迷宮攻略48
神との戦闘です。
「では流石にこんなところで戦う訳にもいくまい。ついてまいれ。」
そう言って【青龍】は席を立ち歩き始める。
俺達もそれに習い、席を立ち後に続く。
しばらく庭を歩いて行くと扉があった。しかしどう考えても家の中に入る玄関扉にしか見えない。【青龍】は当たり前の様に扉を開き中に入る。俺達も続いて入るがそこでまた驚くことになる。扉を開けて入った先には広い空間が広がっていた。以前に【ガイアドラゴン】が安置されていた場所の様な神殿風の場所だった。ただ広さはそこよりも更に広かった。
俺たち全員がその場所に入り扉を閉めると扉は最初からなかったようにその姿を消した。この場所に転移でもしたってことだろうか。まぁ目の前にいるのは神様なんだから何が起きてもおかしくはないんだけど。
「ここならば多少暴れても問題なかろう。」
【青龍】は髭を撫でつけながら言った。
「それでどうする?お主達全員で掛かってくるか?」
「いえ、俺1人でやります。」
「おいっ。」
【青龍】の言葉に答えた俺に声を上げるバロンさん。
「少しだけ仲間と話をしてもいいですか?」
「構わんよ。」
俺は【青龍】許可を取り、仲間と一緒に少し距離を離す。
「どういうつもりだ?」
バロンさんが距離を離した瞬間に聞いてきた。まぁ言いたいことはわかるんだけど。
「バロンさんと、後ガイが言いたそうなことはわかります。【青龍】と、いや神と戦いたいんでしょ?」
「当たり前じゃないか。こんな機会滅多にないぞ。」
「やっぱり。別に神を倒すのが目的じゃないんですよ。」
「そりゃそうだが。どこまで出来るか試してみたいじゃないか。」
「その気持ちもわからなくはないんですけど、今回は髭を切るっていう目的がはっきりしている訳です。戦うのならばみんなの力を貸して貰った方がいいと思いますよ、当然。だけど今回の件については戦闘とはまた違ったことなんですよ。絶対にバロンさんとガイは相手を倒しにかかるでしょう?」
「いや、まぁ倒してから髭を切ったらいいんじゃないかとは思ってる。」
「流石にそれは無理でしょう。」
「しかしお前1人で何とかなるのか?」
ガイが聞いてきた。
「一応考えてることはある。とりあえず試してみるだけだな。」
「そんなことで大丈夫なのか?」
「駄目なら他の手を考えるだけだ。別に何度挑戦しても問題ないだろうし。」
「そうなのか?」
「向こうは髭を切られたら試練を乗り越えた認めてくれるんだろ?【青龍】は髭を守るだけだ。俺を殺そうとしたりはしないだろう。そう言う話はしてないし、俺もそんな約束してないし。時間制限だって決めてない。」
「そんな話が通ると?」
「俺は通ると思ってるよ。じゃなきゃ最初から話なんて振ってこないと思ってるもん。
多分今まで暇だったんじゃないかな?だから俺達と話をしたり、試練の内容を決めさせてくれたりしたんじゃないか。それなりの暇つぶしだと思ってたりするんじゃないかと思ってる。」
「そんなことが。」
「俺の予想だけどね。キュクロさん見ても思ったけど意外に神様ってやることないんじゃないかな。それで暇してる。そこに付け入る隙があるんじゃないかって思ってる。こういうのは最初が肝心だから。同じ手は2回は通用しないと思う。だからもし俺の案が失敗したら次からは倒しに行くぐらいじゃないといけないだろう。その時には皆にも手伝ってもらう事にするよ。」
「そうか、まぁお前に考えがあるなら任せるか。どちらかというと失敗して手伝う事になる方が面白そうだがな。」
「ありがとうございます。そうならないようにはしますよ。」
バロンさんにそう答えた。他の皆も特に異論はないようだ。上手くいくといいんだけど、やるだけやるだけだ。
「お待たせしました。」
俺はその場から【青龍】の方へ近づいてからそう伝えた。
「もうよいのか?お主1人戦う事を決めたようじゃな。」
「はい、よろしくお願いします。」
「うむ、ではお主の力を見せてみよ。」
【青龍】はそう言うと宙に浮かんだ。特に魔法を使ったとかそういう事ではないみたいだけど。そのまま宙を昇り、10m位の高さで止まる。するとその体が光に包まれる。その光は長く伸びていき、形を作る。光が消えるとそこには30m位の体長を誇る龍が浮いていた。
今まで見た龍やドラゴンとは違う。東方の龍の様な姿形だったが、鱗は青く宝石の様に輝いていた。頭に生えている角も立派なものだった。何だろう、願い事を言ったら叶えてくれそうだな。
「いつでもかかってくるがよい。」
【青龍】はそう俺に告げた。声は老人の時と変わりない。どっから出してるんだろう。
そんなことはいいか。俺はそう思ってスキルを使う。
俺の横には俺と同じ姿をしてもう1人の俺が現れる。
「ほう、分身か。」
【青龍】が一目見てそう言った。
「えぇ、じゃあ行きます。」
俺はそう言うと、隣にいた分身体が【青龍】に向けて走り出した。
まずは様子見だよな。
分身体には剣と盾を持たせている。スキルも【断罪】と【絶対防御】を持たせている。一応どんな物も斬れて、どんな攻撃も防御できるってことだ。
「どれ。」
【青龍】がそう言うと、【青龍】の周りに水の塊がいくつも出来た。そしてその塊が分身体に向かって放たれる。分身体は迫りくる水の塊を避けたり、剣で斬ったりする。しかし水を斬った所でさほど意味はない。塊を細かく出来る訳ではない。分身体は足を止め、一旦後ろに下がる。水の塊は分身体を追ってくる。
「【炎の壁】」
俺が魔法を唱え分身体の前に炎の壁が出来、迫りくる水を蒸発させる。
やっぱり水って厄介だな。不定形だからどんな形にも変えれるし、剣で斬っても意味ないもんな。凍らせようにも多分俺の力では難しいだろうな。相手は神だし、いくらスキルレベルがマックスだって言っても同じ水を操ったりする能力は向こうの方が上だろう。他の力を使うしかないか。
「【炎の嵐】」
俺が魔法を唱えると【青龍】の下から竜巻が起こる。徐々にその大きさを増していき、【青龍】の体を包み込むほどの大きさになる。そこで終わりではない、竜巻から炎があふれ出し真っ赤な色へと変貌していく。
これも前に作った複合魔法の1つだ。火と風の魔法を組み合わせてある。竜巻で敵の動きを封じ、閉じ込めた相手を焼くという魔法だ。
「ほう、なかなかの魔法じゃな。」
どこからか【青龍】の声が聞こえる。こちらに直接話しかけてるってことなんだろうか。今の言葉にも焦りの色は見えない。まぁ俺も当然こんな魔法でどうにかなるとは思ってないけどな。
次の瞬間に炎の竜巻は弾け飛んだ。中から大量の水が溢れてきた。竜巻の中に大量の水を作って物量で消し飛ばしたのか。だが。
【青龍】が上を仰ぎ見る。【青龍】の上には分身体が剣を構えて落下してきている。先程の【炎の嵐】は単に目くらましだ。こちらを視認できなくなった瞬間に分身体は空を駆けあがり始めた。俺が風魔法で壁を作りそれを駆けあがったんだけどな。そして【青龍】の上から勢いを付けて一気に降下してきた。
「先程のは目くらましか。しかし残念なことに影が出来ていたことに気付かんかったようじゃな。」
【青龍】はそう言った。恐らく【青龍】の顔に分身体の影が掛かったんだろう。それで【青龍】は分身体に気付いたってことか。
【青龍】は水の塊をまたいくつも作り、突進してくる分身体目掛けて放つ。空中であれば避けれないと思ったのか。
まだだ。
分身体の体が一瞬で消える。そして【青龍】の顔の上に現れる。分身体には【闇魔法】も持たせてある。【影移動】で一瞬にして【青龍】の顔に移動したんだ。影が出来るのは元々折り込み済みの作戦だ。
貰った。
そう思い分身体は剣を振るう。後少し、と思ったところで凄まじいスピードで【青龍】が動く。首を動かし寸でのところで分身体の剣は空を切ることになった。
ヤバいと思って分身体に【影移動】を使わせて俺のところまで戻らせる。
その次の瞬間に分身体のいた場所を【青龍】がバクンと嚙みついた。
「そこまでしますか?」
「少し焦ったわい。それに分身の方じゃろ?」
う~ん、ちょっと怒らせてしまったっぽい。良い線は行ってたと思ったんだけどな。もうちょっとこっちに気を引いておかないといけなかったな。向こうも髭が狙われてるって言うのが分かっているし、もっと別の事に気を取らせてる間に狙わないと難しいか。しかし同じ手は通用しないだろう。だがそれを逆手にとれば・・・。
そんなことを考えていると【青龍】は体の周りに水の膜を張った。
「それは卑怯っぽくないですか?」
「いや、これも試練じゃよ。見事突破してみせよ。」
俺の非難の声もあっさりスルーされる。あの水の膜を突破しないといけなくなった。
【青龍】の体から10m位離れた所に水の膜を張られた。こうなるとあの水の膜を何とかしないと【青龍】に近付けもしなくなってしまった。【影移動】でその水の膜の中に移動できればいいが、多分膜の中に影が出来ない様に光の屈折なんかを変えてるみたいだ。【影移動】も封じられたか。
「じゃあその水の膜を突破したら試練合格に変えて貰えませんか?」
「そちらが提案した試練なんじゃ、変えはせんよ。」
「いや~、それを突破するのってかなり本気出さないといけない気がするんですよね。俺の全力ぐらいになりそうなんで。」
「ほぉ。だとしたらわしの方も力をあまり抜けんな。もし突破出来たのであれば少しぐらい隙は出来るかもしれんぞ。」
「本当ですか?じゃあ、ちょっとばかり時間を頂いてもいいですか?」
「何をする気じゃ?」
「俺のとっておきです。」
「まぁいいじゃろう。どんなことをしてくるのか楽しみじゃ。」
俺は分身体を消す。そして集中して周りの魔素を吸収する。回復に集中すれば色んなスキルを持ってる俺なら直ぐにMPを回復できる。
何とかMP上限近くまで回復出来た。
「じゃあ、どうなっても責任とれませんからね。」
俺はそう告げてからまた集中する。
そして言葉を紡ぐ。
「全てを焼き払う炎よ
その大いなる力を持って我が道を切り開け
全たる力を持ち かの地より顕現せよ
【炎神降臨】」
お読み頂きありがとうございます。




