団結
どうだじゃねぇよ。ベックの放った炎の槍は【デビル・ジョー】には効いている様子が一切ない。
お前のせいで【デビル・ジョー】は俺達に気付いた。身を屈め、走り出そうとしていた。
どうする?
ここで俺が魔法か何かで奴を片付けるのは簡単なんだが、どう考えても俺の正体がバレるだろうな。しかし何もしなければ全滅もあり得る話だ。
それに今一番ヤバいのはベックだろう。一番最初に襲われるのは確実だ。
なんか前にもこんなことあったな。キースの時か。あの時はキースが危ないと思ってとっさに力任せに魔法を使ったけど、正直今回ベックに対してはそこまでの気持ちなんてない。
「馬鹿野郎!あいつには通用してない。とっとと逃げろ。」
魔法使いAが叫ぶ。その声を聞いてベックが振り返る。そして無傷の【デビル・ジョー】を見て尻もちをついた。
その姿を見た【デビル・ジョー】が悠然と走り出した。
一応魔法使いB、Cが詠唱をして魔法と唱えようとしている。間に合うのか?
魔法使いの魔法が通用する様であれば俺が手を出すことはないと思う。だが先程自分達ではかなわない発言をしていたし。それにベックが襲われる前までに魔法の発動が間に合うかだ。
う~ん、こういうのが一番厄介だな。気の知れた仲間とだったら連携を取りやすいんだけど、全く知らない人だから何をしようとしているのか見当がつかない。それに魔法の発動速度もわからないし。
こうしている間にも【デビル・ジョー】はその巨体を揺らしベックに迫っている。
これは間に合わないな。そう思って俺も魔法を使おうと心に決めた。
「【魔法の障壁】」
俺ではない人間の声が響いた。
ベックの前に魔法の壁が出来上がる。ただこの魔法は【魔法の壁】よりも下の魔法だ。1人分ぐらいの魔法の壁を作るぐらいしか出来ない。
だが【デビル・ジョー】も壁みたいなものが出来ると思ってなかったのか、距離感を無くしベックを魔法の壁ごと俺達の方へ吹っ飛ばした。
「今だ。【岩の壁】。」
魔法使いBとCが同じ魔法を唱え【デビル・ジョー】の周りを岩の壁で囲む。
「大丈夫か?」
魔法使いAがベックの元へ行った。ベックは魔法の障壁のおかげでそこまでの怪我は負ってない様だ。
「いったい何が・・・?」
ベックが起き上がってそう言う。
「誰かが魔法の障壁をお前に張ってくれたんだ。それで何とか助かったんだよ。」
魔法使いAがそうベックに告げる。
「誰が?先生?」
ベックがそう言ってディーンの事を見るが、ディーンは真っ青な顔をして黙ってみてるだけだ。
「アーサーだよ。」
俺が代わりに答える。
「アーサーだって?」
驚くベック。まぁ俺もちょっと驚いているけど。アーサーには回復魔法と別に支援魔法を使える様になったらと伝え俺が教えた。誰かを守りたいという意思で使う回復魔法と同じ様に、支援魔法も比較的他の魔法より使える様になるからな。だからある程度の支援魔法は使える様になっている。
でもだ、ベックを助けようとするとは思わなかったし。魔法も事前に詠唱していたってことだ。ベックが飛び出していったときからこうなると予測していたんだろう。なかなか先見の明があるのかもしれない。
「そう、支援魔法で魔法の障壁を作って君を守ったんだよ。」
「そんな、あいつがそんなことする訳ないだろ。」
「何言ってるんだ?アーサーだからそうしたんだ。アーサーが目の前で襲われそうになってるやつを助けない訳ないだろ。」
「だって俺。」
俺が説明する。アーサーは向こうの方でちょっと困った顔している。
「おいっ!そんな話してる場合か。」
魔法使いAが叫ぶ。その向こうでは【デビル・ジョー】が岩の壁に体当たりでもしているであろう音が響いていた。これはあんまり持たないな。そう思って俺は直ぐに【念話】を使う。
「アリア!」
「ダイゴ様?どうされたんですか?こんな時間に。」
「緊急事態だ、すぐに俺のところまで来てくれ。」
「どういうことですか?」
「説明してる時間はない。早く来ないと死人か出るか、俺の正体がバレるかの事態になる。」
「わかりました。すぐに向かいます。」
アリアはそう言って【念話】を終わらせた。これで5~10分でアリアがここに来るだろう。それまで何とかしないといけないか。
「こんなの無理に決まってるだろ。俺は逃げるぞ。」
そんなことを思っていたら魔法使いBがそう言って一目散に逃げだした。それを見た魔法使いCも後に続いた。マジかよ。
魔法使いAも岩の壁と俺達の方を何度か見てから、立ち上がり別の方向に走り出した。
あれか、俺達を囮にして自分達は逃げるって算段か。全く。
「先生、どうしますか?魔法師ギルドの人達は逃げてしまいました。もうすぐ魔獣もあの壁から出てきます。皆に指示を出してください。」
俺は1人残った大人であるディーンに声を掛ける。
「えっ?えっ?」
「ここに残ってる大人は先生だけなんですよ。それに先生が僕たちをこの場所に連れてきたんでしょう。」
焦ってるディーンに俺はそう言う。
「早くしないと皆あいつの餌になりますよ。」
「そんなの知ったことか。ガキ共の世話で命を落とすなんて出来るか!」
ディーンはそう言って森の中へ走り出した。
あいつっ!最低な人間だな。
もういい。誰かを頼るのは止める。
「ベック、死にたくないなら立ってこっちに来い。それとアーサー。」
「何?どうしたのナイト。」
「皆を連れて今来た道を走って戻るんだ。」
「えっ?どういう事?ナイトが皆に指示をだしてよ。」
「いや、駄目だ。俺はここに残ってあいつの足止めをする。」
「何を言ってるの?そんなの無理だよ。あいつに喰われちゃうよ。ナイトも一緒に逃げよう。」
俺はアーサーにそう言った。なんだか死亡フラグ自分から立てにいってるみたいだけど違うんだ。正直皆がいる方が俺にとっての足枷になってるんだ。
俺の事を心配して泣きながらそんなことを言ってくれているアーサーには悪いが早目にこの場から離れて貰いたい。
「大丈夫。清き水よ、我に力を。その力で彼の者より我が身を隠せ。【深淵の霧】。」
俺は魔法を唱える。すると俺の伸ばした手から霧が生まれ、【デビル・ジョー】がいる辺りを覆った。
「この魔法は相手の視覚、嗅覚を奪えるんだ。それに気配も誤魔化すことが出来る。音は聞こえるからそれで別の場所へ誘導していくよ。他の皆がいてそっちで音がするとうまく誘導できないんだ。」
俺はそう言ってアーサーに説明する。この魔法は俺のオリジナルの魔法だ。とりあえず低レベルの魔法で何かオリジナルの魔法を作っておこうと思って作った魔法の1つだ。
「でも、だって。だって。」
「アーサー、大丈夫。僕は無理なんてしないよ。皆が逃げれるぐらいの時間が稼げたら僕も逃げるから。他にも逃げる為の魔法色々と持ってるんだよ。」
「じゃあ、ナイトも一緒に逃げようよ。」
「ごめん。もしあいつが襲ってきたら倒したり、皆を守ったりする魔法までは持ってないんだ。
それにこうしている時間が惜しい、今動けば逃げれる可能性はまだ高い。時間が経てば経つ程危険になる可能性は上がっていってるんだ。
ベックもみんなと一緒に行くんだ。」
俺達の近くに来たベックにそう言った。
「俺のせいで悪い。」
ベックが俺に謝ってきた。なんだちゃんと謝れるんじゃないか。だったらまだ大丈夫だろう。逃げて行った大人よりはましだ。
「俺に謝ってもしょうがないよ。謝るなら皆に謝るか、アーサーにお礼を言うかだろ。」
「そうだな、皆すまなかった。それにアーサー助けてくれてありがとう。」
「そんなの気にしないで。」
「ベックも走るのは大変だろうし誰か手を貸してあげて欲しい。さぁ、皆早く行くんだ。」
「ナイト・・・。」
「もう、アーサーってば俺の事が信じれない?俺はアーサーの事信じてるのに。」
「えっ、そんなことないよ。僕もナイトの事信じてるよ。」
「うん、じゃあ早く行って。大丈夫、僕も後で合流するから。」
「わかったよ。じゃあ後でね。」
そう言ってアーサーとベックは皆の所に行って、他の子達と一緒に今来た道を走って戻り出した。
その時に岩の壁が崩れる音がした。
おっと、丁度いいタイミングだ。
「こっちだ化け物。」
俺はそう叫びながら皆とは違う別の方向へ走り出した。
その声に反応して俺の方を向く【デビル・ジョー】。
ちょっと距離を離すか。そう思い俺は森の中を走り出した。
さて、さっきまでの一連の流れ。普通だったらここで俺は皆を守る為に囮になって死ぬっていうフラグだよな。俺に構わず行けー!って奴だよな。普通だったら感動のシーンなんだろうか。でも俺にとっては全くの茶番に近い。Cランクの魔獣なんて大した敵じゃない。
とりあえず皆が離れてくれるか、こっちが距離を離すかだ。【索敵】を使いながら皆の位置関係とかを見ながら【デビル・ジョー】を誘導していく。
【深淵の霧】の中音だけを頼りに俺の後を追ってきている【デビル・ジョー】。
そろそろいいか。皆との距離も大分離れたし、そう思って俺は足を止める。
盛り上がりも何もないけど一気に決めさせてもらおうか。
「【凍てつく棺】」
俺は魔法を唱え【デビル・ジョー】の周囲にある霧を凝縮して氷の棺に変える。
一瞬にして【デビル・ジョー】は氷の中に閉ざされた。
こんなもんだろう。Cランクの魔獣だもんな。
「ダイゴ様。」
丁度その時アリアが水の馬に跨って俺の下へとやってきた。
「おう、お疲れ様。」
「あら、もう終わっていたのですね。」
目の前の氷漬けの【デビル・ジョー】を見てアリアはそう言った。
「一応ね。Cランクの魔獣だったみたい。まさかこんなところで出くわすとは思ってもみなかったよ。」
「と言いますか、こうなったのであれば私来なくてもよろしかったのではないでしょうか?」
「いやいや、そういう訳に行かないし。これは駆け付けたアリアが倒したってことにして貰わないと。」
「なるほど、そういう訳ですわね。それにしても引率の先生方はどちらにいらっしゃるんでしょう?」
「魔法師ギルドの連中もディーンの奴も逃げて行ったよ。」
「それは、また。」
「まぁその処分とかは学園に任せるとして、取りあえずの口裏を合わせておこうか。」
そう言って俺とアリアは今回の顛末を話し合った。
それからは俺達はアーサー達と合流した。【索敵】使えばすぐに居場所なんてわかるし。
俺の姿を見たアーサーがまた泣いていた。まったく心配性なんだから。
その場に皆には今回の話の顛末を伝えておいた。
アリアが助けに来てくれて【デビル・ジョー】を倒してくれたって。
それを聞いたクラスの皆が、おぉーって盛り上がっていた。大人4人が逃げた魔獣相手に、見た目年齢同じぐらいのアリアがたった1人で相手して倒したというんだ、驚くのは当然だろう。
それから皆で学園まで戻った。
学園についてからアリアは今回の件を学園長に報告した。学園長は報告に対して、そうでしたかとだけ言ったらしい。どういうことだ?まさか学園長が今回の件を仕込んだとか言うお約束じゃないだろうな。俺を始末する為の魔王からの差し金とか。いや、それにしたら敵が弱すぎるだろ。それに【鑑定眼】で学園長のステータスは確認してるけど普通の人の様だしな。
その後結局ディーンは辞職したらしい。あんなことがあったんだ、当然だな。
魔法師ギルドに対しても注意がいったみたいだ。ただそちらに対しては特に大事にはなってないみたいだ。考えてみたら魔法師ギルドもゴブリンの巣の壊滅の依頼であって俺達生徒を守ったり、【デビル・ジョー】と戦えと言う依頼でもなかったはずだしな。受けてもない依頼で責任を取れと言われても困るってところか。
ちなみに今回の主役となったアリアは学園内で表彰されるらしい。良かったね。
やってた授業をいきなり自習にして学園を飛び出したらしい。一応【天啓】のスキルで俺達がピンチであることに気付いたってことにしてある。
それから俺達のクラスでも色々とあった。
ディーンという担当教師がいなくなったんだ。じゃあ次の担当教師は?ってことに当然なる。
そこでクラスからの希望はアリアに担当になって欲しいという事になった。
皆アリアに助けられたと思ってるし、尊敬の念みたいな感情があるんだろう。ただアリアも最近この学園に来たばかりだし、別のクラスも持ってるという事で副担当みたいなことになった。そしてなぜか担任はいなくて、俺が教えることになった。
はぁっ?ってことだよ。生徒が生徒に教えるってどういうことだよって話だ。
しかしクラスの皆も異論はないという事だった。今までもディーンではなく殆ど俺に教わっていたという事を話してしまったのだ。それを学園長が聞いて、更にアリアもそれでいいのではないかと後押ししたらしい。俺は拒否はしたが、そうそう教師になれるような人材の確保は難しい。担当教師がいなければこのままクラス自体が解散になって家に戻れという事になるかも知れないと言われた。
それはそれで困る。俺にも目的がある訳だし、という事で仕方なく生徒が教えるという今までにないタイプのクラスが出来上がったんだ。初級クラスも1年間で、その後は専門的なクラスに別れるからそれまでの間だ。俺が教えれない所はアリアがってことになってる。しかしどこまで教えればいいんだろうか。俺が本気出せばそんじょそこらの魔法使いよりもレベルなんかも上げれるんだけどな。やってみるしかないか。
後ベックが人が変わったように素直になった。
というか今までが虚勢を張ってただけの様だ。貴族社会って言うのも大変だったようだ。権力争いなんかもあって親から弱みを見せない様にと育てられてきたんだと。
しかし虐めていたアーサーに助けて貰って目が覚めたみたいだ。子供は素直が一番だと思う。アーサーの人柄もあったと思うしな。
それでクラスはより仲良くなったという感じだ。
1つの危機を皆で乗り越えたということで団結力が生まれたんだろう。
ああいうことがあって逆に良かったのかもしれない。ディーンもいなくなったし、クラスの結束も固まった。このまま何事もなく進んでくれたらいいだけどな。
気になる点はある。
そもそも【デビル・ジョー】がなぜ出現したのか?
流石にこの近辺に【デビル・ジョー】がいたとすれば噂などになって今回のゴブリンの巣を潰すなどの話はなくなる。いつ【デビル・ジョー】と出くわすかわからない。それに【デビル・ジョー】はこの辺に生息するような魔獣ではないという事だ。もう少し南の方にいる魔獣らしい。
そうなると【デビル・ジョー】はいきなり出現したってことになる。俺がこの世界に来てからは色んな所で魔獣が出没しているという事だったが、それと何か関係があるだろうか。
いつも通り、考えても答えは出ない、か。
お読み頂きありがとうございます。




