ただいま
「なんだかあっと言う間とだったのか、長かったのか。」
俺は首を左右に曲げ肩を抑えながら言った。
もう子供の姿になることはないだろう。しかしスキルで姿を変えるって言うのはどこかしら無理をしていたんだろう。元の姿に戻ったのに違和感を感じる。
肩が凝っていると言うよりも全身に違和感があるような感じだな。
元の姿でいたら自然と違和感もなくなっていくんだろう。
「そうですわね。私も慣れない場所で気を使いましたわ。」
そう言うのは俺の隣にいるアリアだ。
アリアも少し気怠そうな、それでいて安心したような顔をしている。
まぁ教師で人に教えるって言うのも大変だもんな。肩の荷が下りたってところだろう。
俺達2人は倉庫の様な場所にいる。
魔法学園ニルヴァースを後にした俺達は俺のスキル【転移の門】でドワーフの街ザールに一気に戻ってきた。
ブランには起点となる魔法具をどこかに設置しておいてくれるように伝えてあった。
周りにある物を見たら恐らくここはブランの弟さんのゾランさんの店の倉庫か何かだろう。魔法具を作る時に使う様なものが見受けられた。
アリアと学園から出てとりあえず皆と合流しようと言う話になった。
ガイとシータは旅に出て帰って来てるかどうかわからない。ブランはこのザールにずっといるはずだからまずはブランと合流することにした。
しかし何やら外が騒がしい感じがする。何かあったんだろうか。
そう思い俺は扉に近付きそっと扉を開いた。すると聞こえてきた声が大きくなった。怒鳴りあうって感じではないが盛り場の喧騒の様な感じだな。
とりあえずアリアに目で合図をして扉をくぐり声のする方向へ進む。
先程俺達がいた部屋はゾランさんの店の倉庫で間違いなかったようで、少し進むと見慣れた廊下になった。
ゾランさんの店もドワーフの街特有の地下に伸びている作りをしている。倉庫があるのはその地下でも下の方に位置する。先程から聞こえる声は上の方、恐らく店の方だろう。
しかし店のからこの下まで声が聞こえるのって言うのはどれほどの喧騒なんだろうか。
何事かも気になるので俺とアリアは階段を上がっていく。それにつれ声も大きくなっていく。
ゾランさんの店に通じる扉の前に到着して扉をそっと開いて覗いてみるど偉い光景がそこにあった。
ゾランさんの店はそこまで大きくはなかったがそこに人がすし詰め状態でいた。そして口々に何か怒鳴っている。
なんだこの光景は。
地下から上がってくる扉はカウンターの隣にあるからここまで人は来ない様になっている。まだこちらまで人が押し寄せてきていないから冷静に見ていられるが、ここまで人が溢れていたら扉すら開かなかったんじゃないのか。
チラリとカウンターを見ると、ゾランさんとブランが忙しそうに客の対応をしていた。ゾランさんもブランも喧騒に負けない様に大声を出しながら魔法具の説明や金額の説明をしているようだ。
俺とアリアはこそこそと扉からカウンターの中に身を屈めながら移動した。
「ブラン、ブラン。」
俺はブランに近付き、小声で呼びかけた。
「主!?」
声を掛けられたブランが俺の事を見てそう声を上げる。
「どういう状況?」
殆ど声も聞こえないような状況なので俺は【念話】に切り替えてブランに聞く。
「いや、何、思いの外魔法具の売れ行きが良くなりまして、この有様ですわい。」
ブランも【念話】で答えた。
なるほど。そりゃまぁ俺が色々と研究した内容も全部ブランに伝えているしな。あれから日にちも経っているし、ブランも新しい魔法具を作ったりしていたんだろう。恐らくこの世界にはなかったような魔法具とかも開発してるに違いない。俺が作ったのも画期的な物が多い。それを店で売るとなるとこうなるかもしれないな。
「しかし全然客をさばけてない様だけど。」
「えぇ、ずっとこの調子なのです。」
「じゃあ、今から教える通りにしてみたら?」
俺はそう【念話】で1つの案を伝える。
「皆の者、口を閉じ、そのまま動くではない。従わない者にはこの店の商品は絶対に売らん。」
ブランが大声を張り上げて店にいる客たちに伝える。
その声を聞いて店内が一瞬で静まる。
「全員一旦店の外に出るんじゃ。何、商品を売らないとは言っておらん。これからこの店は入れ替え制とする。」
そうブランは静かに聞いている客に説明する。
しかし説明された客は何のことかわからないようで首を捻っていた。
「いいか、今から100数えるうちに店の外にいない者には今後一切うちの商品を売ることはないぞ。」
ブランがそう言うと客は我先にと店の外へ出て行った。その後ろについて行って俺とブランも店の外に出た。
店の外も大変な混雑具合になっていた。こんな状態だと周りの店にも迷惑が掛かるな。
「良いか、皆の者。今から数字の書いたカードを配る。若い数字のカードを持っている者から店に入ることが出来る。一度に店に入れる人数は30人までとする。その中の5人の客が店から出れば、次の数字の5人が店に入れる。そうして順番に店の中に入れるようにする。そうすれば押し合いへし合いすることなくゆっくりと商品を見ることが出来るじゃろう。
わしを先頭に一列に並ぶのじゃ。そこでどちらが先に並んだなど喧嘩を始める様な奴にはどちらにもカードは渡さないからそのつもりでいるんじゃ。
若い番号の方が色々な商品を選ぶことが出来ると思うじゃろうが、後になればなるほど商品の金額を割引していこう。じゃから後ろにいればいる程安く商品を買えるようになるという訳じゃ。ただ商品がなくなれば売る物もないから手ぶらでお引き取り願う事になるんじゃがな。」
ブランが店前で声を張り上げてその説明をした。
するとそこで悩みだす者、すぐさまブランの目の前に並びだす者と分かれる。
ブランの目の前に並びだした者に俺は数字の付いたカードを渡していく。こんなカードなんて【玩具箱】で簡単にいくらでも作れる。
「さぁ、では最初の30人までは店に入っても良いぞ。ゆっくりと商品を見て行ってくれ。」
ブランはそう言って踵を返し店に戻っていった。
俺はそのままその場に残りこの場所を受け持つことにした。
それから俺は並んできたものにカードを渡して説明する。後になればしばらくしてからこの場所に戻ってきても大丈夫だろうと伝え、店の前や他の店の前に人が溜まらない様に注意する。
もし数字呼んでこの場にいない場合も何度か途中で呼び出す様にするという事も伝える。後は【念話】でブランと連絡を取りながら、店に客を入れたり、残りの商品数とを相談して配るカードを考えたりなんかをしながら客の誘導を行った。
元いた世界ではこういった入れ替え制の店とかもあったし、少し参考にさせて貰った。
明日からも人を雇うなりしてこうして商売していけばあんな惨事にはならないだろう。
もう商品がなくなりそうだという時に、俺はカードを配るのを止め、客にその事を伝えた。客は残念そうにしていたが商品がなければしょうがないと去っていった。
金に糸目を付けずに欲しいものを手に入れようと思う人間はさっさと並んで買っていったし、少しでも安くで買おうと思った人間はなくなると言うリスクもわかって後の方に並んでいるんだから問題ないだろう。何かごたごたがあっても俺だったらそんじょそこらの奴に後れを取ることはない。
でもそんな事にはならなくて済んだようだ。
まぁ魔法具を買おうとしてる人間はそこそこの金を持っている者、もしくは冒険者だったりする。そんな人間がごたごたを起こすと後々の生活に響く。そこまで頭が回らない人間はいないんだろう。
俺は店の前から去っていく人をすべて見送ってから店の中に入った。
「これは主、ご迷惑をおかけしました。」
俺の姿を見たブランが申し訳なさそうにそう言って俺の所にやってきた。
「いや、迷惑だなんて思ってないよ。盛況の様だし、ブランも変わりないみたいで良かった。」
「えぇ。再会の挨拶もせず申し訳ありませんでしたわい。
改めてお帰りなさいませ、我が主。」
う~ん、久々にブランの姿を見ると安心する。
これと言ってブランの見た目は変わりがない。まぁ会ってないと言っても半年くらいだからな。
「こちらこそ改めて。ただいま、ブラン。」
「ではゆっくりとお話でも伺えますか?」
「そうだね、ご飯でも食べながらゆっくりとあったこと、これからの事について話すことにしようか。」
俺達はそう言って店の奥の先程出てきた扉を抜け地下に降りて行った。
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「という訳で今後の予定はまずはエルフの里を目指すことから始めようと思う。」
俺は今までのあらましをブランに語った。
そこにはゾランさんとアリアも同席している。
ゾランさんの店の地下にあるリビングみたいなところでご飯を食べながら今までのいきさつを端折りながら伝えた。
神の試練を受けて今後について聞いたことぐらいにしておいた。学園での詳しい話や勇者と魔王については言及しないことにした。
「そうですか、エルフの里に・・・。」
「うん。どうやって大陸を渡るか、から考えないといけないかもしれないけどね。
それでブランの方は?俺達が離れてる間どうしていたの?」
「そうですなぁ。
わしの方はガイの鎧を作ってからわし自身の鎧の制作をしました。
しかしそこまで時間はかかりませんでしたのでそれからはこの店でゾランと共に魔法具を作っておりました。」
「そうなんだ。大分お客さんが増えたみたいだったけど。」
「はい、兄貴が作る魔法具は今までの魔法具とは一線を画してます。それが噂になってドンドン客が増えて行ったんです。」
そう答えたのはゾランさんだった。
「まぁそうだよね。ブラン程の実力があればそうなるのも頷けるよね。」
「いえ、全ては主から教えて頂いたスキルのおかげですわい。」
実は俺はスラグスルに行く前にブランにあるスキルを教えていた。
ベティーさんに教えたような職業スキル。
名前を【魔工匠】と言うスキルだ。
物作りに必要そうなスキルを詰め込んだスキルで身に付ければ大体の物は作れるようになる。仕組みさえわかれば図面なども必要なく作ることが出来る。魔法具作成に必要なスキルもすべて含んでいるのでこのスキルが使える様になると恐ろしく効率的に作れるし、複雑な魔法具なんかも作れる。
俺が離れる前に時間がある時にブランに教えてみたんだ。
ブラン自身も元々【鍛冶技術】だったりのスキルは持っていたし、俺と一緒に魔法具製作もしていた。その上キュクロさんからの加護もあってかすぐに【魔工匠】のスキルを覚えた。
一度スキルを覚えてしまえば後はいつもの様にレベルを上げていくだけだ。ブランなら直ぐに使いこなせるようになったんだろう。
「いや、スキルは結局は使いこなせないと意味ないからね。こうして皆がこぞって買いに来るような魔法具を作れたのはブランだからこそなんじゃないかな。」
「いやいや、わしが作ったものは全て主が作られたものを真似た物ばかりですじゃ。だから凄いのはそれをお作りになった主の方ですぞ。」
「いやいやいや、そんなことないよ。
それを言ったら『ゴホンッ、もう宜しいのではないでしょうか?話が前に進みませんわ。』」
そう言って横から茶々を入れたのはアリアだった。
久々にブランとあったんだからもうちょっと褒めてあげたかったのに。
しかし本当に話が前に進まないからそろそろ別の話題に行くか。
「それでなんだけど、ガイとシータは戻ってきてるの?」
「えぇ、しばらく前に戻りましたぞ。ただこの街におっても仕方がないという事でクレタの町へ行きました。そこで勘が鈍らない様に迷宮に潜ると言っておりました。」
「そうなんだ。じゃあ迎えに行かないといけないかな。」
「えぇ、すぐにでも向かいますかのう。」
「えっ?ブランお店の方はいいの?」
「はい、ここはゾランの店。わしは主が帰ってくるまで手伝っていたにすぎません。
ゾランには教えることはもう教えております。わしがいなくても店は問題ないでしょう。」
ブランにそう言われて俺はゾランさんの顔を見る。ゾランさんは俺の顔を見て大きく頷いた。
「そうか。ただ今日みたいな売り方をしないと店が大変な事になるんじゃないの?」
「すいません。わしらは物は作れるんですが商売の事になるとなかなか上手くはいかず・・・。」
あぁ、ブランも元々冒険者をやってたし、兄弟二人共職人気質っぽいもんな。商売に関しては疎い感じがする。
じゃあという事で俺が考えた先程の様な販売スタイルにするようにゾランさんに説明した。
整理券の様なものを配って入店規制を行う。その時に買えるのは1人何品までとして、最初に商品数を確認しておく。そうすれば整理券も何枚まで配ればいいか分かるし。商品が余ってしまっても生ものじゃないんだし置いておけばいいだろう。あれだけの売れ行きなんだ、余ることもないかもしれないがな。
整理券を金で売ったり買ったりという事が出てくるかもしれないがそれはそれでいいだろう。
基本的にゾランさんも儲け主義と言うい訳でもない様子だし、店が上手く回り稼ぎが出れば問題ないんだろう。ゾランさんが余裕をもって商売出来る環境が必要なのですることだ。
説明を終えるとそれだったらとゾランさんは今も魔法具を作っている弟子の所に行った様だ。弟子もそこそこいるみたいだから持ち回りでどの仕事をやるかを話し合うんだろう。
ドワーフって商売が上手そうな感じがしたけどそういう訳でもないんだな。
「さてと、俺達はどうしようかな。少しゆっくりしてからクレタに向かうか。
あっ、でもちょっとだけキュクロさんと話がしたいかな。明日行って話をしてからクレタに向かうことにしようか。」
「話ですか?」
「うん、ちょっとだけ。一応言っておこうと思ったことがあるんだ。」
「そうですか、わかりました。」
「アリアもそれでいい?」
「えぇ、問題ありませんわ。」
「じゃあどうしようか。宿でも取りに行くか。」
「ではわしも。」
「えっ?ブランはここに泊まればいいんじゃないの?今日までここで生活してたんでしょ?
それにまたそのまま旅に出る事になるかも知れないし、ゾランさんとそのまま離れることになるかも知れないよ。」
「それは問題ないでしょう。奴も一人前のドワーフでこの店の主ですじゃ。わしなどおらんでもやって行けるはずです。
それよりも先程聞けなかった学園での主の話を聞ければと思いますわい。」
「えっ!?そんな特に物珍しい話なんてないよ。」
「えぇ、それでも。いけませんかのう?」
「ううん!そんなことはないよ。いや、なんかそんな事言われるとは思ってなかったというか、不意打ちをくらったと言うか。
で、アリア。その下卑た笑みを浮かべるの止めてくれないかな?」
「ふふっ、私の事はどうかお気になさらず。えぇ、こっそり聞き耳を立てるだけですので。」
「いや、そんな事言われて容認できないから。」
「そんな久々に楽しめそうですのに。」
「いや、楽しんでもわらなくてもいいから。」
アリアが学園にいて疲れたのはそう言う状況がなかったからじゃないのか?学園内ではアリアが望む様な展開にはなってなかったし。
とことんアリアはアリアなんだな。
お読み頂きありがとうございます。
2017/9/11修正 スキル【魔工師】を【魔工匠】にしました。




