採寸
「じゃあお願いします。」
俺はそう言って上下一枚だけになってベティーさんの前に立った。
ベティーさんは手慣れた様子で俺の肩幅や首回り、腕の長さを測り出した。俺は言われるがまま手を上げたりしている。
「まぁ、なかなかに鍛えているわね。ちょっとそそるわね。」
「そうですか、ありがとうございます。」
俺はベティーさんの言葉をサラッと流す。
「あら、淡白な返しですこと。他の人は結構引きつった顔して返事するんだけどね。」
「いや~、一応褒めて貰ってると思うのでお礼ぐらいは言っておこうかと。それがたとえ社交辞令としても。」
「やだ、社交辞令じゃないわよ。ホントに思ったのよ。でもこんな事言うとお客さん引いちゃうのよねぇ。だから私のとこオーダーメイドで頼む人少ないの。」
そりゃそうかも知れない。一応この店も陳列してる服を見るに冒険者相手にしている店っぽい。冒険者とか男の方が多いし、そういう発言を流したり、受け止めれる人なんて少ないだろう。
「そう思うんだったらそう言う事言わない方がいいんじゃないでしょうか?」
「えぇ~、もしかしてがあるかも知れないじゃない。ほら、「俺も君にそそられているよ」とか。キャーッ。」
「なるほど、一応種を蒔いているってことですね。」
そんな話をしているうちに俺の体の採寸は終わった。
「次どうする?ガイ測る?」
「そう・・・、だな。」
俺がガイに声を掛ける。なんだか気乗りしないみたいだけど大丈夫かよ。
ガイはおずおずと鎧とかを外してベティーさんの所へ行った。
「ガイさんっておっしゃるのね、よろしくお願いしますわね。」
「あぁ、よろしくお願いする。」
ベティーさんの満面の笑みの挨拶にたどたどしく答えるガイ。
「じゃあ失礼しま~す。」
そう言ってベティーさんはガイの採寸を始めた。
「なるほど、なるほど。」
そう言いながらベティーさんはガイの体を測っていく。
「剣士なのね。で右利きで、戦い方としては盾とか使わずにかわして攻撃をするタイプね。」
「なに?どうしてそれが?」
「そんなの筋肉の付き方とか見たらわかるわよ。ってことは鎧もあまり必要としない感じかしら?服で防御力を高められる方が良さそうね。う~ん、軽くて丈夫な金属の糸を編み込んだりする方がいいのかしら。」
「あぁ、そうだな。」
ガイが驚いて答えている。ふむ、見る目はあるみたいだ。っというか俺はベティーさんのスキルとかは【鑑定眼】で見て分かってる。ベティーさんは【観察眼】のスキルを持ってる、しかもなかなかの高レベルだ。後のスキルを見ると多分昔は冒険者でもやってたんじゃないかと思う。
自身も冒険者をやっていたから、冒険者がどんな服を欲しがるのが分かるんだろう。しかもその人の戦い方に合った服とかを作ったり勧めてくれるとなると、普通に売ってる服を買うよりもより自分にあった服を選ぶことが出来るだろう。
「筋肉の付き方で分かるって凄いですね。」
「人間好きなものに対しては情熱をもって勉強することが出来るのよ。」
俺の言葉にベティーさんはそう答えた。そりゃそうかも知れないけどそこまでの高みに達しようとしたらどれだけの事をしてきたんだろう。
「はい、終わり。」
そんな話をしている間にベティーさんはガイの採寸を終わらせた。
「じゃあ最後はそちらのドワーフさんかしら。」
「ブランじゃ。」
今度はブランが鎧を脱いでベティーさんの所へ行った。
「じゃあ、始めるわね。」
そう言ってブランの採寸も開始する。
「う~ん、ドワーフって感じの体付きね。重戦士タイプよね。盾と鎧で身を守るタイプだと思うから服は分厚くない方がいいかも、蒸れちゃうかもしれないわね。服はシンプルなもので鎧とかをしっかりした物を着込んだ方がいいかもしれないわね。」
「そうじゃな。動きやすい方がいいのう。」
ベティーさんはそんなことを言いながらブランの採寸もしていった。
「そう言えば、今言ったようなことをアリア達にも伝えたんですか?」
「え?えぇ、伝えたわよ。アリアちゃんとシータちゃんだったかしら?
アリアちゃんはそろそろお肌の手入れをしないといけないんじゃない、ってアドバイスはしてみたけどね。そろそろやっていかないといけないお年頃でしょ。」
あぁ、アリアはそんな事言われたのか。だからあんな顔してたんだな。しかしアリアの年齢を見抜くってなかなかだな。
「シータちゃんは・・・、言ってもいいかわからないけど人族じゃないわよね。」
「わかりますか?」
「何となくね。雰囲気からするとエルフか、もしくはハーフエルフとかじゃないかしら?」
うん、やっぱり侮れないかもしれないな。
「まぁ私自身こんなだから人の事をとやかく言う事はないわよ。事情ってものがあるんでしょうしね。」
「そうですね。そう言えば俺のこと何も言ってませんでしたけど?」
「う~ん、それねぇ。何か他の人と決定的に違う点があると思うだけど、それが何かわからないのよねぇ。お姉さんこんなの初めてだわ。俄然興味が出ちゃう。」
「え~っと、秘密があった方がミステリアスな感じしません?」
「やだ、言うわねぇ。焦らすのが得意なのね。」
「まぁベティーさんにはお話しした方がいいかもしれないですね。」
「あら、そう言ってもらえると嬉しいわ。なんだか認めて貰えたみたいだし。」
そんな会話をしている内にブランの採寸も終わった。
「じゃあ全員分の採寸は終わったわ。これからどうしましょう?」
「出来れば早めに作り始めて頂けるとありがたいです。俺達も予定してることが色々あるので。」
「そう、じゃあまずはどんな服にするのかの打ち合わせをしないといけないかしら。それぞれの希望とかはあるのかしら?」
「俺はダイゴに任せる。」
「わしもじゃな。」
ガイとブランはそう言った。そう言うと思ってたよ。
「シータも特に希望はなさそうな気がするかな。アリアはデザインとか気にするかも。」
「じゃあ、私とダイゴさん、後アリアちゃんで打ち合わせでもしましょうか。どこかでランチでもしながらしましょう。」
「わかりました。」
俺達はそう言って一旦店の方に戻ってアリアとシータに今の話を伝えた。
それから俺とベティーさんとアリアでご飯食べに出かけた。残りの3人とはゾランさん所へ行ったり別で飯を食べに行ったりするみたいだった。
店から出てベティーさんお勧めのご飯屋さんにやってきた。冒険者用と言った感じではなく、少し洒落た感じのお店だった。ベティーさんは良く来るのか店の人と挨拶をかわしていた。俺達は一番奥の席に通された。周りには客もいない、落ち着いて話できそうだ。
「それでダイゴっちはどっち狙いなの?」
席についてメニューを頼んですぐ口を開いたベティーさんの第一声はそれだった。
「どっちってどういうことですか?俺がアリアかシータを狙ってるってことですか?」
「んもう、そんな訳ないでしょ。ガイガイかブラランの事でしょ。」
ってかどういう呼び名なんだろうか。
「何のことですか?」
一応とぼけてみる。
「ふっふっふっ、私の目は誤魔化せないわよ。ちゃんとダイゴっちの事わかってるんだから。」
そんなことを肉食獣が獲物を狙う時の様な目をして言うベティーさん。
アリアがまた俺とベティーさんの顔を交互に凄いスピードで見ている。うん、これは誤魔化し切れないんだろうな。
「絶対に言わないでくださいよ。どっちかって言うと難しい所ですね。」
「あら、どっちも狙い?ってもう実は関係があったりするのかしら?」
「いえ、ダイゴ様はヘタレなので。」
「なんでアリアが答えるんだ?」
「そうなの、ヘタレなのね。」
「ってなんでその言葉をベティーさん知ってるんですか?」
「何となく、言葉の響きで分かるわよ。」
「さいですか。しかし良く俺のことわかりましたね。」
「見てればわかるわよ。私に会った時にも動じなかったし。ガイガイやブラランの採寸してる時に2人の事ガン見してたじゃない。そんなの見ちゃうとね。後は同じ匂いを感じたってことかしら。」
俺そんなに見てたかな。だってなかなか薄着になってる所も見ることないんだぜ。当然じっくりと見ようとするだろう。俺は悪くない。
【観察眼】も持ってるしな。それにこっちの人ってお仲間を感知する能力はケタ違いに持ってるっていうし。
「しかしよくこの場で話そうと思いましたね。アリアもいるのに。」
「それも丸わかりよ。興味津々っていう事がね。」
「とりあえずこの件は内密にお願いします。」
「わかってるわよ。他に言われるの嫌なことぐらい重々承知してるもの。」
「何かあったんですか?」
「そうね、色々あったわ。私の様にオープンにしてる人って少ないしね。色々言わたりしてきたものよ。」
「それでもそうしてるって何か理由でもあるんですか?」
「そうねぇ、じゃあ少し私の話をしましょうか。
私は昔冒険者をしてたの、Aランクでパーティのリーダーもしてたわ。あっ、その時はこんな感じじゃなかったわ。よくいる冒険者って感じだったのよ。ただその時も自分のタイプの事にはちょっと悩んでたの。女性じゃなくて男性に目が行ってたし。
それにね、自分のパーティにすっごくタイプのナイスガイがいたのよ。ヴィンセントって言うんだけどね。すらっと背が高くてきれいな目をしていたわ。とっても気さくで誰にでも優しかった。好きだった。でもね、打ち明ける勇気なんて私にはなかった。
ある時モンスターの討伐の依頼を受けた時だったわ。ちょっとした油断だったのよ、倒したと思ったモンスターがいきなり起き上がって襲ってきたの。とっさだったから私動けなかった。そしたらね、そのヴィンセントが私の事庇ったの。そして致命傷を負った。彼を抱きかかえたわ。彼ったら私の手の中でドンドン冷たくなっていくの。私は泣いたわ、とってもね。すると彼は私が助かってよかったと笑って逝ったの。涙が止まらなかったわ。暫く何もできなかった。好きな人を失うってこんなに辛いことなんだって。それに人ってこんなに簡単に死んでしまうんだって。だから思ったの、私もいつこうして死んでしまうかもしれない。だったら自分のやりたいことをやって生きようって。後悔しないように生きようってね。
だから私はこうして好きなカッコをして、好きに生きようって決めたの。好きなら好きって言葉に出そうってね。それからやってみたかった服を作る仕事についたの。
今は毎日が充実しているわ。人に何か言われても気にならなぐらいにね。」
「そうだったんですか。」
「うぅっ。」
アリアがベティーさんの話を聞いて泣いている。
「だからっていう訳じゃないけど、思いを伝えることは必要かもしれないわよ。いつどうなるかも知れないしね。」
「それはそうなんですけどね。ただやっぱり、怖いというかなんというか。
仮に思いを伝えて受け入れられなかった時、その後ずっと一緒に旅をしたりするって言うのは辛くないですか?」
「まぁそれはあるわね。あの2人はどんな感じなの?」
「う~ん、どうだろう。ガイの方はなぁ、見込み薄い様な気もするかな。ブランの方は命の恩人みたいなのを俺に感じてるから受け入れてくれるかもしれないけど、俺が望むのはそう言う感じでもないんだよな。」
「そういう感じって言うのは?」
「その、恩があるからというんじゃなくて、俺自身の事を好きになって貰いたいってことかな。今は俺がそう言ったからそうします、みたいな感じなんだよな。ブランから求められるって感じではないかな。」
「ダイゴっちは純愛タイプなのね。」
「純愛って言うんだろうか・・・。」
そんな話をしていたら、店員さんが頼んだ料理を持ってきてくれた。一旦会話を打ち切る。しかしなんて話をしてるんだろう。なぜこんな話を普通にしてるんだ。何だろう、ベティーさんが話しやすいんだろうか。バロンさん時と同じかな。人生経験豊富な人には色々と話しやすいってところか。
しかし純愛なんだろうか。その割にハーレム作りたいとか思ってるけどね。肉体関係だけのハーレムなら奴隷でも買って作ったらいいんだろうけどなんか違うんだよな。そこに気持ちがないって言うか。ラノベとかで読んだのは大体主人公はモテモテで、好かれてハーレムを形成してるって気がするんだけど。まぁラノベと比較しても無駄か。男だけのハーレム作るラノベの話なんて読んだことないしな。
「ある意味割り切っちゃうような人もいっぱいいると思うわよ。情とか恩でも自分の事を受け入れてくれるんだったらとかね。」
「それは何か違うと思っちゃうんですよね。」
「恋愛観なんて人それぞれだからね。ダイゴっちがそう思うならそうなんでしょうね。
上手くいくといいわね、お姉さん応援するわ。」
「ベティー様って好きな人とかいないんですか?」
アリアが質問する。
「ベティーちゃんでいいわよ。今はいないかな。私もどっちかって言うとちゃんと恋愛したいタイプかな、まず私の事を受け入れられるような人じゃないとね。」
「その割にそそるとか平気で言ってるような気がするんですけど。」
「それはそれよ。もしかしてそれで興味持ってくれるかもしれないでしょ。そんな事言ってても身持ちは固いんです~。」
ってよく考えてみるがこんな話をしていてもホントにいいんだろうか。誰も興味沸かないような話の気がするけど。
「というか、服を作る話をしませんか?その為にここに来たんじゃ?」
「えぇ~、服の話だったら仕事場でやった方がいいわよ。他の仲間に聞かせられないような話だと持って場所を移したのに。」
「そっちがメインだったんですか?」
「そうよ、重要な事でしょ。聞いておかないと、もし私がガイガイやブラランにちょっかいかけたらいい気しないでしょ。」
「まぁそれはそうですけど。」
「それと、ダイゴっちに何かあるって言うのは話して貰えるのかしら?」
「そう言えばそうでしたね。ベティーさんにだったらもう言ってもいいかと思うんですけど、俺って勇者なんです。それで色んなスキルが使えるんですよ。だからさっき言ったような服とか作れるんです。」
「そうだったのね。そう言えばかなり前に勇者がこの世界に召喚されたとか話題になったわね。」
「まぁそこまで秘密にしていることではないので、バレたらバレた時なんですけど。
さっきの件の方がよっぽど秘密にしていてもらいたいです。」
「そちらの方が秘密にしないといけない事なんですね。」
アリアがそう言った。そりゃそうだろう、勇者であることはいつかは公表することになるけど、男が好きってことはわざわざ公表する必要はない。俺は良いけど、一緒にいる人がそう思われるのは嫌かもしれないし。
「大丈夫、どっちも秘密にするから安心して。」
ベティーさんはそう言ってウィンクした。
お読み頂きありがとうございます。




