勇者とは
やっと勇者と魔王のことが語られます。
「戻った様だな。」
俺はそう声を掛けられた。
一瞬自分の置かれている状況が分からず混乱する。
俺は地べたに寝そべっていた。
そこで思い出す。
そう言えば神の試練を受けていたところだった。
今聞こえた声は、そう思い頭を持ち上げるとオモイカネの姿が見えた。
「はい、なんとか。」
俺はそう答えながら起き上がる。
まだ頭が少しくらくらする。がその内なくなるんだろう。
「うむ、では少し長話になるだろう。」
そう言ってオモイカネが手を振ると近くにイスが2つ現れる。
「座って話してやろう。」
そう言ってオモイカネは現れた1つのイスに座った。
「ありがとうございます。」
俺はお礼を言ってからもう1つのイスに座った。
「まずよくぞ試練を乗り越えた。その点を評価しよう。」
「いえ、試練と言ってもただ自分の本心を言ったとか、そんな感じだったような気がします。
こう、何かを乗り越えたとか言う感じではなかった気がするのですが。」
「いや、自らの真意を分かっている者は少ない。
そして安楽な世界を用意され、それを拒む者もな。
人はそこまで強くはないのだよ。」
「そういうものでしょうか・・・。」
「努力も苦労もせず手に入れられるのであればそちらを選ぶ者が大多数であろう。
努力と苦労をしても得られるかもわからない、そして命をかけなければいけないことに向き合うのは大変勇気がいることだ。
お前はそれを選んだという事だ。」
「しかし、それを知るのが試練の目的だったという事だったんでしょうか?
俺が命を懸けてまでこの世界を救おうとしているかと言う点を知りたかった様に聞こえますが。」
「そうだな。そう思って貰っても間違いはないだろう。」
「だとしたら俺がこの世界を救う気があるかどうかを試したという事ですか?」
「そうだ。それはこれから話すお前が知りたがっている真実と言う事柄について関係あることだ。」
「先程はなぜこの試練が必要だったかが分かると言ってましたが。」
「その通りだ。まずはお前、勇者の事から話してやろう。」
「勇者ですか。」
「あぁ、ただお前はなかなか聡い。ヒントの様なものを教えてやれば真実とやらに辿り着けるだろう。
パズルのピースは大体揃っているがどこにハメ込めれば良いか場所を指し示すものがないと言ったところだろうか。その場所を教えてやろう。
お前は勇者をどういう存在だと認識している?」
「どういう存在ですか・・・?
神レスティアからは魔王を討伐する為にこの世界に召喚されたと聞かされましたが。
俺もそういう存在だと思ってました、それが違うという事でしょうか?」
「いや、それは間違いではない。
勇者は魔王を討つためにこの世界に召喚された。それは事実だ。
ただそれは一つの側面でしかない。」
「一つの側面?」
「物事にはいくつもの側面が存在する。必ずと言っていいほどだ。ある位置から見るとその面が見え、別の位置から見ると別の側面が見える。それは物事全てに言えることだ。
勇者と言う存在も、神レスティアから見ればそう言う存在だと言えるだろう。
だが他の位置から見るとどうなるかという事だ。」
「魔王を倒す為に召喚されたのではないと?」
「いや、それは確かに勇者に課せられた使命であることには変わりない。
問題はそこではないのだよ。
何故お前が勇者に選ばれた?と言う点だ。」
「俺が勇者に選ばれた点?」
そう言えばそんな事レスティアに確認したことはない。
「俺に勇者たる資質を見出して・・・、とかではないんですか?
もしかして無作為に選んだとか?」
「いや、言い方を変えよう。
何故この世界の人間の中で勇者は選ばなかったのか?だ」
「この世界の人間で勇者を選ばなかった・・・。
それは、この世界では生まれる時にスキルを選んだりすることが出来ないからじゃないんですか?
他の世界から召喚された人間であればそこでスキルを選んで与えることが出来るからとか。」
「そうだ。
他の世界から召喚された者についてはその時にスキルを得ることが出来る。それがこの世界のルールだからだ。
しかしだ、お前たちが選ぼうとしたスキルと言うのはどういったものだった?」
「選ぼうとしていたスキル?この世界にある全てのスキルをどれでもってことでした。
常人が持てない様なスキルも選ばせてくれるって。」
「そうだ、そう簡単には手に入らないスキルだろう。
しかしだ、簡単には手に入らないからと言って絶対に手に入らないスキルだと言うのか?」
「えっ!?それは・・・。」
「お前達勇者が選ぶスキルは元々この世界にはあったスキルだ。お前のは別だがな。
この世界に元々あったスキルだという事はどこかの誰かがそのスキルを持っていたという事ではないか?」
「しかしレスティアは常人では手に入れられないスキルだと言ってました。」
「それはそうだろう。
だが、勇者と呼ばれる者は常人がなれるものだと思うのか?
ただの人がそのようなスキルを持ち勇者と呼ばれる様な存在へとなる、そういう事が起きないとでも?」
「そんな・・・、だとしたら何故俺達が召喚されて勇者になったのか・・・。」
「そうだ、何故だ?」
「それは・・・、この世界の人間ではなく、他の世界の人間が勇者になる必要があったから・・・?」
「だとすれば、何故そんな必要がある?」
何故?何故だろう。
スキルに関しては物凄く修練して、スキルを獲得できるという話だ。
勇者と言う称号も、そう言った行動や志を持っていれば、もしか知れば自然に付く称号かもしれない。
だとすると俺達しか持っていない差異は異世界人であること。
異世界人でないといけない理由・・・?
さっき言ったようにスキルや称号の話ではないな。でも異世界人だからと言ってこの世界の人間と違う点なんてないように思うんだけど。
異世界の知識を持ってるから?
いや、だからと言ってそれだけで魔王討伐に関係してくるとは思えない。
どんな知識を持ってるかを精査して召喚する人間を決めていたとは思えないし。
それに俺以外の2人が今勇者らしいかと言うと違うしな。
だとするとなんだ?
もしかして・・・。
「別の世界から召喚することに意味があった・・・?召喚する必要があった?
召喚すると言う行為が必要だった・・・。」
「その通りだ。だとすれば、何故召喚するという儀式が必要だったかという事だ。」
何故召喚する儀式が必要だったか?
召喚の儀式はこの世界と俺達がいた世界を結んでか扉みたいなのを開けて人を呼ぶってことだよな。
それがなぜ必要だったか、そんなの俺にわかる訳ない。
魔王が出現する時に合わせて儀式をするように取り決めしてたんじゃないのか?
この世界の人間よりも他の世界の人間の方が簡単にスキルとか手に入れることが出来るし、別の世界の人間だから死のうが何しようが痛手がないとか。
しかし勇者が負ければこの世界は魔王に滅ぼされるんだろう。そうなったらこの世界に生きる人間にとっての死活問題だよな。
自分達で人を育てて勇者にした方が確実性が高いんだと思うけど。
でもいつかに聞いた気がするけど魔王が復活するのが神からのお告げで分かり、それで勇者の召喚をするって。そうすると召喚の儀式は神からするようにと言われたからやってるんじゃないだろうか。
魔王が復活するタイミングで勇者を召喚するようにとすることに意味があったとか?
えっ!?
俺の頭の中に1つの考えが浮かんだ。
いや、そんなまさか。だとしたら・・・。
思い付いてしまった考えがとても嫌なものだった。だがそれが一番可能性が高い。
当たっていないことを祈り口にする。
「もしかして魔王も召喚されるから・・・、俺達と同じ世界から・・・。」
俺の言葉にオモイカネは無言で頷く。
マジかよ・・・。
「魔王とはお前たちの世界の人間だ。お前達と一緒にこの世界に召喚されたのだ。」
オモイカネはしっかりとした口調でそう言った。
「それは一体・・・。」
「順に説明するとしよう。
まずは召喚だが、これには大量の魔素を消費する。通常の人間では他の世界に門を通じさせるなどは不可能だ。
しかし魔素の保有量、そして扱い方に長ける魔族であれば何人かを犠牲にすれば他の世界に門を開けることが出来であろう。そうして開けることが出来た門に干渉することが出来れば同時に別の人間を呼ぶことは出来る。人が介入して魔族が開けた門をすり抜け召喚したのがお前達勇者だという事だ。」
「それは神がそうするようにと人に伝えたからですか?」
「そうだ、そうすることには意味がある。
魔王がこの世界に召喚される時にも、ルールでスキルを授ける必要がある。それは魔王として召喚されたからと言うから適用されないという事はない。
そこでお前達勇者の出番という事だ。」
「どういうことですか?」
「3人の勇者と魔王の計4人が同時に召喚される。
魔王とお前達勇者、同じ世界から同時に召喚されたと言う限定された状況であるが為その召喚に対しあるルールを課すことが出来たのだ。
具体的に言うと、お前達勇者に好きなスキルを選ばせ、その中から魔王にも1つを選ばせると言ったものだ。
好きなスキルを選ぶと言う行為を無くすことは出来なかった。だから勇者に先に選ばせ、その中から魔王にも選ばせると言う事にしたのだ。
スキルを選び、与えると言うルールから外れない様に必要な事だったのだ。
3人の人間が厳選したスキルから選ぶことが出来る。そうしたことによって魔王にも選ぶ権利を与えつつ、それに対しての対応策を講じられるということだ。勇者の中に同じスキルを持つ者がいるのだからな。」
「だから『まおうをうつためにじしんをみつめろ』と以前の勇者は言葉を残したのか。
魔王は自分達と同じスキルを持っていると。
だとしたら、勇者ってそれが目的でこの世界に呼ばれたってことですか?」
「そういう事だ。だから勇者についての情報をほぼこの世界には残す様にしていない。」
それはまぁそうだろう。
正直に言って俺達勇者は魔王のおまけで呼ばれた様な存在だ。
しかも俺達に勇者である資質なんてものを見出して召喚された訳でもない。
ただの数合わせ。
魔王に下手なスキルを与えない為の存在だったという事だ。
3人呼ばれたのも1人だったら勝てないかもしれないが、3人いたら勝てるだろうって思われてという事だろう。
誰がそう言う事だったと聞かされたら命懸けでこの世界を救おうと思うのか。
だってこの世界の人間だけで魔王は倒せたかもしれないんだ。
別に俺達勇者と言う存在が必要だったという訳じゃないってことだ。
ただ魔王と同じスキルを持ってるし、他の人より成長早いから倒せと言われてるだけなんだ。
俺達でなければ魔王は倒せないって言うのは幻想だった訳だ。
召喚されて直ぐにこんな事実を知ったら全てが馬鹿馬鹿しくなる。
昔召喚された勇者もそんなことで召喚されたと知ったら嫌になったのだろう。
俺だったらそんなことを自分より後に召喚された勇者に伝えたくはない。俺達はおまけで召喚されたただの人だったんだなんて。
「だからさっきの試練という事ですか?」
「そうだ。この話を聞いてまで命を懸けてまでこの世界を救おうと思う気持ちがあるのか。
それを確かめる必要があった。
何故この世界を救おうと思っているのかと言う事を知る必要があったのだ。
お前の様な想いであれば真実を知っても変わりがないだろう?」
「それはそうですが・・・。」
「割り切れない気持ちがあるだろう。そればかりは私にもどうしようもない。
勇者がそう言った存在だとしても、この世界の人間からしてみれば特別な存在であることには違いないだろう。
普通であれば手に出来ないスキルを持ち、比べ物にならないほど強くなれるのだから。
しかし今回に関しては別の問題も発生したのだ。」
「別の問題?」
「そうだ。
先程言っただろう。魔王はお前の世界の人間、そしてお前達勇者と同じスキルを持っていると。」
「まさか!」
「そう、魔王はお前と同じ【八百万のスキル】を持っているという事だ。」
なんてことだ。
そりゃ【断罪】や【福音】と【八百万のスキル】から1つ選べますってことになったら当然【八百万のスキル】を選ぶだろう。
だからなのか、神レスティアが俺は魔王には勝つことが出来ないって言ったのは。
【八百万のスキル】は全てのスキルを使うことが出来る。俺と同じなんだ。魔王も俺と同じチートを持ってるってことか。
しかも俺と同じ世界の人間だったとすれば俺と同じ様な知識を持っている可能性もあるという事だ。
「だとしたらレスティアが魔王に勝てないと言ったのは・・・。」
「お前の考える通りだ。同種の力を持っているのだ、しかも向こうは魔王と言う役割を与えられている。」
「魔王と言う役割?」
「お前たちが勇者としての役割を与えられているのと同じだ。
奴は魔王としてこの世界に召喚された。その瞬間に魔王としての力も与えられるという事だ。
それはスキルではない。お前も持っているであろう?勇者と言う称号を。
勇者と言う称号もそうそう与えられるものではない。その者の強さ、志、全てが揃った時に与えられる称号。
しかしお前たちは勇者としてこの世界に召喚された。その時点で与えられるのだ。
お前達は勇者としての役割でこの世界へ召喚されたのだからな。
そして魔王は召喚された時に同じ様に魔王と言う称号が与えられる。
魔王と言う称号には勇者の称号の様に特別な能力が宿るのだ。
それは全ての魔族を統べる力。
お前にわかりやすく言えば、お前が行っている奴隷契約という契約を全ての魔族に自動的に適用していると考えればいいだろう。」
「そんな・・・。だとしたら。」
「魔王の配下とされる魔族は様々な力、スキルを手にしているだろう。」
そんなことがあるのか。
だがそれで色々と合点がいった。
何故魔王が今までこちらに攻めてこないのか。
俺と同じ様に色々なスキルを試したり、使える様にしているのだろう。
【八百万のスキル】でスキルをセットしていなくても使える様になる、それは使っていれば気付くだろう。
そして配下の魔族がスキルを覚えたりすれば【八百万のスキル】の力が幾らか影響を及ぼしていることもわかるだろう。
いや、そもそも称号の詳しい内容を確認すれば知ることが出来るか。俺が奴隷の主と言う称号を確認した時と同じように。
そしてそんな力を持ったすればどう考えても俺と同じ様な事を思い付くだろう。
自分と仲間をどうすれば強く出来るか。どうすれば魔王(勇者)に勝てるかという事を。
それにはかなりの時間がかかる。
それにしてもまだまだ疑問に思う事はある。
お読み頂きありがとうございます。
200話を前にしてやっとこさ勇者と魔王の話が書けました。




