迷宮攻略29
地上に降り立った【火龍】は皆を警戒しながら次の行動を考えている様だ。
空中戦を得意とした【火龍】が地上に下ろされたんだ、当然だろうな。
【火龍】の攻撃方法として火炎のブレスか、火魔法、毒爪、噛み付く位だろうか。しかし毒爪は地上で足を着いた状態で使うのは難しいだろう。空中から襲い掛かる時に使った方が効果的だ。という事はこちらが警戒するのはブレスと魔法、噛み付きぐらいか。ただいきなり死に物狂いで突進ととかされても対処が難しいかもしれない。地上をどれぐらいのスピードで走れるかもわからないし。
「シータさん行きますわよ。ブラン様もお願いします。」
そんなことを考えているとアリアがシータに声を掛けた。アリアが自分から戦闘中に指示を出すなんて珍しい。
「姉様わかった。」
「おう、了解じゃ。」
アリアの言葉にシータとブランが答える。
そしてシータは【火龍】に向かって走り出した。今回は気配を消してないみたいだ。しかも走るスピードもそこまで早くない、目でしっかり追える程度だ。囮になって【火龍】を引き付けるつもりか?
「【岩の巨人】」
ブランがの言葉を受けて近くの地面が隆起する。そして地面と言うか溶岩が冷えて固まった岩が寄り集まり形作られていく。
出来上がったのは身長が15m程の岩の巨人だった。初めて見る人形だった。今までブランが作った人形とは姿が大きく違っていた。その姿は筋骨隆々の巨人そのものだった。
今までの人形は岩が寄せ集まってできたごつごつとした姿だったが、今ブランが作り出した人形はまるでそう言うモンスターかと思うほどの見た目をしていた。肌と言うか表面は色こそ岩のそのままの色をしていたが、滑らかで岩から作られたようには見えない。筋肉の張りもある様に見える。この人形が最初からいたら、人形とは思わずそういうモンスターなんだろうなと思えるほどだ。
人形ってここまで姿を人と言うかモンスターに近い姿にすることが出来るんだって思った。
ただもちろん姿形が今までの人形と異なるってことだけじゃない様だ。内包する魔力と言うか魔素の量が尋常じゃないことが分かる。ブランもいつの間にこんなことが出来るようになっていたんだろうか。
完成した岩の巨人に【火龍】も気付いた様だ。自分と同じぐらいの大きさの巨人が現れたんだ、当然警戒する。しかし目の前にはシータが迫っていた。
シータはまっすぐに【火龍】向かって行き、そのまま飛び上がる。何を思ったか火龍の顔に突っ込んでいった。無策でシータが突っ込んでいったように見える。【火龍】も目の前にそんな相手が来たんだ、当然の様に大きな口を開けて空中にいるシータに牙を立てようとする。
俺はてっきりシータがププにでも頼んで空中を移動して避けると思っていた。しかしシータはそのまま【火龍】の口に突っ込んでいった。傍から見ていると自分から【火龍】に喰われに行っているとしか見えなかった。
バクンッっと音を立てて【火龍】がその口を閉じ、シータを飲み込もうとする。【火龍】の口の中にシータが飲み込まれた、そう見えたが口を閉じた【火龍】が不思議そうな顔して動きを止める。何が起こったんだろうと思ったら、【火龍】の周りに何人かのシータが現れた。【火龍】もその光景を見て驚いた様子でキョロキョロと首を動かした。
「【八岐大蛇】」
そこへアリアの声が響く。動きの止まった【火龍】へ向かって8匹の水で出来た大蛇が迫る。アリアの手からその水の大蛇は伸びている。【水の女王】を元にした魔法だろう。
水の大蛇はそれぞれ【火龍】の体に絡みついていく。閉じた口、首や足、翼にも絡みつきその牙を立てた。
「ブラン様。」
アリアがそう言って、ブランが作った岩の巨人に手に持っていた【八岐大蛇】の起点となる部分を渡した。
受け取った岩の巨人は力任せにその8匹の大蛇を引く。
岩の巨人の力の方が断然強いらしく、【火龍】は地面に引きずられる様に倒された。そして岩の巨人はそのまま水の大蛇を引っ張り【火龍】を凄い勢いで自らの方へと引きずった。アリアも当然水の大蛇を操作してるんだろう。恐ろしい勢いで【火龍】は地面を擦りながら引きずられていた。
水の大蛇に口を封じられている為に火炎のブレスを吐くことが出来ないが、火の魔法は使う事が出来るだろう。水の大蛇に向けて火の魔法を叩き込まれれば蒸発して消えてしまうかもしれない。だからそうなる前に巨人と大蛇を動かしているんだろう。
地面を凄い勢いで引きずられた【火龍】が岩の巨人のところまで来た。岩の巨人は【火龍】の首をムンズと掴んで引き上げる。
その瞬間に【火龍】は目の前に巨大な火の玉を作り出して岩の巨人にぶつけた。
【火龍】もこの瞬間を待っていたのかもしれない。近づいて一番火力が出るであろう時に、火の玉を作ってぶつける。自分は【炎熱無効】のスキルを持ってるから近くで炎が出来ても関係ない。そう思って使ったんだろう。
巨大な火の玉が岩の巨人にぶつかる。岩の巨人が炎に包まれる。
その炎を受けて水の大蛇達が蒸発して消えていく。
しかし岩の巨人が掴んだ【火龍】首を離すことはなかった。水の大蛇を持ってい手が空いたとばかりに、その手を握り【火龍】の顔に向けて拳を繰り出す。ゴッっと言う大きな音を立てて【火龍】の顔に岩の巨人の拳が当たる。まともに当たった拳で脳みそを揺さぶられたのか、【火龍】の顔がくたっと力なく垂れる。岩の巨人は殴った方の手で【火龍】の頭を掴み地面に叩きつけた。叩きつけた所にクレータが出来た。凄い力だな。【火龍】は既に意識がないのかピクリとも動かない。
「闘気解放・斬の型。」
ガイの言葉が響く。
いつの間にかガイは地面に倒れ伏した【火龍】の上にいた。
「【奥義・鬼神一閃】」
そう言葉を発し、ガイは持っていた剣を【火龍】の首に向かって振るう。その剣は赤い気を纏い、太刀筋には赤い残光を残す。音すらも斬った様にスッとガイの剣は【火龍】の首を通過する。そしてガイは剣を鞘に納めて【火龍】の体から降りる。そこで初めて【火龍】の首がガイの剣を振るったところからズレた。【火龍】の体がスッと消えた。良く見るとガイが振るった剣の下の地面にも1本の線が入っていた。気を放った訳でもないのに地面までもさっきの技の余波で斬ったのか。
中ボスの【火龍】を倒した為か、【火龍】がいた所に転送用の魔法陣が現れた。やっぱりこいつを倒さないと次の階層へ進めなかったみたいだな。しかしボス部屋と違って前の階層に戻る事も出来るみたいだからまだましなんだろうか。でも前の階層に戻っても物量モンスターが待ってる訳だよな。どっちにしろ大変な事には変わらないと思うんだが。
しかし俺には皆に聞きたいことがいっぱいある。
ブランは岩の巨人を地面に戻している所だった。岩の巨人を見ると表面はどうにもなっていない様だ。あんな近距離で【火龍】の魔法を受けても傷もつかなかったのか。炎熱無効とかあるんだろうか。ここの場所で作ったから?それとも元々の防御力が高いとかなんだろうか。
後さっきシータが何人も現れた。恐らくだがあれはスキルの【影分身】だろう。俺もそのスキルがあるのは知っていた。【分身体】のスキルを見付けた時に一緒に見付けたんだ。
ただ【影分身】のスキルで作った分身体には実体がない。単なる虚像だ。だからその分身体で攻撃することは出来ない。その為俺は【分身体】を使う事にしたんだ。
だが【影分身】で作った分身体は魔素を表面だけに固めてるだけなので消費するMPもそんなに多くない。しかも気配なんかも付けれるので本物と見分けのつかないくらいだ。相手を翻弄するとかには丁度いいスキルだ。しかしそのスキルが使えるようになるってシータも段々幅広くなってきたな。最初は暗殺者方面に向かうかと思ったが今度は忍者みたいな方向性になって来てるな。
アリアが使った【八岐大蛇】と言う水の魔法を俺は知らない。俺が作った魔法でもないし、既存の魔法とも思えない。多分アリアが作った魔法なんだろう。俺もずっと【魔法作成】を使っていたからアリアが使えるようになっていてもおかしくはないが。いつの間に作ったんだろうか。
そしてガイとバロンさんだ。
なんだあの【闘気解放】って言うのは。なんか見てると色々な型があるっぽいけど。俺の知らない技術と言うか戦闘方法だったな。気を使ってあんなことが出来るのか。俺は魔法が使える分、気での戦闘はそこまでしないしな。後スキルを使っての戦闘も多い。だから気を使っての戦闘方法にそこまで執着がなかったというか、極めたり研究しようとは思わなかったんだ。それをあの2人はどうやって・・・?
「ともあれ、俺達だけで【火龍】は倒せたな。」
考え事をしていた俺にバロンさんが声を掛けた。
ふと見ると皆が俺の周りに集まって来ていた。
「あぁ、そうですね。凄かったですね。皆いつの間にあんな戦い方を?」
「それはまたゆっくり説明するとして、どうする?次の階層に進まずに一旦休憩するか?」
俺の質問にバロンさんはそう提案した。
「そう・・・、ですね。恐らく次は89階層までは休むことが出来ないかもしれません。
ここでなら安全に休憩できそうですし、少しゆっくりしましょうか。」
俺がそう答えると皆頷いてくれた。
そこで俺は土魔法と水の魔法を使って近くに簡易の休憩スペースを作った。
土魔法で岩を小屋の様にして、水魔法で氷を作り小屋を覆う。それを何層か作った。これでこの中だったら暑さを感じずに済むだろう。
皆でその中に入ってとりあえず飯でも食って落ち着くことにした。いつもの様にまた土魔法でテーブルや椅子を作って【倉庫持ち】から作っておいたご飯を出して並べる。なんだかこうしてご飯食べてるとホッとするな。
飯を食べて片付けをしてから皆のアイスマントを預かってまた氷冷魔法を魔石に一応チャージしておいた。これからもまだ同じ様な階層が続くだろうしな。出来る準備は今の間にしておいた方がいいだろう。
ある程度やることが終わったらバロンさんに話があると外に呼び出された。
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