面の外の範囲で二人を弄んでいるのだろう。
娘は弄ばれ時折出てしまう嬌声を、俯き声を押し殺しながら身を捩り、バツの包帯野郎の口元に咥えている葉巻に火を着けようと、震えながら火種を近づけた。
火を着けた途端、一際大きい嬌声がこちらの艦内にも鳴り響いた。
真赤な顔をしてぐったりした彼女を画面の外に追いやり、そいつはもう片方の娘に取りかかった。
オメエいつの間に盗賊の片棒担ぐようになったんだ?
俺は、下品な一連の行動に髪の毛が逆立つのが抑えられず、バツの包帯野郎に言った。
お前、女ぁ変えたのか?
お前。
顔を真っ赤にして呼吸が荒くなった娘をさらに画面のフレームの外でいたぶり、動作ごとにそのシーンがカット割りの様に時々映し出される。
それを楽しむように、歯をむき出し野郎は笑いながら言った。
よく俺の女ぁ覚えていたな。
俺は言った。
言いながら、
視界の隅で、隣の侍女がモニターのその嬌態を見ながら顔を真っ赤にして、鼻血がツーと流していたのを見止めた。
俺の視線を感じてか、急いで鼻を隠したのが見えた。
そして、俺の女という文言に、ぱあっと明るい顔になったのが見えた。
今はそれに取り合っている暇も、俺の女と言ってしまったその言い訳も、すっかり意識から飛んでしまっていた。
バツの包帯野郎は続けて言った。
忘れるか、この鼻にされてから、からおめえの事は死んでも忘れねえぜ。
その時、
遠くにいた敵艦隊の一隊が対峙している俺達を見て、膠着状態だと勘違いして隙をついて攻撃してきた。
主砲と通常弾が瞬きしながら迫って来た。
あらかじめ電探で敵の位置は全て頭に入っている。
どの位置から、どう撃って来るか射線上の計算は織り込み済みだ。
シールドバリアを出力最大にして被弾傾始を考慮して敵に横っ腹を見せている。
何も考えず、撃ってきたそれはことごとく、弾き、その何発かはバツの包帯野郎に被弾した。
じゃあ逝くか、この野郎。
俺。
着弾した艦内から。
やりやがったな、この野郎。
と、バツ包帯野郎。
イキがってんじゃねえョ。
と、俺が握っているマイクが砕けそうになっている。
もう一度、
モニターには鼻を中心に包帯をバツ状態で巻かれている男が、画面一杯に映し出されている。
その男の両側にはさっきの双子だろう、そっくりな顔立ちの少女を侍らしてして肩を抱いている。
少女の一人は、その男の口にもう一度葉巻を咥えさせ、そして火をつけた。
その葉巻を思いっきり吸いこむと、画面一杯に吐き出し画面を真っ白にした。
白い画面の向こうでゲラゲラ下品な笑い声が響いていたかと思うと、その煙が晴れた画像には、今度は隣の少女が何かの飲み物を入れたグラスを男の口まで捧げさせ、飲み下すと。
ニヤニヤ笑いながら。
おめえ、なんだ、よく見ると違う女じゃねえか、ハハーン、あの女に逃げられたか。
まあ無理もねえ、オメエみたいな堅物、面白くとも何ともねえからな。
女ぁてのはな。
と言ったかと思うと再び、いきなり両隣の少女を弄びだした。
と、両脇の双子の姉妹を弄びながら言った。
ところで、オメエ俺の得物が何だか知ってるか。
と続けた。
この野郎の得物は知っている。
こいつは悪名高い人形遣い、そして猛獣使い。
人形遣い。
自立型ヒト型汎用殺戮機構を目標物に投下し、艦船や、要塞の中の人間などを殺戮し無力化、その機能を奪い占拠し自分の武器とする事に特化した兵器。
それらは通称、人形と言い、それを操る者を人形遣いと言う。
そして猛獣使い。
辺境惑星から採取した獣を遺伝子操作により、飼い主の指示通りに動く害獣生物兵器に作り変え、人形同様艦船、要塞の中にいる人間、サイボーグなどオペレータや居住者を排除しその目標物を制圧する。
通称、猛獣そして同じく操る者を猛獣使いと言う。
目標物そのものを破壊せず中の人間などのオペレーターのみ、その攻撃対象とする。
そして、主のいなくなった目標物を占有する。
害獣に関しては人をさらう機能も兼ねている。
めぼしい女性型ヒューマンをさらって、後に触手で取り込み苗床にし、そして、害獣を繁殖させる。
想像しただけでも吐き気がする。
自分の手を汚さずその目標物の中の人間だけを駆逐し、人形と、害獣で、占拠、奪取する。
あまりにも非人道的なその方式はほとんどするものが無く、強襲作戦で一部使っている位で、専属でこの方式を使っているのは、ほとんどいない。
あまりにも非人道すぎて、誰もやりたがらない。
武士の風上にも置けない。
だからこいつが、蛇蝎の如く嫌われている所以だ。
逆立った髪はそのままだった。
また、さっきの敵艦隊一団が一斉射で討取れなかったのが気に入らないのか、閃光を織りながらしつこくやって来た。
俺は逆立った、髪と血が、操縦桿と、コントロールレバー、制御盤を瞬く間に駆使させた。
俺の重巡は飛び込んできた敵艦の懐深く入り込み、架装された主砲を含むすべての砲が咆哮を上げた。
すれ違いざまに、全弾を艦の機関部に集中させた。
離れていく敵艦は時間を置いて、主エンジンから裂け、それぞれ被弾した艦は、次々とその形をただの金属の塊にその形状を変えていった。
俺は、まだ怒りが収まらなかった。そして言った。
なんだ、おめえ味方がやられているのに何もしねえのか?
誰が、味方だ、こんな野盗共の為に命張るバカはいねえよ、俺は雇われたが命は張らねえよ。
バツの包帯野郎は言った。
なに。
俺。
バツ包帯野郎は俺が次の言葉を発するのをニヤニヤして面白がって待っていた。
だが、やおら口を開いたのはバツ野郎だった。
俺の事より、オメエのその助太刀している星の連中は、女型のヒューマンだったな。
さらに俺の髪の毛は逆立った。
てめえ、女の子に手え出したらぶっ潰すぞこの野郎。
厭らしい顔を画面いっぱいにしながら、
おめえ、吐いた唾のむなよゴラァ。
バツの包帯野郎はニヤニヤしながら、腹の底の薄汚い所から出したと思うような声で、
唸った。
いつも、拙作に目を通していただき、本当に有難うございます。目を通していただいている間だけでも、思いを馳せていただければ幸いです。




