迷宮攻略44
少し短めです。
92階層のボス部屋に入った。
部屋の作りは先程より大きな部屋になっていた。しかし柱や壁なんかに差はなく、少し広くなったなと言ったぐらいの感想だった。
俺達が全員部屋の中に入ると、入ってきた扉が自動的に閉まる。
それから部屋の中央に魔法陣が描かれて光が集まる。ここの階層はどんな敵が出てくるのか。
そう思って魔法陣の中を注視する。
光が集まって出てきたモンスターは俺が初めて見る奴だった。
フォルム的にはトカゲの様な姿をしていた。体長は3m位。ただトカゲとは違ったのが体に鎧の様な物を纏っているという事だ。一応はあれは外殻かなんかなんだろうが、鱗じゃない感じだしな。結構固そうだ。でもまぁ【玄武】なんかを倒してきた俺達にとっては大したことのない相手の様に見えるんだけど。
「あぁぁぁぁっ、まさか・・・。」
俺がそんなことを思っているとブランが声を上げた。
俺がブランと出会ってから今に至るまで聞いたことのない様な声だった。驚きと悲壮がまじりあった声とでも言えばいいんだろうか。
なんだと思ってブランを見ると顔面蒼白でガタガタと体を震わせていた。
ブランのこんな姿を見たことはない。
もしかして出てきたモンスターは洒落にならないぐらい強いんだろうか。
そう思って俺は【鑑定眼】で確認する。
名前:キングバジリスク
種族:バジリスク族
レベル:100
スキル:
【土魔法 LV.10】
【強化外殻】
【腐食ブレス】
【石化ブレス】
【麻痺ブレス】
【邪眼 LV.5】
【腐食無効】
【石化無効】
【麻痺無効】
ステータスを見ると厄介なのは厄介な奴だと思う。状態異常のブレスを3つも持っていた。ブレスだとかなり広範囲に巻き散らかせることが出来るだろうしな。
ただ俺には通用しないし、俺とアリアが支援魔法で無効化することが出来る。
ブランがこんな風な感じになるような敵ではないと思うんだけど。
そこで俺は1つの考えに辿り着く。
「アリア、あいつの攻撃方法のほとんどが状態異常のブレスだ。皆に状態異常無効の支援魔法をかけろ。」
俺はすぐさまアリアに指示を出す。
俺の言葉を聞いてアリアは直ぐに皆に支援魔法をかけ出す。
その間もブランは焦点が定まらない目で【キングバジリスク】の方を見ている。
「ブラン、大丈夫か?ブラン。」
俺はブランに呼びかけるが、ブランからの反応はない。【キングバジリスク】を一目見てからずっとこの調子だ。
「とりあえず奴の気を引いておいてくれ。絶対に倒さない様に。」
俺は【念話】でブラン以外の皆に指示を出す。
「倒さない様にってどういうことだよ。」
バロンさんが文句を言う。
「申し訳ありませんが頼みます。」
俺は力強くそうお願いする。
「わかった。」
バロンさんは俺の方をチラリとみてそう言った。
それから俺はブランの目の前に回って膝をつく。
そしてガバッとブランの事を抱きしめる。
「ブラン、よく聞いてくれ。大丈夫だから。」
【念話】ではなく直接声に出してブランに伝える。
「今は仲間もいる。俺もいる。それにブランは強くなった。だから大丈夫。」
俺はもう一度優しい声でブランに伝える。
多分目の前にいる【キングバジリスク】というモンスターが、俺と出会う前のブランの両手を奪ったモンスターなんだろう。そうでなくてはブランがこんなことになるとは考えらない。ブランにとって【キングバジリスク】は一種のトラウマなんだろう。
仲間を殺され、自分も殺されかけ、そして両腕を失うことになり絶望の淵に追いやられた相手。その相手が目の前にいきなり現れたんだ。もちろん、ここは迷宮だから同じモンスターではないだろう。だがブランの目にしたら同じ奴に見えるんだろう。
俺はもう一度ブランの事をギューッと抱く。
役得役得・・・、じゃなくなんとしてでもブランに落ち着いて貰いたい一心だ。
ギュッと抱いていた俺の背中にそっとブランの腕が振れるのが分かった。
俺は抱き着いていた体勢から自分の体を離し、ブランの顔を正面から見る。
ブランの顔を見ると先程の表情とは違い、いつものブランの顔に戻っていた。
「主・・・。」
「大丈夫?」
「えぇ、ご心配をおかけしましたわい。」
「ならいける?奴を倒そう。」
「えぇ。」
それを聞いて俺はブランの前から立ち上がった。
振り向くとガイ達が散発的に攻撃をして【キングバジリスク】の気を引いてくれていた。
「皆ありがとう。後はブランに任せてくれ。」
俺は【念話】で皆にそう伝える。
「【岩の巨人】奴を倒すんじゃ。」
ブランは既に魔法を使って岩の巨人を地面から呼び出していた。
今回は5m程の大きさの岩の巨人が【キングバジリスク】に向かう。ガイ達はそれを見て、【キングバジリスク】から距離を離す。
【キングバジリスク】は迫ってくる岩の巨人に向けて石化ブレスを放つ。しかし岩の巨人にはそんな物通用しない。それが分かったのか今度は地面から岩の槍を生やして岩の巨人に攻撃する。
しかし岩の巨人はお構いなしに、地面から生えた岩の槍なんかを蹴飛ばし、粉砕しながら突き進む。
そして【キングバジリスク】を捕まえる。
腕を【キングバジリスク】の首に回した。そして捕まえていない方の手で【キングバジリスク】の顔をガンガン殴っていく。凄まじいパワーの岩の巨人に捕まえられて【キングバジリスク】は逃げられない。更に顔を何度も殴られているんだ。何十発か殴られると【キングバジリスク】も伸びたのかバタバタ動いていた手足が力なく垂れさがった。
その【キングバジリスク】を地面に仰向けに叩きつけ、岩の巨人は渾身の力で【キングバジリスク】の腹を殴りつけた。一撃を受けた【キングバジリスク】はくの字に折れ曲がる。岩の巨人が叩きつけた腕を戻すと【キングバジリスク】も元の体勢に戻りながら姿を消していった。
「やったな。」
俺は笑顔でブランに言った。
「はい、やってやりましたぞ。」
ブランも笑顔で俺に言い返した。
そうして2人で皆との所に歩いて行った。
「皆俺の無茶な頼みを聞いてくれてありがとう。」
俺はガイやバロンさん達にお礼を言った。
この敵はブランが倒さないといけないと思ったから、皆には注意を引いてもらうだけにしておいた。落ち着くだけなら出来たかもしれないが今後同じ敵に出くわせる可能性はある。
トラウマを乗り越える為にもブランに倒して貰いたかったんだ。大分荒治療かもれいないけど、ブランだったら出来ると思ったんだ。
「バロン殿、あやつの事を譲って貰ってすまなんだ。」
ブランもバロンさんに向かってそう言った。そう言えば敵を倒したがってたもんな。
「いや、いいってことよ。」
バロンさんはニヒルな笑顔でそう言った。
多分何となくわかったんだろう。ガイの方は説明しなくてもわかってるだろうし。シータとアリアは空気を読んでくれたってとこかな。
「それから主。あなたにはまた救われました。ありがとうございます。」
「いや、そんなことないよ。ブランが自分で乗り越えたからだよ。」
「いえ。もしわしだけじゃったら。前と同じように立ちすくんで何もできなかったでしょう。
現にあいつの姿を見たわしは指一本動かせなんだ。
それを主が落ち着かせて下さったんじゃ。
ただ、いきなり抱き着かれるとは思いもよりませんでした。」
「あぁ、御免ね。声を掛けても反応なかったから。
とりあえずびっくりするようなことが起きたら意識をこちらに向けさせることが出来るかと思って。
それに人の体温とか鼓動の音なんかは人を安心させるみたいだからね。」
「そうじゃったんですな。
確かに驚きましたわい。」 (ピカッ)
「そっか、効果があってよかった。
でもいきなり俺に抱き着かれるなんて嫌じゃなかった?」
「そんな事。それはわしの台詞ですじゃ。
安心させる為だとは言うてもこんな毛むくじゃらに抱き着くなんて嫌ではなかったですかの?」(ピカッ)
「俺はそんなこと思わないよ。むしろ・・・。
いや、ゴホン、何でもない。」
「確かにこうして他の人の体温や息遣いというのを感じると心落ち着くものですな。」
「そうだね、特に好きな人とか親しい人とかだとより安心できるかもね。」
「なるほど、わしも主にそうして貰ったから効果があった訳ですな。」
「それってどう言う意味だろう?」(ピカッ)
「いや、なに。わしにとって主はその全てという事ですじゃ。」
「えっ?」(ピカッ、ピカッ)
って言うか後ろで何度も回復魔法で鼻血を止めてるアリアがうざい。回復魔法使った時の光がピカピカ鬱陶しいんだけど。人が折角いい雰囲気出してるのによー。怖くて後ろ振り返れないんだけど。どんな顔してこっちを見てるんだか。
それにしてもどういう意味でブランが言ってくれてるのかが分からないんだよな。深く考えない方がいいんだろうか。
まぁでも今回はハグ出来ただけでいいとしよう。なんか久々のご褒美な感じだった。
うん、元気出た。これで100階層まで問題なく進める気がする。
「じゃあ先に進もうか。まだ先は長いしね。」
「そうですな。行きましょうぞ。」
俺とブランはそう言って先に進むことにした。
ガイやバロンさん、シータは暇そうにして待っててくれた。
アリアは・・・。なんか幸せそうな顔してたな。
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