魔裁師
結局俺達はガールズトーク(?)に花を咲かせながらランチを食べ終わった。
ホントにこの話だけをしに来たんだな。
「とりあえず店に戻ってちゃんと服の話をしましょうか。」
ご飯屋を出てベティーさんがそう言った。それが一番の目的だしな。
俺達はベティーさんの店まで戻って作業場に行った。
「さてと、まず何から始めようかしら?」
「それなんですけど、ベティーさん俺の弟子になる気はありませんか?」
「それってどういう事?」
俺はベティーさんに師弟契約の話をした。これから魔石を組み込んだ服を作る上で、魔石自体の取り扱い方や魔法陣の組み込み方、そもそもの知識なんかも教えていかないといけない。だったら師弟契約を結んで教えていった方がスキルとしても身に付くし、憶えていくのも早くなるだろう。
そんなことをベティーさんに伝えた。
「やだ、そんな方法があるのね。是非にお願いするわ。」
ベティーさんは俺の説明にかなり乗り気になった。
じゃあと俺は【刻印術】を使って師弟契約をする。
今回俺は【魔裁師】というスキルの師匠になる。
【魔裁師】というスキルは今までにはなかった俺が作ったオリジナルのスキルだ。
【八百万のスキル】でスキルを作れるようになった時にどんなスキルを作ろうか考えた。【玩具箱】以外にも簡単に思いつくものがあった。それは職業スキルを作るってことだ。
まぁ職業というけど厳密に言うと違うかな。イメージ的にはゲームなんかにある職業選択に近いか。
例えば【盗賊】というスキルを作るとしよう。合成するスキルは【|解錠術《
キーマスター》】や【隠匿】とか【遠視】、【気配遮断】なんかのゲームに出てくる盗賊という職業をしているキャラが持っていそうなスキルだ。それを複合して1つのスキルにした。このスキル1つ持ってるだけで盗賊っぽい動きや技術を持ってるってことになる。
後は【聖騎士】とかで【断罪】と【絶対防御】、【回復魔法】後色々と詰め込んだのも作ってみた。そのスキル1つセットするだけで詰め込んだスキルが全部いっぺんに使えるようになるんだ。
こういった感じのその職業にあったスキルを詰め込んだものを幾つか作ってみた。正直洒落にならない感じのスキルになったんじゃないかと思う。そのスキルを持つだけでかなりの強さなんかも持ったり、出来ることがかなり増える。今までスキルは1つのスキルを突き詰め頑張って上げていってもさほど高レベルには達しない。それに1つの事を突き詰めていっているので他のことまでは手が回らない事が殆どだ。しかしこうした複合の能力を持つスキルは一度覚えると、含まれているスキル全てのレベルが一緒に上がっていくんだ。ただレベルがなかったスキルについてはレベルが出来たりする場合はあるけどね。
具体的な例としては【大魔導士】というスキルを上げてみよう。
これには全ての属性魔法と回復、支援魔法を入れて。【魔力操作】や【無詠唱】なんかの魔法に関してのスキルを加えている。
もしこのスキルを憶えると【大魔導士 LV.1】という事になる。全ての属性の簡単な魔法を唱えることが出来て、無詠唱は無理だが、詠唱の短縮が出来る様になったりする。レベルのないスキルは性能が落ちる感じだな。ただそれでも普通の人間が全ての属性の魔法を使えるようになるなんてどれだけの時間をかけないといけないのか。それがこのスキルを憶えるだけで使えるようになるんだ。憶えれば後はレベルが上がっていくだけだ。使える魔法の種類が増えたり、その内無詠唱で使えるようになるだろう。
俺自身が使う事う場合でも9つしかないスロットをどのスキルを付けないといけないなんて考えなくてもよくなる。
そしてスキルによっては師弟契約なんかで誰かに教えることが出来るって点だ。
今までよりもさらに効率的に人を育てることが出来るってことだ。しかもより専門的に。
ただ問題もある、これまたそのスキルについて教えられるかどうかってことだ。
今回の【魔裁師】は【裁縫技術】や【魔法陣付与】なんかのスキルを組み合わせたものだ。その組み合わせた技術は俺は理解しているので人に教えることが出来る。しかし【聖騎士】のスキルの中の【断罪】や【絶対防御】は俺は理解していないので教えることが出来ない。だから多分師弟契約で【聖騎士】のスキルを人に教えるってことは出来ないだろう。
だから作った職業スキルは全て他の人に教えれるとは限らないってことだ。それに今回初めて教えるから実際にこのスキルを使えるようになるかどうかもわからないんだ。また実験という事でやらせてもらおうと思ってる。しかし場合によっては奴隷契約なんかの場合は自然に契約した人が憶えるって可能性もある。それも試してみないと分からないけど。
結局こういう事も一から研究していかないといけない訳だ。本当に時間がいくらあっても足りない気がする。
俺とベティーさんはとりあえず【魔裁師】のスキルの師弟関係となった。
それから作る服のデザインや機能についての話、実際にどうやって作っていくかの話をしていった。
それから数日をかけて服のデザインと、どういった機能を持つかを煮詰めていった。そして実際に試作品を作り始めた。魔石はいくらでも作れるので色んな試作品も作っていった。魔石をボタン型にしてみたり、飾りの一部にして見たり。機能も色々と試してみたりもした。
作り出して数日後ベティーさんは【魔裁師】のスキルを憶えた。この世界初のスキルを憶えたってことだ。俺を除いてだけど。元々ベティーさんも【裁縫技術】なんかのスキルは持っていたからだろうか、意外に早く習得しさらにレベルもすぐに上がっていった。
だから俺はそれからはベティーさんに全て任せた。もうどういう服を作りたいかは伝えているし、それを作る技術も手にしただろう。俺は俺でまだまだやりたいこともあるしな。
まだまだ【八百万のスキル】の新しい力について研究していかないと。
それに前に思いついたのも未解決のままのものもあるし。それは迷宮内で分身体の影に【影移動】で移動した時にMPをあまり消費しなかったことだ。
あの時普通に出来たけど、よくよく考えたらおかしかったんだよな。
【影移動】は影から影へ移動する魔法だ。影を異空間につなげて、そこを移動する。影と影の距離が遠くなると消費するMPが多くなる。それと見えてる影にしか移動できないってことだが俺は【千里眼】のスキルがあるから遠くの影にでも移動できる。
迷宮内で俺は分身体の影には殆どMPを消費せずに移動できるんじゃないかと思った。分身が同一の存在だから同じ影から出てくるだけじゃないのか、そんなことを思ったんだ。
そして遠く離れた分身体の影に移動した時に考えて通り、殆どMPの消費はしなかった。
しかしよくよく考えるとおかしい。元々距離に応じて消費MPが増えるんだ。分身体の影であっても距離が離れている影には変わりない。しかしなぜか上手くいった。
それはなぜか?【影移動】自体も【倉庫持ち】というスキルがあるから使える魔法だと作った。この世界には別の次元か空間があり、その空間を使用するような能力があるってことだ。だから次元や空間を繋ぐことが出来るんじゃないかと思ったのが最初だった。そして分身体も【倉庫持ち】を使うと同じ空間からアイテムを引き出すことが出来る点に目を付けた。だからその同じ空間を使ったらMPを消費しないんじゃないかってな。
遠く離れた影に空間を繋ぐ扉を作る為の力より、自分の持ってる別空間への扉を作るだけの方がMPを消費しないんじゃないかってこだ。分身体にも闇魔法を持たせて【影移動】は使えたんだ。分身体の影には俺の持ってるか、もしくは知ってる空間へ通じる為の要素が備わっていたってことなんじゃないかという事だ。
仮に遠くの影に異次元の扉を付けるとしよう。その時には影に魔素を送り込んで扉を付けるってことだ。別空間へ繋げる為の扉を作る為のMPを消費する。近くの影であれば魔素の操作はしやすいから消費するMPは少なくなる。遠くなればその距離分の魔素の操作が出来るようにMPを消費しないといけない。その為に距離によって消費するMPが莫大になっていくと思っている。
ただ分身体の影であればそもそもの扉はもうすでにあるって感じだろうか。後は開くためのMPを消費したらいい、そんな感じの様な気がする。その分身体の影に要素を持たせているのは闇魔法だけじゃないはずだ。ただ【影移動】が使えるだけで同じ空間につなげることが出来るって訳でもないだろう。恐らくは【倉庫持ち】を使ってるんだ。迷宮内でリザードマンキングを倒した時に分身体には【倉庫持ち】も持たせてあった。【決闘場】を使ってMPを他に使えない状態だったから仲間が傷ついても魔法は使えない、ただ回復薬なんかは一応持ってたので何かあった場合取り出せるようにしてたんだ。
しかしそれって魔法とスキルを組み合わせることが出来るんじゃないかってことだよな。
この世界では魔法とスキルを組み合わせたものはない。魔法は基本的に属性魔法や支援魔法、そして回復魔法だ。魔法のスキルを持ってるから魔法が使えるという感じだ。他に、スキルはスキルだけで使うものだ。しかし魔法とスキルを組み合わせることが出来るのであればまた違ったことが出来るようになるはずだ。
そこでやっぱり実験あるのみだ。
一番最初に思いついたのを組み合わせてみる。【支援魔法】と【絶対防御】を合わせてスキルとして作る。支援魔法で作る壁に【絶対防御】を加える感じにしたい。【絶対防御】は基本的に盾を構えて使った本人を物理と魔法攻撃から完全に守るというスキルだ。しかしスキル使用中は動けない。だが支援魔法で作った壁に【絶対防御】の能力が使えたなら物理、魔法攻撃を受け付けない壁を作れるという事だ。しかも使った本人は動ける。
作ったスキルは【絶対防御壁】と名付けた。
そしてそのスキルを使う。試しに自分の目の前5mぐらい先に、高さ幅1mの壁を作ってみた。白く光る壁が出来上がる。試しに魔法を打ちこんでみたが全く効果がなかった。剣で斬り付けてみたりしたがそれも全て弾いていた。ホントに出来たよ。これまたヤバいことになってきた。どう考えてもこっちの方が使い勝手がいい。本人以外の仲間も守れるようになるし、動けるし。ただMPの消費量はかなり多い。支援魔法と【絶対防御】を使ってるから仕方ないかもしれないが。
ここでのポイントとして支援魔法の壁に【絶対防御】の能力を持たせているっていうよりは、【絶対防御】のスキルに支援魔法の壁も含むようにしたってことだろうか。スキルに魔法を付け加える形だな。スキルを魔法にするのは出来ないみたいだ。そうなったらスキルじゃなくて魔法を憶えたら使えるようになるからだろうか、それはそうかもしれない。魔法が使えるようになる方がスキルを憶えるよりも大分簡単だ。
しかしこうなると【断罪】に風魔法を組み込むと、風の刃に【断罪】の効果を付けたスキルを作れるのか。遠距離でもどんなものでも斬れるようになる。マジにヤバいな。【八百万のスキル】の新しい力ってこういう風に使うんだろうか。
というかこれはこの世で俺にしか出来ない事じゃないのか?魔法は【魔法作成】で作ることは出来る。しかしスキルを作るなんて俺の持ってる【八百万のスキル】にしか出来ない事だ。
今はまだやり始めたばかりだけどこのまま色々と研究していくとアッと驚くスキルを作れるのかもしれない。しかし考えてみるとスキルってどういう基準で出来てるんだろうか?後から増えていったりもしてるのか?謎が多いんだよな。それも俺が自分で一から研究していくしかないんだろうか。
それからさっきから考えてあった【影移動】の件だが。闇魔法を元に考えるんじゃなくて【倉庫持ち】を元に考えたらいいのか。【倉庫持ち】の空間の出入り口を闇魔法で作った影として・・・。その出入り口の場所を指定できればいいのか、そうすると【目印】のスキルを加える。その目印を何かに刻み付ければいいのか、ってことは【魔法陣付与】も加えたらいい。転送用の魔法陣はこういう事だったんだろうか。
そんな事を試行錯誤しながらスキルを色々足していく。
うん、これだったらなんか出来上がりそうだ。
そう言えば他にもやりたいこともあるし、その時に試してみようか。
お読み頂きありがとうございます。




