揺れる心
「えっと、俺は何をしてたんだっけ。」
あれ?なんかこれさっきも言った気がするんだけど。
モヤモヤする頭を振って何とか意識を通常状態に戻そうとする。
そして周りの景色を見回す。
俺はベットに横になっていた様だ。窓からは朝日が差し込んでいるみたいだから、寝て起きた所なんだろうか。
部屋の景色は見覚えがあるようなないような。どこかの宿屋に泊まってたっけ?そんな家具や部屋の様子だった。
う~ん、俺は今何かしてるような気がするんだけど・・・。それが何か思い出せない。
とりあえず起きて部屋から出てみようか。
そんなことを思っていたら部屋の扉がノックされ、そして扉が開いた。
開いた扉から入ってきたのはブランだった。
「主起きられましたかのう。」
「あぁ、おはよう。あれ?でも俺って今はブランとは離れて何かしてたと思うんだけど・・・。」
「何を仰ってるのでしょう?わしとはずっと一緒におりますがのう。」
ブランはそうキョトンとした表情をして言った。
あれ?そうだったっけ?
う~んと悩んでみても答えが出てこない。しかしブランがそう言うのであればそうなんだろう。
ブランが俺に対して嘘をつくとは思えない。それにそんな嘘をつく理由も思い当たらない。
「えっと、ごめん。なんだか頭がハッキリしてないんだ。今日って何しようとしてたっけ?」
「主は憶えてらっしゃらないんですか?今日はわしとデートの日ではありませんか。」
「デート!?」
「そうです。わしも楽しみにしておりましたわい。」
「えっ!?あぁ、そうか。そうだったね。ごめんごめん。そうだよね、デートだ、デート。」
「えぇ、では下でお待ちしておりますので準備して下され。」
「う、うん。すぐに準備するから。」
俺がそう言うとブランは笑顔で部屋の扉を閉めた。足音が遠ざかる。
そっか、今日はブランとデートの日だったか。何でこんな楽しいこと忘れてたんだろう。
急いで準備しないとな。
俺はそう思ってベットから飛び起きて身支度をした。
「お待たせしてごめんね。じゃあ行こうか。」
身支度を整えた俺は部屋を出て階段を下りて行った。すると玄関フロアの様な所でブランが待っていてくれた。
ブランにそう声を掛け、俺は自然にブランの手を取って外に歩き出した。
外に出てからは手を繋いで街の中を歩いた。
色んな店を見て回ったりした。
いつもの様に2人して魔法具店に行くと時間をかけて魔法具を見て話した。
ご飯を食べに行くと、ブランがスプーンで料理をすくい、アーンと口に運んでくれた。俺も負けじと同じ様に料理をすくい、ブランの口へ。いつもながらにラブラブな感じだ。
それから少し散歩がてらに街から出た。少し歩くと綺麗な湖があったはずだ。そこの畔に座ってボーっとするのが好きだった。
湖に着くと近くの草むらにゴロンと横になった。するとブランが膝枕をしてくれた。
うん、いつもの光景だ。幸せいっぱい。
でもなんか忘れている様な気がするんだけど・・・。
「そう言えばガイや他の仲間は?」
俺は何気なく思い出したことをブランに聞いてみた。
「わしと一緒におるのに他の男の話ですか?傷つきますぞ。」
ブランが少し悲しそうな顔をして俺の事を覗き込んだ。
「あぁ、ごめんごめん。ちょっと気になっちゃって。」
「ガイは昨日でしょう?」
「昨日?」
「えぇ、昨日がガイ、今日がわし、明日がキース、そしてその次が・・・。」
「えっと何の話?」
「主とデートする順番ですよ。憶えていらっしゃらないのですかのう?」
「そんな話だったっけ・・・。」
「えぇ、主がお決めになりました。皆を平等に愛する為とおっしゃって。1日交替でと。わしにすれば主のお決めになったことですし仕方がありませんが、本当でしたらもっと一緒におりたいものです。」
「えっと、なんかゴメン。
それと、俺って皆と付き合ったりしてたっけ?なんだか混乱してるみたいで。」
「それこそ何を仰ってるのか。わしらは皆奴隷。主の所有物ですぞ。」
「奴隷・・・。それはそうだったと思うけど。あれ?奴隷?ブランが?」
「えぇ、わしもガイも奴隷だったところを主に買って頂きここにおります。」
「ブランとガイはそうだったかも、キースは?」
「奴が良からぬことをしようとしていたのを懲らしめ、奴隷にしたのではないですか。」
「そうだった・・・かな。」
「はい、主は強い力をお持ちです。その力があれば何でも出来るでしょう。
奴隷を増やすなど容易いことです。」
「いや、俺はそんな事思ってないと・・・、うん、そんな考え持ってなかったはずなんだけど。」
「いいではないですか。こうしてわしらもおりますし。これからも奴隷にしたいものがおれば、主が力を振るえばいくらでも傅く者もおりましょう。そうして主の思うままにされればよろしいのではないでしょうか。いったい誰に遠慮していらっしゃるのか。」
「遠慮とかじゃないんだけど・・・。もっと俺にはやることがあった気がするし・・・。
そう言えばなんで俺はそんな力を持ってるんだっけ?
それにブランは俺の事好きだったっけ?」
「奴隷と主の関係は好きなどと言う言葉で表すものではありません。
全ては主の御心のままに。」
「えっ?じゃあ、ブランは俺の事を好きとかではないの?」
「・・・・。」
「えっ?何で無言。」
「皆主の奴隷です。皆主仰る事であれば受け入れるでしょう。
主そう望んだのではありませんか。」
「違う。俺はそんなの望んでない。」
「何が違うと言うのです?自ら好きになった者に好き勝手に出来るのです。それを望まない者はおらんでしょう。」
「違う。好き勝手したいなんて望んでない。」
「何を、ハーレムを作りたいと望んでいたではないですか。その夢が叶っておるのです。何がご不満なんでしょう。」
「違う。これは俺が望んだハーレムなんかじゃない。俺はハーレムなんて望んでない。」
「まことにおかしなことを仰る。ハーレムを望み、わしやガイの様な奴隷買って仲間にしたのでしょう。」
「だから違う。俺はハーレムなんて本当は望んでないんだ。」
「では何を望んでると?」
「それは・・・。」
俺は唇をギュッと噛み締める。
俺は何を望んでいる?
「お前はブランじゃない。ブランはそんな事言わない。今思い出した。俺は勇者で試練を受けている所だ。」
俺は飛び起きてブランを睨みつける。見かけはブランであっても、ブランではないんだろう。
「別にいいんじゃないか?」
ブランの口から違う人物の声がする。さっきも聞いた俺の声だ。
「何の話だ?」
「今この場所の事だよ。ここはお前が思い描いた世界だぜ。
力を持ったお前が好き勝手出来る世界。タイプの男を見付けて片っ端から奴隷にしてしまえる。
そうすればお前のいう事なら何でも聞くぜ。
それに対して文句を言ったりしないし。
こういうの望んでいたんだろ?ほらっ、いくらでもハーレム増やせるぜ。
ここでだったら勇者もやらなくていいんだぜ。勝てない魔王とも戦う必要もないし。
タイプの相手と毎日毎日イチャイチャして過ごせるんだ、夢の様な場所だろ?」
「俺はこんな世界望んでない。」
「へぇ~、じゃあそれはなぜだ?男なら一度は夢見る世界だろ?
自分の思い通りになる世界。普通だったら望んでも手に入らないぜ。
それとも自分で努力もしてないのにそんな世界を手に入れるのが抵抗があるとかそんなんじゃないよな?
お前の持ってるスキルだって努力なんて一切なく手に入れた物だろ?
それで生きて行こうと思ってるんだ。だったらこの世界でもいいじゃないか。
棚ボタだよ、棚ボタ。ラッキーだと思っておけよ。」
「何がラッキーだ!そんな訳ないだろう!」
「はぁ?お前本気で言ってんの?
嫌いだった世界からこっちの世界に来て、好みの奴とパーティ組んで楽しく旅して、最後には夢見た世界を手に入れられるんだ。そこにお前の努力なんてあったのかよ?
運が良かっただけだろ。
ラッキー続きじゃないか。じゃあこのままここで楽しく過ごしていけばいいだろ。
別に元いた世界に戻る気なんてないし。世界を救おうとしてるのも居場所を確保したかっただけだろ?
ここだったらお前の望む立ち位置でいられるんじゃないか。何も悩む必要なんてないだろ。
苦労せず自分の居場所が手に入るんだから。
それがラッキーだと言う以外何だって言うんだ?」
「違う。俺はそんな居場所を求めてる訳じゃない。」
「本当にお前の言ってる事って支離滅裂だな。
折角お前の望む世界を用意してやったのに。」
「俺が望んだ世界・・・?」
「はぁ、全く。さっきも言ったがここはお前が望んだ世界じゃないか。
ハーレム作りたいと言ってただろ。
魔王も他の勇者が倒してくれたらそれで良かったんだろ。」
「それは、そう思ったこともあったけど・・・。」
「お前が本当に欲しいものって居場所なのかよ?」
「えっ?」
「お前の望む居場所を作ってやったら作ったで、こんなの嫌だと駄々をこねるし。子供かよ。
それとも何か?自分の居場所は自分で勝ち取ってこそ意味があるとか思ってる口か?」
「・・・。」
「とんだ幻想だな。そんな都合のいい話なんてある訳ないだろ。
誰がお前を受け入れてくれる?誰がお前を好きになってくれる?
そろそろ本当の事言ったらどうなんだ?」
「本当の事?」
「そうだ。お前の欲しいのは居場所なんかじゃないだろってことだ。」
「本当に欲しいもの・・・。」
「あーっ、まぁいいか。次に行ってみるか。
それを見たらお前もちょっとは考えれるんじゃないのか?」
「次?」
「これで終わりと思ったか?何も答えなんて出てないだろうが。」
「待て、お前は俺に何を答えさせたいんだ?」
「さぁな。何かねぇ~。」
「そんなんじゃ何を答えればいいかわからないだろう。」
「今のお前に何を聞いても無駄だし。お前自身が答えを見つけてないんだからな。
だから見せてやるよ。お前のトラウマってものをな。」
「なっ・・・。」
「それを見て考えるこった。じゃあ後でな。」
そう言ってブランの姿をした俺が右手を伸ばす。そして迫りくる猛烈な眠気。
俺のトラウマだって?よくあるネタじゃないか。トラウマを見せてそれを乗り越えさせるなんていくらでも見たことあるぞ。
でも俺にトラウマなんてものないはずだ。
しかしどうしてこんなに不安な気持ちになるんだ。
お読み頂きありがとうございます。




