レスティア教会
「じゃあちょっと行ってくるね。」
そう俺はブランやガイ達に言った。
結局俺とアリアは一度アリアがいたレスティア教会まで行くことにしたんだ。そしてブラン達に出かける前の挨拶をしていたところだった。
「多分すぐに帰ってくると思う。」
「あぁ、分かった。」
俺の言葉にガイが答える。
俺は自分の影に【転移の門】を繋ぐ。もうすでに分身体を今から行く街に先に送っていた。このザールの町から普通の馬で3~4日かかるらしい。アリアは魔法で作った水の馬でぶっ飛ばして往復したらしい。俺もその方法でもよかったけど正直【転移の門】で移動する方が早い。分身体も2割ぐらいのステータスを持たせて、いきたい所へ先に行かせれば済む話だ。
俺とアリアは影に入って移動した。
俺達が【転移の門】から出ると、行先の街のすぐ近く、街を囲む壁の外だった。いきなり街の中に入ってもいいんだけど、街へ入る門を通っていないって言うのも問題かと思ってこの場所にした。何かあった時どうやって街まで来たんだってことになりそうだしな。
ここから門の入口まで歩いて行くとするか。
アリアと2人して門の入口まで歩くことにする。そう言えば。
「アリアってどういう経緯でレスティア教の神官になったんだ?」
俺は歩きがてら暇つぶしに聞いてみることにした。
「かなり今更の様な気がいたしますけど。」
「いや~、特に気にならなかったし。」
「ダイゴ様はそう言うお方なんでしょうけど、何となく納得は行きませんわね。
これがタイプの殿方だったら真っ先に聞かれていたことでしょうね。」
「そんなの当然だろ。」
「はぁ、もういいですわ。
まぁ簡単なお話です。そうなるべくしてなったという事ですわ。」
「ほぅ、どういう事?」
「私が持って生まれたスキルは【神託】と【天啓】というスキルだったと言えばお分かりになるんじゃありませんか?」
「あぁ、それだったら簡単に想像つくな。」
「えぇ、どう考えても神官になる為のスキルを持って生まれたのですもの。神官になるのは当然という事ですわ。」
「ふ~ん、もう生まれた時から将来のことまで決まってたってことか。」
「えぇ、こうした者は結構いるみたいですけどね。
両親がレスティア教だった為私も子供の頃には教会に引き取られていましたわ。」
「えっ?そうなの。」
「えぇ、物心ついたぐらいでしょうか。だからといっても両親と会わせてくれなかったとかはありませんでしたのでご心配には及びません。早い内から神官としての勉強を始めていたという事ですわ。」
「そうだったんだ。」
「それから少し大きくなってスラグスルの魔法学園に入ったんですわ。神官たるもの回復魔法が使えなければいけませんのでね。」
「そうなんだ。なんか俺召喚された国で教えて貰ったのは、魔法って師匠と弟子みたいな感じで教わるみたいに聞いたんだけどな。」
「あぁ、一般的にはそう言う事が多いようですわね。
スラグスルの魔法学園に入れるのは、魔法の才が認められたものか、もしくは権力か財力があるような人物だけですから。」
「そうなんだ?」
「はい、私の場合は特にどれも持ち合わせてはいませんでしたが、教会からの紹介という事で入ることが出来ました。レスティア教はこの世界で一番信仰されていますから、信用されているという事でしょうか。繋がりは深い所にあるみたいですけどね。」
「深い所?」
「そうですわ。私も詳しいところまでは存じてませんけど、やっぱり色々とあるようです。
スラグスルも国として維持していくにはそれなりに必要なものが出てくる様です。そしてレスティア教はこの世界で一番信者を抱えている。手を取りあうのは理由があるという事でしょうね。」
「あぁ、まぁ大人の世界の話だね。」
「ダイゴ様もいい大人なのではありませんか?」
「なんだかそんな感じがしないんだよね。元の世界では俺まだ学校行ってたし。」
「そうなのですか?」
「うん、大学っていう学校があったんだよ。そこに通ってた。一応は目指していたものはあったんだけどな~。」
「目指していたもの、ですか?」
「うん、もう今更そんなこと考えても仕方ないからいいや。」
そんな話をしている間に街の門が近づいてきた。かなり大きいな。エデバラより大きいか。
俺達は冒険者入り口から中に入った。中に入って街の中を見てもその大きさが分かる。俺達が訪れた街はエルバドスの中でも首都リグファーレに次いで2番目に大きな街キレリと言った。
「とりあえずその教会ってのに向かうか、案内してもらっていい?」
「えぇ、こちらです。」
俺の言葉にアリアは答え、歩き出す。
「考えてみたらアリアもエルバドスの出身ってこと?この街の生まれ?」
「いえ、私が生まれた町はもっと北の方にある、小さな村と言った方がいい所ですわよ。」
「そうなのか。家に戻ったりはしていないの?」
「そうですわね。」
あんまり興味がないから聞いたことがなかったアリアの身の上話。
しかしなんかあまり話したくないっていう空気を感じる。これ以上は突っ込まない方がいいか。ガイにしろブランにしろ、そしてシータにしろ皆色々あった人生みたいだし。アリアにも色々あったんだろう。
俺はそれから何も言わずに街の雰囲気を見ながらアリアの後をついて行った。
流石大きな街だけあって人も多いし、店も多い。もしかしてタイタン商会とか行商に来てないんだろうか。でも探してる暇もないか。会ったところで知ってる人がいるとは限らないしな。
アリアは街の中心に向かって進んでいる様だ。
歩いているとかなり大きな建物が見えてきた。窓はステンドグラスの様になっていて、白い壁の大きな建物だ。もしかしてこれが?
「到着しました。ここが私がいたレスティア教会のエルバドス本部です。」
「この国の中でここが本部なの?」
「左様です。首都には商業ギルドの本部がありますし、1つの宗派の本部を置く訳にはいかなかった様です。まぁリグファーレにもこれ以上の大きさの支部がありますが、あくまで支部という事になっているそうです。」
「なるほどね。」
「それからダイゴ様。」
「何?」
「これから会う司教にはご注意してくださいね。」
「注意?どういう事?」
なんだろう?実は本性は魔族で、見破ったら襲ってきてバトルになるとかか?
「簡単に言うといけ好かない人物です。」
「それって単純にアリアが嫌ってるだけじゃないの?」
「会えばわかると思います。では参りましょう。」
そう言ってアリアはさっさと教会へと進んでいった。
どういうこっちゃ?会ってみたらわかるか。そう思って俺も後を追った。
教会の中に入るとかなり豪華な作りだった。置いてある調度品、イスなんかの備え付けの物もかなりいい物っぽかった。
教会には沢山の人がいた。礼拝に来ている人もいるんだろう。イスに座り胸の前で手を組み祈っている様だ。
こういうとこで祈るのって何祈るんだろう?早くスキルのレベルが上がります様に、とか良いスキルを持った子が生まれます様にとかなんだろうか。そういう子どもって【神子】って言うんだったっけ。あれ?そう言えばアリアって【神託】と【天啓】持って生まれたんだったら十分【神子】って言われるんじゃないのか。どちらのスキルもそんなに持っている人間なんていない。あぁ、でもそう言うのあんまり触れない方がいいのかもしれないな。
そう言うアリアは俺の事を置いておいて、勝手に進み近くにいた神官らしき人物に声を掛けていた。何かを伝えると俺の方へ戻ってきた。
「ダイゴ様行きましょう。司教にはある部屋で待っている、と伝える様に言ってまいりました。さぁ、こちらへ。」
そう言ってアリアはまた俺の前を進みだした。
なんかアリアさん怖いっす。ここに近付いてきたぐらいからピリピリしてる感じなんだけど。あんなところ初めて見るな。
俺は大人しくアリアの後をついて行く。流石に元々いた場所だった為かアリアは迷うことなく進んでいき、ある一つの部屋へ入って行った。俺も中に入る。
そこは結構広い部屋で、真ん中に十数人位が席につける大きなテーブルとイスのセットが置いてあった。応接室っていうよりは会議室みたいな感じなのかな。しかし周りに置いてある調度品は割と高そうで綺麗なものが置いてある。
「座って待ちましょう。」
アリアはそう言ってイスを引いてさっさと座った。しょうがないので俺もその隣のイスに座って待つことにした。
しばらく待つとドアがノックされる。その後扉が開き男性が3人入ってきた。それを見てアリアが立ち上がったので俺も習って立ち上がる。
1人の男性が一番前を歩いて俺達の方へ近づいてきた。
「ごろ苦労頂きありがとうございます。私がこの教会の司教、ダストンと申します。以後お見知りおきを。」
そう言ってダストンさんは右手を差し出す。
「初めまして。勇者の1人、名前はダイゴと言います。」
俺も挨拶しながらダストンさんと握手をする。
「お座りになって下さい。私達も席につかせていただきます。」
握手を交わしたダストンさんが俺達にそう言って、自分とお付きの人っぽいのと一緒に席に着いた。
なんだかな~。
ダストンさんの見た目は50代位で、少し白髪の交じったグレーの髪を撫でつけた感じのヘヤースタイルをしている。少し肌は浅黒く、人の良さそうな笑顔を顔に貼り付けているんだけどギラギラした空気を感じるんだよな。性欲が強そうとかそんな感じ。
「いや~、私も年甲斐もなく興奮しております。こうして勇者様とお会いできるような日が来るとは思っておりませんでした。」
ダストンさんは大分オーバーな感じでそう言った。
「そうですか。こちらとしてもそう仰って頂けると嬉しいです。」
俺は当たり障りのない返しをした。
「勇者様はレスティア様とお会いしたことがあるのですよね?」
「えぇ、そうですね。2回でしょうか。」
「なんと素晴らしい。どのような方でいらっしゃいましたか?」
「それは、表現が難しいですね。相手は神なのでなかなか言い表すことができません。」
「なるほど、そうでしょう。そうでしょう。」
なんだこれ?こんな会話意味があるのか?
「それで今回こちらに私が伺うことになったお話をさせて頂きたいのですが。」
俺はそう言って自分から話を切り出した。
「あぁ、そうでしたね。申し訳ありません。
聞くところによるとスラグスルの国立図書館へ行く為に魔法学園に入学されたいという事ですね?」
「そうですね、その方法が一番確実に図書館へ行ける方法だと聞きました。」
「左様でございますね。確実性と言えばそれが一番かもしれません。そして私共がそのお手伝いの為勇者様を学園に推薦するようにご希望されているとか。」
「えぇ、私は勇者であることをなるべく隠していきたいんです。色々と考えがあり行動しているので、どこかの国などに取り込まれたくないんです。
今回の事もなるべく人の知ることがないようにして頂きたいんです。」
「それは、それは。私共は勇者様のご意向に沿いたいと思っております。今回の事も私含め数名の者の耳に止めるようにいたします。」
「ありがとうございます。それで推薦していただくことは可能なんでしょうか。」
「えぇ、それは勿論です。ただ。」
「ただ?」
「うほんっ、そのその推薦というのもなかなかに大変なものなんです。特に今回の様に勇者様の身元を隠してなどであればそれ相応の手配などをせねばいけません。」
「そうですか、それは私の為にお手間を取らせます。」
「そこでなのですが、私共といたしましても勇者様のお力の恩恵を授かりたいと思っております。」
「恩恵ですか?」
「はい、そこに居るアリアはなんでも勇者様の恩恵を授かり、1年も経たぬうちに回復魔法のレベルが10になったとか。」
あぁ~、なるほど。そう言う事ね。
学園には何とか手を回して入学させてやるから、自分達にも利益になる様なものを寄こせってことだ。
チラリとアリアの方を見ると全くの無表情で前を向いている。
なんか怖ぇ~。
「それは勿論レベルを上げる方法であればお教えいたしますよ。私がいなくても何とかなるでしょうし。」
「そうなのですか?」
うん?アリアは詳しいことを言ってないのか?師弟契約とかの話。でも勇者といた証拠にスキルレベルが急に上がったとかなんとか伝えただけか。って【念話】で聞いたらいいんだけど、なんか怖くて話しかけられないんだけど。仕方ないので勝手に進めさせてもらおうか。
「えぇ、【刻印術】を使って新しい契約を結ぶだけです。師弟契約って契約です。そのやり方をお教えしましょう。それを使えば短期間にスキルのレベルを上げることも出来ます。ただ1つ、スキルのレベルが高い人が必要になりますけどね。」
エデバラの町からもう冒険者ギルドには広まっていってるんだし教えてもいいだろう。
「それは是非ともお願いいたします。こちらからも推薦するにあたって問題が1つございます。」
「問題ですか?なんでしょう?」
「その、魔法学園に入学するのは大体が10歳前後の子供なのです。大人が学園に入学すると言うのは教師として入るしかありません。ただ教師になるには厳しい審査がありますし、一度入ると学生と違っておいそれと辞めることは出来ないでしょう。それに学生に比べて自由になる時間もかなり減ってしまうでしょうし。国立図書館へ何かの目的があって行かれるのであれば学生の方が動きやすいかと思われます。」
「なるほど。そうですね、まぁその点は私の持ってるスキルで何とかなるでしょう。」
「そうなのですか!?」
「えぇ、ちょっとここでは見せることが出来ませんし、準備が必要なのでまたそれは別の機会にお見せします。」
「それが問題とならないのであれば直ぐにでも手続きの準備に入ります。流石に今日明日という事で入学出来る訳ではありません。推薦であれば途中からでも入学は出来るので出来るだけ早く入学できるようにはいたします。」
「ありがとうございます。」
「それと、そこのアリアも教師として学園に向かわせますのでご自由にお使いください。」
「はっ?どういうことですか?」
「いえ、何。お1人で学園の中を動かれるのも大変でしょう。アリアはその学園で学んだことがございますし、中についても多少知識もありましょう。それに教師として学園の内部にいましたら、勇者様に何かあっても対処しやすいかと思います。何か不都合があってもアリアの責任にして頂いても構いません。
アリアはこの教会の人間ですし、元学園生、教職に就くことは出来るでしょう。」
いやいや、あんたさっき教師になったらそうそう辞められないって言ってなかったか?アリアが教師になったら暫くか、もしくはずっと教師として働くしかないんじゃないのか?
「その通りですわ、勇者様。」
今まで無言だったアリアが口を開いた。
「私勇者様の側近として近くに置いて頂き様々なスキルを憶え、なおかつ最大のレベルまで達しました。
このような力を持った私は教会での立ち位置が難しいのです。
ここまでの力を持つとなるとそれこそ司教などの立場が妥当となるのですわ。
しかし魔法学園ともなればこの力を有効に使えるとダストン様は仰っておられるのです。」
アリアはそうすました声で言った。
なるほど、そういう事か。
ダストンはこのままアリアがこの教会にいたら、自分と取って代わって司教になるんじゃないかと思って戦々恐々としてる。だからアリアをスラグスルの魔法学園に追いやりたい、そういう訳ね。
なんだろう、アリアが言ったことがちょっと分かる。なんだかいけ好かない奴だな。
「はっはっはっ、なにを言っておるのだ?アリアも勇者様の役に立ちたいのだろう?
まさか今更勇者様と離れ教会でただただ祈りを捧げようとは思わんだろう。
近くにおればいつでもその希望が叶うではないか。私はお前の為を思って言っておるのだよ。」
「えぇ、それは重々承知しておりますわ。勇者様、ではこのお話はそう言う事でよろしいですわね?
私と勇者様でスラグスルの魔法学園に行くという事で?」
「え~っ、っとはい。わかりました。よろしくお願いします。」
俺はこの場の空気に怯えながらそう答えた。
お読み頂きありがとうございます。




