トラウマ
「ここは・・・。」
俺は今までとは違った感覚を味わっていた。
自分の体なのに自分では動かせない。
俺の体が自分の意志とは関係なく勝手に動いてる。
俺と言う入れ物に入れられているような感覚だ。
「緊張してきたな・・・。」
俺の口が勝手に話してる。小さな呟き、独り言だ。
そして俺の体は勝手に歩いている。
俺はただ見て考える事しか出来ない。
この道って・・・。
そう、今俺の体が歩いている道には覚えがあった。
俺の体は迷うことなく歩き、一軒のアパートに入って行く。
いやだ、やめろ。やめてくれ。
俺は心でそう思うが体は止まってくれない。
そのまま体は進み、ある扉の前で止まった。
呼び鈴を鳴らし、しばらく待つと扉が開いた。
そしてもう二度と見ることはないだろうと思っていた人物が扉から顔を覗かせた。
「おう、よく来たな。早く上がれよ。」
その人物が俺に笑顔でそう言った。
もういい、やめてくれ。
俺は心の中で叫んだ。
すると周りが一瞬で真っ暗になった。
「なんだよ。これからがいい所だろ。」
俺の声が聞こえる。
「どういうことだ?」
声が出るようになった俺がもう一人の俺に問いかける。
「お前トラウマなんてないと思ってただろ?だから見せてやったんじゃねぇか。」
「違う、トラウマなんてもんじゃない。」
「へぇ~、あくまで認めないんだな。
じゃあ、俺が1つ1つゆっくりと説明してやるからよく聞けよ。」
「うるさい!黙れ。」
「いや、黙るのはお前だ。」
そうもう一人の俺が言葉を発すると、俺の口は閉ざされ話せなくなった。
「俺が懇切丁寧に初めっから説明してやるよ。
確かお前が20歳になったばっかりの頃だよな。
しっかしお前も年齢とか気にするんだな。
20を超えるまではとかってどんだけ昔の考えだよ。
まぁそれはいい。
あれだよな、某携帯の出会い系サイトで知り合ったんだっけ?
なんつーってたか。TAKAだったかTAKUだったか、忘れたな。
そのサイトで知り合ったんだよな。一個上の先輩と。
学校も一緒で家も結構近所だったよな。
最初はメールのやり取りでめっちゃ楽しんでたもんな。
それから近くだし会おうって話になったんだよな。
初めて会ったのはどっかのカフェだったか。
お前チョー緊張してたよな。初めてゲイの人と会うんだもんな。
んで会ってみたらドストライクだった訳だ。そのナントカっていう先輩は。
お前もかなり嬉しかったんだよな。舞い上がるってこんな感じだとか思ってたし。
それから何回か会ってナントカ先輩の家に誘われたんだ。
それでお前はホイホイとその話に乗った訳だ。
ってかかなり期待してたんだろ。しっかりシャワー浴びたり、新しいパンツ履いて行ったもんな。
で、さっきみたいにウキウキしながら先輩の家に上がった訳だ。
したら先輩の他に3人知らない男がいたんだよな。
えっ!?って思ったよな。
そしたら先輩に後ろから抱きしめられて、こう言われた。
『皆で楽しもうぜ』
ってな。
お前も断ればいいのにそのまま流されてやっちまうんだもんな。
初めてが複数ってどんだけなんだよ。
まぁお前も若かったし楽しめたんじゃないの。
ってそれは先輩に後で言われた台詞か。
お前も嫌われたくない一心でショックだったこと隠して『はい』って答えたもんな。
それからその先輩に誘われるのは複数でやる時だけ。
それ以外はうんともすんともなかったもんな。
お前初めての出会いでドストライクの人と付き合えるって幻想、見事に打ち砕かれたもんな。
向こうとしたらお前の事なんてただ楽しむだけの相手としてしか考えてなかったし。
しかも一対一じゃないとかウケる(w
その他大勢とかの扱いだったんじゃねぇの。」
「違う、そんなんじゃない。俺はそんなこと思ってない!」
口が利けるようになった俺がそう怒鳴る。
「はぁ?お前、俺に嘘つけるとでも思ってるのかよ。お前は俺だぜ。何でもわかってるっつーの。」
「うるさい、だったら何だって言うんだ!」
「わからないかな~。これがお前のトラウマだって言ってんだ。
これがあったから今ブランなんかにも自分の気持ち、伝えられないんだろうが。
と言うか、もっと根深いんだがな。
人の事信じてないだろ?お前。」
「そんなことはない。」
「どうだか。さっきも言ったけど俺はお前だ。そんなのもわかってるって。
親にしろ、先輩にしろ、お前の事なんて興味なかったもんな。
親はお前を自分達のいう事を聞く駒として、先輩はお前の体だけを見ていたもんな。
お前という人間には興味がない、そう思ってたんだろ。
それはこの世界に来てからもそうだ。
勇者っていう仰々しい役割を与えられた。
またこれが厄介だよな。
この役割の性でお前って言う人間は薄れちまうんだからな。
ブランやガイ、キースなんかも勇者であるお前、スキルをいっぱい使えて一緒にいれば自分達も簡単にスキルを覚えられるから一緒にいてくれるんだって思ってるだろ。
仲間の皆も本当に俺の事を見てくれてるのかって。」
「それは・・・、お前は何が聞きたいんだ。
俺が『誰の事も信じてない』って言葉が聞きたいのか?」
「いや、違う。
俺が聞きたいのは本心だ。お前が思う本当の想いだ。」
「本当の想い?」
「お前さ、俺とさっき話しただろ?
この世界を救いたいのは自分の居場所を作りたいからじゃないのか?
俺がそう聞いた時お前はそれが何が悪いのかと聞いたよな。
そして俺がお前の居場所として最高の環境を用意してやったのにそんなの望んでなかったと言った。
どういうことだ?
お前の居場所を提供してやったのに望んでないだなんて。
どう考えても矛盾してるよな?
ってことはお前は本当の事を言ってなかったってことだ。」
「それは・・・。」
「ハーレムの事もそうだ。
お前の考えるハーレムって皆がお前の事を好きだと言ってくれる関係を望んでるんだろ?
よし分かった。全部のタイプの男がお前をスキスキ言ってくれる世界を作ってやろう。
俺がそう言ったらお前はその場所を自分の居場所と決めて元の世界、そして勇者として召喚されたこの世界から去るのか?」
「・・・・。」
「お前は何故ここにいる?
お前は何故現実世界に帰れるかどうかもわからない神の試練を受けた?
もしかすれば夢の様な世界に行けるかもしれないから受けた訳じゃないだろ?」
「・・・・。」
「お前は何故命懸けで神の試練を受け、何故命懸けでこの世界を救おうとしてるんだ?」
「何故・・・。」
自問自答する。
俺は何故この世界を救いたいと思ったんだろう。何故命懸けで試練を受けてる?
自分の居場所を作る為?
初めはそう思った。アニメや漫画であるような異世界への召喚。そんなのそうそう出会う事ではない。
しかもチートなスキルを手に入れることが出来たんだ。
好みのタイプの仲間も出来て、魔王も簡単に倒せると思っていた。
サクッと魔王を倒して後はハーレム作って楽しく余生を過ごすみたいなことを考えていた。
元の世界に戻れなくても構わない。
そう言う場所に来れたんだって。
自分の居場所ってなんだ?誰かが必要としてくれているところか?
そんな場所じゃなきゃ俺はいてはいけないんだろうか。
多分俺は夢に見てたんだろう。皆が俺の事を好きだと言ってくれる、俺の事を受け入れてくれるハーレムって言うものに。それが自分の夢見た居場所なんだって。
でも実際にはハーレムなんて出来ないし。
俺から好きだなんて言う勇気はない。
断られたらどうしよう。それだけを考える。
主としての強権を行使しても所詮は体だけの関係だろう。
そんなのは嫌だ。
どれだけ虚しかったか、どれだけ寂しかったか。それを俺は身を持って知ってる。
皆が俺の事を好きかどうかなんてわからない。
仲間の事を思い返す。
ブランはいつも俺の事を思ってくれている。俺に命を捧げるとも。
そう言ってもらえるのは心底嬉しい。そんな言葉を言われるのはこれからの人生の中でもあるかわからない。
ガイも俺の事好きだと言ってくれた。何があっても嫌いになることなんてないって。
シータは家族だと言ってくれた。あんな両親よりよっぽど親しく感じる。
アリアは・・・、うん、娯楽と言うか趣味と言うか。それで一緒にいるんだよな?しかしそれで命を懸けるんだから凄いよな。
今は離れているキースにしろバロンさんにしろ俺の事を想ってくれてるのはわかる。
例えばブランや、ガイに好きな人が出来て俺から離れて行ったとする。
そしたら俺はこの世界を救おうとは思わないんだろうか。
誰も俺の事を一番好きだって思ってくれる人のいない世界を命懸けで救おうと思うんだろうか・・・。
俺はきっと命を懸けてこの世界を救おうとするだろう。
それは俺が大好きな達がいる世界だから。
そうだ、簡単な話だった。
ブランもガイも皆俺の事を、勇者だからとかスキルをいっぱい持ってるからとかそんなんじゃなく好きになってくれたんだ。
皆スキルなんてすでに他人と比べ物にならないぐらい強く、いっぱい持ってる。
だけど俺の元から去っていく仲間なんていない。
皆俺とだから勝てないと言われた魔王にも挑もうとしてくれてるんだ。
そんな皆が俺は大好きなんだ。
命を懸けて守りたい、そして皆が大事にしてる人も守りたいんだ。
俺がこの世界を救おうと思ったのは大好きな人達がいるからだったんだ。
なんでそんなことが分かっていなかったんだろう。
居場所が欲しくて命を懸けてる訳じゃない。
俺自身が俺が好きな人たちの為に命を懸けてるだけなんだ。
居場所がなくたって、ハーレムを作れなかったって関係ない。
ただ命を懸けて大好きな人がいる世界を救おう、それだけなんだ。
「答えが出たようだな。」
もう一人の俺がそう言った。
「あぁ、俺は大好きな人達がいるこの世界だから命を懸けるんだ。」
「そうだ、それがお前の本心だよ。」
「ってことは俺はお前が求めていた答えを言えたってことか?」
「そうだな。まぁ試練は合格ってところだな。」
「それにしてもこの答えに何の意味が?」
「それはまた教えてやる。っと言うか聞いたら分かるって感じかな。
お前も話を聞いたら納得するんじゃないか?
なぜこんな試練が必要だったのかってことをな。」
「必要だった?トラウマを乗り越えさせて、心を強くするとかの意味じゃなくて?」
「ん~、あんまりそっちのは関係ないかな。本心を引き出す為に見せたってところかな。
結局のところあのトラウマのせいで、お前は自分の気持ちを受け入れて貰えない事への恐怖が心を侵していたんだ。
お前が誰かを好きになるって気持ちを塗りつぶされていたんだ。
誰がお前を好きになってくれるのか?誰がお前の気持ちを受け止めてくれるのか?そればっかりが大きくなりすぎて、お前自身が誰かを好きになるって気持ちが見えなくなってたんだ。
相手に求め、自分自身の気持ちを殺そうとしていたんだ。
相手が答えてくれなければお前が好きになっても意味がない、そんな考えになっていたんだ。
そんなことはないはずだ。
お前が好きと言う気持ちだけで命を懸けて戦える、命を懸けて守ることが出来るはずだ。
だから乗り越えたって言うか、その塗りつぶされそうになっていたのを取り払ったようなもんか。
完全にって訳でもないが。
本心を見やすくする為に覆い隠そうとしているトラウマも見せたってことかな。
トラウマに対峙しないとその先にある本心なんて見えないからな。」
「じゃあ今回はトラウマを乗り越えたっていうよりも俺が自分自身の本心を知ったってことなのか。」
「そう言ってもいいだろう。だけどそれは大切な事だろ。
それがお前の核となり、お前を成しているんだからな。
見えなくなったり、わからなくなれば自らを保てなくなるぞ。
特に別の世界にきたり、勇者として魔王討伐を役割として与えられたその身ならな。」
「もしかして以前の勇者が残した『まおうをうつためにじしんをみつめろ』って言葉はこのことだったのか?」
「さぁな。それは俺にもわからない。どう思ってその言葉を残したかによるし。
以前の勇者もこの試練を受けたからそう言う意味かも知れない。
だが他の意味があるかも知れないがな。」
「他の意味?」
「そこら辺の話は元の世界に戻ってからだな。
ここでずっと話をしていても仕方がない。
向こうに戻ればきっちりと話をしてやるよ。」
「わかった。」
「じゃあ戻るぞ。」
もう一人の俺がそう言うとまた眠気に襲われた。
これで試練も終わったのか。
今回の試練は以前の試練とは別の意味で大変だった。全て俺1人で乗り切らないといけなかったし。
もし俺があそこで夢の様な世界で過ごすことを望んだらどうなっていたんだろうか。
俺は仲間に別れも告げないまま自分の世界に閉じこもってしまったんだろう。
何も知らない皆は心配しただろうな。俺がいつまで経っても帰ってこないって。
それはやだな。
やっぱり皆の所の方がいい。
たとえ誰とも結ばれることがなかったとしても、それでも俺は皆がいる世界の方がいいや。
しかしあれだけ言ってたハーレムも本当は望んでなかったのか。
でもあの世界も良かったんだけどな。
ブランの膝枕・・・、本物じゃないだろうけどかなり幸せを感じたし。他の仲間達ともあんな感じで過ごせたんだろうか。そう思うと心のどこかで望んでる気はする。
ハーレム状態になったらなったで嬉しいと思うのは本心なんだけど、それが俺の一番の目標や目的ってことじゃないだけじゃないのかな。
捨てがたい夢だよな。
うん、やっぱり心の片隅には期待して持っておこう。
勇者である前に1人の男の子だもんな。
この世界を救いたいって気持ちに嘘偽りはない。
大好きな皆のいる世界なんだから。
でもそれとは別に、夢と言うか、理想と言うか。
そう言うもんだよなハーレムって。
本心は大好きな人達がいる世界を救う(+出来たらでいいのでハーレムを持つ)という感じだよな。おまけと言うか、付属と言うか、当たり付きの当たりが出た時とか。
そうしておこう。って誰にこんないい訳みたいなことをしてるんだろうか。
お読み頂きありがとうございます。




