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召喚された世界はスキルがものをいう  作者: 雷
【魔法大国 スラグスル】編
193/237

魔王とは

「しかしレスティアは何故俺に【八百万のスキル(アルティメットスキル)】を?

 今の話を聞いていれば魔王にも渡る可能性があった。

 いや、確実に魔王も同じスキルを選ぶでしょう。

 そうなれば今の状況になることも考えられたはず。」



 俺はそうオモイカネに聞いた。



「それは・・・、私にもわからない。

 人の考えが読めると言っても同じ神には通用しない。

 あの方が何を思ってお前にそのスキルを選ばせたのかまではわからない。」



 そうなのか。

 もしかして神は嘘はつけないとか?

 俺が提案したから出来ないとは言えなかった。そう言った制約があるとか。

 もしくはそうしなければいけない状況だったとかなんだろうか。う~ん。

 でもそればっかりはレスティアに聞いてみない事には真意はわからないか。



「それで魔王の事なんですが、もう少し詳しく聞いてもよろしいですか?」


「私の分かることであれば答えてやろう。」


「今考えると俺は確か召喚される時に神レスティアからは魔王を討伐して欲しいとだけ言われ、もう一度あった時にはこの世界を救ってほしいと言われました。

 最初の時は魔王を討伐して欲しいとだけ、この世界を救ってほしいという言葉はなかった。

 魔王によってこの世界が危機的状況に追い込まれる。そんな感じではなく、ただ魔王を討伐して欲しいとだけの依頼の様なものだったと思います。

 まぁそうですよね。今までも基本的に魔王はそこまでの強さを持っていない。

 この世界の人間でも倒せる可能性はある。そう言う事だったんですもんね。

 そもそも魔王は何の為にこの世界に召喚されたんですか?

 そんな魔王が召喚されてこの世界でいったい何をしようと?」


「そうだな。

 簡潔に説明すると、この世界を支配しようとしている。そう言う事だ。」


「この世界を支配する?魔族を使ってってことですか?」


「そうだ。」


「そもそも魔王って俺達と同じ世界の人間なんですよね?

 その人間が魔王としてこの世界に召喚されてもそんなことを考えるんでしょうか?」


「あぁ、考えるとも。

 自分が住んでいた世界と違う世界に召喚され、そこで何でも言う事を聞き、強さを持った配下が出来る。当人も魔王としての力を持ち、普通では得ることも出来ないスキルも持っている。そしてこう言われるのだ『あなたはこの世界を支配する為に召喚されました』とな。

 さてどうだ?人としてそれを断ることが出来るのか?」


「それは・・・。」


「それに、魔王の召喚は呼ぶ人物を選定して呼び出している。

 お前達には酷な言い方かもしれないが勇者達との召喚とは違うのだ。

 元々魔王の召喚が行われ、その隙間をかいくぐってお前達勇者を召喚している。

 魔王に相応しい人物を選びその時に召喚しているのだ。

 お前達はそこまで選んで召喚されているとは言えない。

 悪心が少なく、元の世界にあまりいい思いを持っていない人物を選んでいる。」


「そんなことが・・・。」


「お前には事実だけを告げた方がいいと思っている。

 言ってしまえば勇者とは違い、魔王はそれに相応しい人物が召喚されているのだ。

 考え方や向こうでの生き様などを(かんが)みて。

 だから召喚された魔王は魔王らしくこの世界を我が物にしようとする。」


「だがそれはこの世界では許されない事だという事ですね?」


「そうだ、この世界のルールとして1つの種族のみがこの世界を支配するなどは許されない。」



 う~ん、話を聞けば聞くほど嫌になるな。

 この世界に勇者として召喚されたと喜んだことが馬鹿馬鹿しい。

 しかし本当に魔王を倒さないといけないのかも怪しくなってきた。

 同じ世界の人間であれば話し合いとか出来ないんだろうか。

 あっちも勝手に召喚された口なんだし、わざわざ戦わなくても良くないか?

 どう考えても殺し合いにしかならないんだし、何とか一緒に元の世界に帰る方法を見付けるとか。

 あれ?話し合いがもし出来るとすると・・・。



「そうだ、お前が今考えた通りだ。」



 そうオモイカネが言った。そう言えば俺の考えは読まれているんだった。



「お前達勇者が魔王側に付く可能性もあるという事だ。」


「まさか、そんなこと。」


「別段お前達は勇者として召喚されてはいるが、必ずしもこの世界を救うだとか、魔王を倒さなければいけないと言う制限や制約を課せられている訳ではない。

 万が一魔王に懐柔(かいじゅう)され、魔王の手先になろうが、魔王と一緒にこの世界を支配しようとしても罰則などはないという事だ。」


「そんな事になるはずは・・・。」


「必ずしもないと言い切れるか?

 何度も言うように人は楽な道があればそちらに流れるもの。

 魔王と手を組めばこの世界が簡単に手に入る、そして好きにこの世界を蹂躙(じゅうりん)出来るのだ。甘い誘惑であろう。」


「あっ!だからさっきの試練。」


「そうだ、それも兼ねていた。

 この世界を本当に救う気があるのか。自分にとっての都合のいい世界が手に入ると言う欲望に流されずにいることが出来るのか。それを確認する、それが先程の試練の真の目的だ。

 今の話を踏まえてお前の想いはどうだ?

 同郷の魔王を倒すのは嫌になったか?魔王と一緒にこの世界を手に入れようと思ったか?」


「それは・・・。」



 同じ世界で生きた人間を倒す・・・、それは今更の様な気がする。この世界に来て何人も手にかけ殺したこともあった。それがこの世界の住人だから、前の世界の人間だった、それで区別することはないだろう。

 魔王と一緒にこの世界を手に入れる?

 俺と魔王は同じ【八百万のスキル(アルティメットスキル)】を持っている。そう考えればお互い戦うのは得策じゃない。魔王も同じことを考えるだろう。俺を抱き込んだ方がそりゃ楽だろう。

 魔王がそう提案してくるのも容易に想像がつく。

 しかし一緒にこの世界を手に入れたとしても、恐らく魔族以外は別の種族は虐げられて生きていくことになるんだろう。

 魔王の配下である魔族は恐らく魔王には逆らえない。奴隷契約みたいなものが勝手に結ばれてるみたいだし。

 魔王としては信用が置けるのは魔族のみ。そうなった場合他の種族を全て滅ぼすと言う可能性も考えられる。他の種族を生かしておいては反乱などを起こされる可能性が残る。全員に奴隷契約を課すのも大変だ。したとしても人族全てが魔王の奴隷として生きていくことになるんだ。

 それは俺の仲間達や、その家族も例外ではないだろう。


 ここは俺の世界ではないかもしれないが、俺はそんな世界を望まない。皆だってそうだろう。皆には笑って暮らして行って欲しい。

 それだけで俺の考えは決まった。



「魔王がこの世界を自分の物としようとするなら、俺は魔王を倒します。」


「うむ。」



 俺の言葉を聞いてオモイカネが満足そうに頷いた。



「しかし、本当に魔王はこの世界を支配しようとしているんでしょうか?

 未だに何の動きもせずにいるからどうも実感が分からないんですが。

 後勇者がこの世界の人間でもなれるかもしれないのであれば、魔王もこの世界の魔族から選ばれるという事はないのでしょうか?」


「そうだな。今のところは力を蓄えることに全力を注いでいる様だ。

 だがお前も知っている様にカストの軍が全滅したのは奴の仕業だ。

 奴と言うより、その配下の魔族の手によってという事だがな。

 それと魔族からは魔王になるということはないだろう。勇者とは違い、それこそ全ての魔族の頂点に立つという事だ。魔族同士で殺し合いをしなければいけない。そうすれば種が全滅する可能性がある。そんなリスクを負ってまで魔王を魔族から選出しなくても、何名かの犠牲で召喚できるのであればそうするだろう。どの道魔王の配下になるという事は決まっているのだ、それが他の世界の人間であっても文句はないはずだ。」


「えっ!?

 カストの軍を全滅させた?それが配下の魔族?」


「あぁ、そうだ。

 あれは実験のつもりだったんだろうが、とても恐ろしい光景だった。私もずっとこの世界で色々な物を見てきたがあれほど(おぞ)ましいものを見たのは初めてだった。」


「そんなことが。」


「魔王の配下には今まで見たこともないような、誰も持ったことがないようなスキルを持っているのだ。」


「もしかして【八百万のスキル(アルティメットスキル)】の力ですか。」


「だろう。

 以前の魔王であれば大した問題ではなかったのだ。

 少し説明してやろう。

 例えばだ、勇者が選んだ【断罪(ジャッジメント)】のスキルを魔王が選び、持ったとしよう。

 魔王は配下にそのスキルの力を分け与えられるとしてもだ、配下の魔族は必ずしも使えるようにはならないという事だ。

 それはお前もわかっているだろう?」


「えぇ、確かに。

 俺の仲間達でも必ずどのスキルでも使える様になるってことではありませんし。

 特に俺が【断罪(ジャッジメント)】を使っていても仲間が憶える気配もありません。」


「そういうことだ。

 仮に【福音(ギフト)】を魔王が使えたとしても、配下の魔族が使える様になることはほぼないだろう。同じスキルを持つ勇者と相対した時はお互いのスキルが打ち消し合いスキルの効果はなくなる。

 だとすれば勇者は魔王に勝つことが出来るという事だ。

 今まではそう言う理由で魔王が勇者に勝つことなどなかった。

 魔王はこの世界に呼ばれた時に強さが決まるのだ。成長するという事がない。」


「そうだったんですか。」


「だが今回の魔王は違う。

 【八百万のスキル(アルティメットスキル)】のスキルのおかげで使えるスキルは増えていく。

 そして配下の魔族もそれぞれ自分に適したスキルを覚えたり、長所を伸ばしていったりしている。

 先程言ったようにその中で全く新しいスキルを持つ者も出てきた。」


「新しいスキルですか?」


「魔族も他の種族に比べ強さはあるが成長をほぼしない種族なのだ。

 元々の強さが決まっていると言ってもいいだろう。

 持っているスキルも人では使えない様なスキルを持っている。

 だがそれも元々持っているだけだったものだ。 

 しかし新しくスキルを身に付けることが出来る様になり、元々持っているスキルと新たに憶えたスキルを組み合わせ別のスキルの様に使う事を覚えた。」


「俺が以前にやっていた、幾つかのスキルを組み合わせて新しいスキルとして使っている様なものですか?」


「厳密に言うとそういう事だ。

 お前が新たに得た【八百万のスキル(アルティメットスキル)】の力、別のスキルを作り出すと言うほどではない。

 ただそれでも今までとは比べ物にならないぐらいに魔族も強くなっているだろう。


 もし魔王がこの世界を支配する気がないのであればなぜそこまで配下の魔族を強くする必要がある?自衛の為か?私が見た光景はとてもではないが自衛の為だとは思えなかったぞ。」


「そこまでの光景だったんですね。」


「あぁ、魔族たちは新たに得た自分の力を面白そうに振るっていた。

 子供が新しい玩具を手に入れた時に様に。いや、絶対的優位に立った者がただ楽しみの為だけに力を振るったと言った方が良いかもしれない。」


「それを聞いてしまうと、本当に俺が魔王を倒す事なんて出来るんでしょうか?」


「それは私にもわからない。前にも聞かれたが魔王を倒す方法は自分で見付けるしかないだろう。

 だが指針位であれば示してやることは出来る。

 まずはエルフの里に行くのだ。」


「エルフの里?」


「そうだ、今回の魔王を倒す為には人族以外の協力が不可欠だ。

 エルフや獣人などだ。人族は勇者と言う存在には協力的だ。

 しかしエルフや獣人にはその勇者と言う肩書だけでは協力を得ることが難しいだろう。

 特にエルフは種族としても魔族に引けを取らないほどの強さを持っている。その協力を得れるかどうかがこれからの魔王討伐に対しても鍵となるだろう。

 エルフからの協力を得ることが出来れば他の種族にも協力を仰ぎやすくもなるだろう。」


「この世界の危機と言えば協力してくれるんじゃ?」


「協力となるか、自分達エルフでどうにかすると言う話になるか。

 エルフたちの指揮の下戦う事になれば人族は使い捨ての道具として戦場に送られることになるかも知れないぞ。

 人にも色々な考えをする者がいる様にエルフも同じという事だ。

 自分達の種族を優先すると言うのはどこの世界でもあることではないのか?」


「確かに、その可能性はあります。」


「お前自身がその力をエルフに認めさせるしかあるまい。

 そして先頭に立ち全ての種族を率いて戦わなければ今回の魔王には勝てないであろう。」


「そう・・・、ですね。」


「今までお前には真実を告げてきた。やはり聞かなければ良かったとは思わなかったか?」


「それは、少し思いました。

 勇者として召喚されたことも実は数合わせで呼ばれた様なものだったという事。

 その時に俺が余計な事をした為に今回の魔王がとんでもない力を持ってしまったという事。

 正直ちょっと辛いですね。

 ただ真相を知ってスッキリできた所もあります。

 それこそ何も知らないまま魔王と戦う事になって、同じ世界の人間で一緒にこの世界を手に入れようと言われていたら。

 俺はもしかすればその提案を受け入れてしまっていたかもしれません。

 だけど、自分の本心を知って戦う決意が出来ました。

 その気持ちは真実を聞かなければ思う事のなかった気持ちだと思います。

 

 だから俺は真実を知って良かったのだと思います。」


「そうか、ならばよい。」


「とりあえず俺はこれからエルフの里を目指します。」


「そうだな、ただそれも簡単にはいかない事だろう。

 人が別の大陸へ渡るのも大変な事だろうし、エルフの里に着いてからもエルフたちの信頼を得なければいけない。大変な道のりだろう。」


「そうですね、少しずつやっていくしかありませんね。

 でもそんな悠長なことも言ってられないだろうか。」


「魔王の事か?それは問題ないのではないか?

 魔王はお前と同じ力を持ち、そしてお前と同じ様な考えを持っているのだ。

 だとすれば魔王が何を考えるかお前にも想像がつくのではないか。」


「なるほど。確実に自分が勝てるという自信が得られるまでは行動しない。

 俺達の力は時間をかければかける程自分も仲間も強くなれる。

 今相手がどれほどの力を持っているかもわからない、そんな状態では攻めていけないってことですね。」


「そうだな、下手に攻め込んで倒せればいいがいくら魔族が強いと言っても数の上では他の種族の方が多い。それなりに力を持っている者もいる。

 奴も策を練りながら自分達を強化していっている最中という事だ。」


「じゃあこれまでの様に勇者である事を隠して行動した方がいいってことですね。」


「恐らくな。それでもいつかは知られてしまうとは思うが時間稼ぎにはなるだろう。

 後は今知った真実は他の者には言わない方がいいという事だ。」


「そうはどういう事ですか?」


「先程の話にもあった魔王と勇者の事柄についてはあまりこの世界の住人が知る所ではないという事だ。

 この世界の住人がもしお前達勇者と魔王が同じ世界から召喚された人間だと知ったらどう思う?

 もしかすれば勇者も魔王と同じ様になるのでは?そう考えることはないだろうか。

 そうなればそれは勇者への不信感へと繋がる。」


「なるほど、そういう事もあって詳しくは伝えていないんですね。」


「そういう事だ。ここでは次への指針を聞くことが出来たという事にしておいた方が良いだろう。」


「わかりました。そうします。」



 とりあえず聞きたいことは聞くことが出来たか。

 これからどうしていくかの事も見えてきた気がする。

 やっと自分が勇者らしいことをしていくことになる気がする。

 例え形だけの勇者だとしてもな。


お読み頂きありがとうございます。

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