魔法対戦トーナメント
今俺はなぜか魔法学園で生徒としてより、教師としての意味合いの方が高い。
初級クラス20人程の面倒を毎日見ているのだ。
どうしてこうなったんだろう。そんなつもりは全くなかったんだけどな。
しかし皆真面目に俺の授業の様なものを聞いてくれて、かなり魔法の腕が上がってきている。もうある程度専門的な事をやってきている。
全てはエデバラで教えたことと大差ない。それぞれの生徒にあった魔法を、それぞれの性格に合った教え方をするだけだ。理論から教えた方がいい奴と、感覚的に教えた方がいい奴などそれぞれだ。一変通りの教え方をしたところで魔法の扱いが上手くなったりしない。
そうしたことによって、内のクラスは専門クラス並みの魔法が使える様になってきている。
う~ん、やり過ぎたか。
でも素直に聞いてくれる子供たちに対しては、こちらも出来る限りの事を教えてあげたくなるって言うのが人情だろう。
何度か別の専門クラスの教師が俺の授業を見にきたりして焦った。そう言うのはアリアの方に行ってもらいたい。
しばらくはそんな生活を続けていた。
本当に俺は何しにこの学園に来ているんだろうと思う。だがもう少しで学園統一の試験がある。
それで認められれば俺も研究生となれるんだろう。
この学園には研究生という者がいる。
その道に明るい者がなれ、学園の中で研究し新しい魔法や技術を作り出していくんだ。
単純に魔法を研究したリ、新しい魔法具の開発をしたリと様々らしいがな。
その研究生になれば国立図書館への立ち入りも認められるという事だ。
毎年何人かの生徒が試験で功績を認められて研究生入りしているらしい。
しかし試験が色々と問題みたいだな。
試験の内容もいくつかある。
一番簡単な試験はどの程度の魔法を使えるかを確認すると言った試験だ。
学園もずっと魔法の腕が上がらない生徒を抱えておくわけにもいかない。ある程度の水準に達していなければこの学園を去らねばいけないという決まりだ。
この試験は必ず生徒全員が受けなければならない決まりだから問題ない。
俺なら余裕だ。上位魔法を無詠唱で使えるんだからな。まぁそんなものを見せたりはしないけどね、ある程度抑えた力でも余裕で試験には合格するだろう。
ただ研究生になる為の試験は別であるんだ。
そして種類も色々とあるらしい。
魔法具作りを研究したい物であれば自作の魔法具を学園に提出して出来を審査されるとか。
属性魔法の研究であればその魔法を使って見せることもある。
俺の場合は新しい魔法を作るってことを、研究生になってからの研究対象としているんだ。そう言う場合は新しい魔法を構築して、それを学園に提出して審査されるはずだ。
でも今回はそうならないみたいだった。
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「魔法対戦トーナメント?」
「えぇ、それに参加して力を見せる様にとのことです。」
俺がそう聞きなおしたことにアリアが答えた。
今俺達は初級クラスの教室にいる。
事前にアリアに今度の試験内容の事を確認して欲しいと伝えていたのだ。アリアは今は俺達のクラスの副担だ、学園に確認したいことがあればアリアを通しての話になる。
そしてアリアから試験内容が分かったのでと言われて内容を聞いてたんだ。
「何でそうなるんですか?僕って新しい魔法を作る研究をしたいだけなんですけど。」
他の生徒もいるので俺はアリアに一応敬語を使う。
「私も学園長にはそう伝えたのですが・・・。どうしても今回このクラスでそのトーナメントに出る様にと言われたんです。」
魔法対戦トーナメントは先日少しだけ話をしたこの学園でのイベント事だ。
確か3人1チームになって実際に魔法を使って戦闘行為をするというものだ。
立ち上がれなくなったり、MPを使い果たすとその時点でその人物は失格となる。そして最終的に1人でも立っている者がいればそのチームの勝利になる。それをトーナメント方式で行うんだ。
「確かあのトーナメントって専門クラスになってから参加できるようになるんじゃないですっけ?」
「えぇ、普通は。ただ学園長曰くこのクラスはもうすでにその程度の力量は持っているので問題ないと言うことでした。」
う~ん、確かにこのクラスの生徒はそこそこ強くなった。力の基準で言えば問題ないのかもしれない。
「でもなぜ僕が出ないといけないんでしょう?それに3人1組だから後2人でないといけない訳ですよね?」
「そうですわね。その選抜もナイト君に任せるとの事でしたわ。何故出て欲しいかは、まぁその色々とあるんですわよ。」
アリアが歯切れ悪くそう言った。何だろう?ここでは言えない話か。後で【念話】で確認するか。
「いいじゃん、だったら俺一緒に出るぜ。」
そう言ったのはベックだった。えぇ~ベックか・・・。まぁベックもあの事件以来真面目に魔法について勉強しているしメキメキと実力を上げている。それなりの攻撃魔法も使えるからこのクラスからそう言った対戦会みたいなものに出るのなら選ぶべき人選かも知れない。
そうなってくると・・・。
「後はアーサーかな。」
「えっ?僕!?」
俺がそう発した言葉に、アーサーが驚いて答える。
アーサーも魔法の腕は、このクラスでも上位の腕前にまでなっている。素直だし、教える俺の気迫も違うしな。
後は頭の回転も割と早い、先が読めるって言うか次に何をすべきかをわかっている。魔法使いは基本的に後衛の人間だ。味方の状態や敵の状態なんかを総合的に見て判断しなければいけない。今の状況を見てるだけよりも、先の状況を予測して動いて行かないといけない。魔法には詠唱があったりするしな。
その点をアーサーはちゃんとわかっているみたいだ。
それに3人だと言うのであれば、ベックが攻撃、アーサーが支援と回復、俺がサポートをすればバランスのとれた組み合わせになる。
「学園長が言うにはそれしかナイト君が研究生になる道はないみたいですわ。」
「そうなんですか。じゃあベックとアーサー、お願い出来ないかな?僕と一緒にトーナメントに出て欲しい。」
「当たり前だろ。俺は頼まれなくたって出るに決まってる。」
「えっ?そんな、僕が出ても役に立たないと思うよ。絶対2人に迷惑かけると思うし。」
ベックと対照的にアーサーはおどおどしてそう言った。
「そんなことないよ。僕アーサーの事信じてるから。役に立つとか立たないとかの問題じゃないんだ。
何かをする時にはアーサーと一緒じゃないとね。」
「ナイト・・・。うん、僕もナイトと一緒がいい。頑張るね。」
「ありがとう、アーサー。」
「えっ、ちょっとナイトったら。苦しいよ。」
俺はお礼を言いながらアーサーに抱き着いた。うむ、抱き着き心地いいな。
「えっ?先生、大丈夫ですか?」
ベックが驚いた声を上げたので後ろを振り返って見てみたらアリアが鼻血を出していた。
「えぇ、大丈夫です。あなた達の姿に興・・・感動したのです。なかなかの破壊力でした。
いえ、なんでもありません。しかし本当にこれはこれでなかなか・・・。」
止めろアリア。だからバレるって。
「でだ、結局どういう事なんだ?」
教室でのそんな話があり、夜に俺はアリアに【念話】で聞いた。
「魔法対戦トーナメントの件ですわね。
なんでも今回はかなり大規模で行うみたいですわね。」
「大規模?」
「えぇ、他の国の要人なども多く招待するみたいです。」
「トーナメントの観客としてってことか?」
「そうですわね。元々観客として見にこれていてたみたいですけどね。」
「どういう理由で?」
「なんと言いましょうか。仕事の斡旋的な部分もあるようです。
この魔法学園を卒業してからどういった仕事に就くか。その1つの中に他の国の貴族や要人と言った人のお抱えの魔法使いになることもあるのですわ。」
「なるほど、何となくわかった。」
もし魔法使いを自分の部下に雇いたいと言う場合には誰かの紹介や、魔法師ギルドに問い合わせるという事になる。ただ紹介と言ってもその魔法使いが本当に強いかどうかなんてわからないし、魔法師ギルドを通すとお金もかかる。それに魔法師ギルドにいる様な魔法使いはそう言う宮仕えが嫌でそう言う仕事をしてるんだろう。
そうなった場合に有能な魔法使いをその目で確認できて、早めにコンタクトが取れると言う今回の魔法対戦トーナメントは絶好の機会なんだろう。プロ野球とかのスカウトみたいなもんか。
「元々の魔法対戦トーナメントがそう言った意味合いで開催されている様ですわね。」
「学生の就職活動の一環ってことだ。それにしてもなんで俺がそんなのに参加しないといけないんだ?」
「それは、カストの一件があったからだと思われますわ。」
「カストの?」
「えぇ、カストの軍が全滅したのは周知の事実。かなりの力を持っていたにもかかわらずあっさりと全滅したのですから魔族や魔王はかなりの力を持っていると思われています。そしてもしかすればこちらに攻めてくる可能性も出てくる。そうなった場合にどうやって身を守るかという事ですわね。」
「早めに力ある人間を自分の周りに置いておこうってことか。」
「そうですわね。それで今回はかなりの数の観客がいらっしゃるので、学園としても多くの生徒をトーナメントに出したいという事ですわ。」
「ってことは俺達はかませ犬ってことか?」
「さぁ?学園長にそこまでの考えがあるのかはわかりません。しかしかなりの数のグループが今回出場するみたいですわね。ダイゴ様みたいに研究生になりたい人間の試験はほぼトーナメントに集約されるみたいです。魔法具作成もトーナメント仕様に限るみたいですわ。」
「ありゃ、大変だなそれも。ってことは魔法だけじゃなく魔法具を使う参加者も出てくるってことか。」
「その様ですわ。」
「しっかし、意味あるのかね?」
「どういうことでしょう?」
「いや、結局研究生になりたいと思ってる人間が出て活躍しても研究生になるんじゃなくて、見に来た人に仕えることになるんだったら本末転倒じゃないのか?」
「どうでしょう?単純に力を見せたいだけの者もいますでしょうし。それに研究資金を出してもらえるかもしれませんよ。後は仕えてもそのまま研究を続けさせてもらえるとか。そうなった場合は研究生よりも待遇がいい可能性もあります。ダイゴ様の様に図書館が目的で研究生になる人も稀でしょうし。」
「あぁ、そっか。そう言う場合もあるのか。俺の目的は研究生になる、じゃなくて図書館に入るだもんな。研究生になるのは図書館に入る為の手段だからな。」
「とりあえず今回のダイゴ様がトーナメントに出るのにはそう言った思惑があるという事ですわ。
カストの件もありましたし、他の生徒の前ではお話ししにくかったので言いませんでしたけど。」
「なるほどね、了解。しかし研究生になるにはトーナメントでどうしたらいいんだろう。
優勝しないと研究生になれないとか?」
「どうでしょうか。一応トーナメント中にその人の魔法技術なんかを見て評価すると仰ってましたけど。
優勝すれば大丈夫でしょうから、ダイゴ様も優勝すればよろしいんではないでしょうか?」
「簡単に言うね。俺もあんまり高いレベルの魔法は使えないことになってるんだよ。専門クラスの人は俺達よりもレベルの高い魔法使ってくるだろうし。」
「そこはそれ、知恵とチームワークで乗り切ればいいのではないでしょうか?」
「というかそれしかなさそうだよな。」
「まぁまだ時間はありますし、その間にでも対策を練った方がよいでしょうね。」
「そうだな、そうする。じゃあまた何かあったら聞くことにするよ。お休み。」
「わかりましたわ、おやすみなさい。」
俺はそう言ってアリアとの【念話】を終えた。
それにしても、いつの間にこんなお約束の波に乗ってしまったんだろう。
バトルモノ系では絶対に出てくるトーナメントに出るだなんて何の冗談なんだろうか。勇者はこんな事しないといけないのか?
いや他2人はこんなことしてないだろうしな。今でも城でぬくぬくしてるんだろう。そう考えると勇者であることを隠さずにいたら今頃俺も城で楽してたんだろうか。いや、それもないな。あんなところでずっといるなんて考えられない。それに城を出なかったらブランやガイ達とも出会ってなかったはずだからな。
これからもこんなお約束な展開が続いて行くんだろうか。というか本当に優勝なんて目指していいもんなのか。優勝したらしたで面倒なことになりそうだし。でも優勝目指さなくて研究生になれなかったとかになったら目も当てられない。
やっぱりここは優勝目指して頑張るしかないんだろうか。そこまで高レベルの魔法使いはこの学園にはいないはずだし、何とかするしかないか。それなりにバトル経験もあるし新しい魔法を作ってどうにかするか。
はぁ、こういうお約束系じゃなくてもっと何か俺が喜べそうなお約束とか起きて欲しいんだけど。
というか今のクラスでちょっとモテてきたりはするんだけど。
しかし10歳位の女の子にモテてもな。同じ年ぐらいの男子であったら大喜びのシチュエーションなんだろうけど、俺の場合は二重でどうでもいい話だ。
今回のトーナメントの為に山籠もりとか出来たらな。そうしたらアーサーとも何かあるか?いや、あんまり変わらないか。今も同室だし。待てよ、雪山で遭難してたまたま見つけた小屋で温め合うとかどうだろう。ってそうなった場合魔法で何とかするか。それに学園からそうそう出れないし、雪山とかどこにあるんだよ。
そして何よりアーサーは子供だって。うん、やっぱり早く大人に戻りたい。でもどう考えてもまだまだ何か起きそうな気がする。
お読み頂きありがとうございます。




